ヒッグス粒子 根源の謎解明に少し近づいた

毎日新聞 2011年12月15日

ヒッグス粒子 来年の「発見」に期待する

素粒子の標準理論を構成する最後の「大物」素粒子の影が見えてきた。万物に質量を与えたと考えられるヒッグス粒子だ。

欧州合同原子核研究所(CERN)が、08年に稼働した「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の実験データを分析し、発見につながるヒントが得られたと発表した。

今はまだ、あるともないとも言えないが、観測データを増やしていけば、来年には決着がつくという。

発見されると、クォークや電子など標準理論を支えるすべての素粒子が出そろう。標準理論の検証は物質の成り立ちの理解につながるだけでなく、宇宙誕生直後の様子を知ることにもつながる。期待したい。

実は、ヒッグス粒子が発見されても宇宙のすべてを解明できるわけではない。今年のノーベル物理学賞の対象となった「加速膨張する宇宙」は、宇宙の96%が未知の暗黒物質や暗黒エネルギーに満たされていることを示している。その正体は標準理論では解明できない。

ただ、ヒッグス粒子の発見は、そうした謎を解く糸口になる可能性がある。万が一、「ヒッグス粒子はない」となったとしても、新たな理論の構築につながる。いずれにしても、来年の「発見」が楽しみだ。

日本とのかかわりにも注目したい。この粒子は64年に英国のヒッグス博士が予言した。その背景には南部陽一郎博士が提唱した「自発的な対称性の破れ」という現象がある。

宇宙誕生直後は質量のない素粒子だけが存在していた。ここに自発的な対称性の破れが生じ、質量が生じたと考えられる。ヒッグス粒子の発見は南部さんの理論を裏づける。

実験そのものにも日本は深くかかわる。今回のデータは二つの国際チームが別々に出したものだが、片方のチームに日本の科学者約100人が参加している。検出器にも日本の最先端の技術が使われている。

宇宙の大きな謎解きに日本も参加していると思うと、わくわくした気分になれるのではないか。

一方で、大型加速器実験に巨額の費用がかかることも確かだ。LHCの建設費は加速器と検出器を合わせて約5000億円。日本は約167億円を拠出し、検出器の運用費として年間約2億円を負担する。

知的好奇心を満たす純粋な基礎科学にどれだけ投資するか。財政が厳しい今の日本ではさまざまな見方があるだろう。しかし、人間の「知りたい」という欲求は根源的なものであるはずだ。

むしろ、厳しい時代だからこそ、科学の発見で人々を楽しませ勇気づける。そんな視点を持って来年の成果を待ちたい。

読売新聞 2011年12月15日

ヒッグス粒子 根源の謎解明に少し近づいた

宇宙の起源を知りたいという根本的な問いの答えに、人類が一歩近づいたのだろう。

宇宙誕生の直後、万物に質量を与えた「ヒッグス粒子」の痕跡を示す確度の高いデータが見つかった。

スイスにある素粒子物理学の国際拠点、欧州合同原子核研究機関(CERN)がそう発表した。

宇宙の成り立ちを説明する素粒子物理学の「標準理論」が存在を予言し、40年以上にわたり、世界の物理学者が探索してきた。

他の素粒子に質量を与える特質から「神の粒子」と言われるヒッグス粒子の最終確認に向け、データを積み重ねることが必要だ。

今回の発表は、CERNの大型実験装置で得た研究に基づく。

1周27キロ・メートルの円形加速器を使っている。この中で原子核を構成する「陽子」を光速近くに加速し、二つの陽子を衝突させる。

その際に出る高エネルギーで宇宙創成時の状態を再現し、飛び出してくる様々な粒子から、ヒッグス粒子の痕跡を探し出した。

CERNでは複数の実験グループが挑んでおり、今回は、東京大学など日本の研究機関が中心のグループと、欧米主体のグループがそれぞれ成果を上げた。

日本は長年、素粒子物理学をお家芸としてきた。

ノーベル物理学賞受賞者も1949年の湯川秀樹博士以来7人を輩出しているが、そのうち6人は素粒子物理学の分野からだ。

3年前に受賞した南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授は、ヒッグス粒子の役割に関し、理論的な土台を考案したことで知られる。

こうした研究者層の厚さが、歴史的な成果を生んだと言える。

宇宙や万物の根源の探求は続く。ヒッグス粒子はどのように生まれたか。素粒子ごとになぜ質量が異なるのか。宇宙の膨張にどう影響したか。謎はなお多い。

今後も日本の貢献が期待されている。研究者の奮起とともに、政府もこの分野に予算を投入したり、人材育成に対する支援を強化したりすることが大切だ。

日本にCERNを上回る規模の加速器を国際協力で建設する構想が浮上している。東日本大震災の被災地である岩手県などが候補地となっている。

ヒッグス粒子の解明を踏まえて、さらに研究を広げる国際拠点ができれば、復興へ夢と希望を与えることになろう。

経済への波及効果も大きいはずだ。政府として、積極的に後押しすべきテーマである。

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