毎日新聞 2011年12月13日
一体改革は必要だ 政治の真価問われる時
臨時国会が閉幕し税と社会保障の一体改革論議が本格化した。年内をめどに政府・民主党内で素案を作り、与野党協議を経て年度末までに関係法案を提出する。来春へのマラソン論争のスタート台に立ち、改革の必要性をいま一度考えてみる。
まずは財政だ。歳入部門で国債発行額(借金)が税収を超える異常事態が、2009、10、11年度予算と3年連続した。終戦直後の1946年度しかなかったことだ。
おかしくなってきたのは、バブル経済が崩壊した90年以降である。同年度予算では69兆円の歳出に対し60兆円の税収(国債発行額は7兆円)だった。だが、その後景気対策の乱発と社会保障費増で歳出が20兆円膨らんだのに対し、税収は逆に国内総生産(GDP)の伸び悩みと減税で20兆円縮んだ。都合40兆円の規律なき借金体質が構造化した形だ。
国債発行残高は、90年度166兆円から11年度667兆円(末見込み)と雪だるま式に膨れあがった。これに自治体や社会保障基金の借金も加えた一般政府ベースの公債残高の対GDP比率という数字がある。経済協力開発機構(OECD)が各国の財政悪化状況を比較するために発表するデータで、それによると、日本は212%と主要先進国(伊129%、米101%、仏97%、英88%、独87%)の中で突出、「未知の領域にまで急速に増加している」とのコメントまでついている。国債の国内消化率の高さを考慮したとしてもとても持続可能とはいえない。
最近のユーロ危機がその懸念を深めさせた。財政の悪化というスキにいかにグローバルマネーがつけこむか。国債の下落を機に経済、財政がいかに泥沼のサイクルに入っていくか。私たちはいやというほど学習したはずだ。日本もこれだけの借金を抱えている以上、ユーロの教訓も踏まえあらゆる状況を想定し国家財政への危機管理を強化すべき時期だ。
そのためには、財政の最大の膨張要因である社会保障制度も一体的に見直す必要が出てくる。現役世代が中心になって高齢者を支える日本の医療、介護、年金制度は、少子・超高齢化により制度的、財政的に維持不可能になりつつある。持続可能になるよう制度を再設計することは、国民に安心を与え、民間経済を元気にさせるためにも欠かせない。
危機管理も含めて財政の破綻を防ぎ、同時に社会保障の質をさらに充実させるために、消費税率の引き上げは避けられない、と考える。40兆円という構造赤字を放置するわけにはいかない。所得、法人税よりも引き上げ余力があり若い世代から高齢者まで広く課税できる消費税の引き上げが最もふさわしい。将来的には欧州各国並みに20%前後への引き上げが必要になるかもしれない。取りあえずは10年代半ばまでに10%に上げ使途を社会保障に限定する今回の改革の方向性に賛成だ。
持続可能な財政にするため国民には新たな負担を求めるが、それに見合った社会保障制度も構築する。この一体改革ほど優先度の高い政治課題はない。まさに「誰が政権を持っていてもやらざるを得ない改革」(野田佳彦首相)といえる。
もちろん、簡単な改革ではない。消費税をめぐっては「死屍(しし)累々」と呼ぶにふさわしい前史がある。政権崩壊のきっかけになった大平正芳首相の一般消費税選挙(1979年)、中曽根康弘首相の売上税国会(87年)にさかのぼるまでもなく、歴代政権が消費税問題でいかに傷つき、それがゆえに先送りしてきたか。
民主党内部でもすでに反対の動きが起きている。改革の必要性はわかっていても自分の選挙を考えると足がすくむ。そんな声をよく聞く。首相の最初の仕事は、この改革の必要性を政府与党として再確認することだ。熟議を尽くし徹底的な説得につとめることだ。政府与党が固まらないのでは話にならない。あくまで政策ベースで論じるべきであり、派利派略を持ち込んではならない。
重要なのは、4年間消費税率を上げない、とした09年マニフェストとの整合をどうとるか。財政の逼迫(ひっぱく)は09年当時からわかっていただけに根の深い問題だ。時の政権与党には、マニフェストとは別に時々の政治課題を解決する責任もある。要は、課題の重要性、緊急性、問題の所在に目をつぶっていたことについて説得力のある説明と謝罪をすることだ。
自民党にも言いたい。財政危機の深刻さを最もよくわかっている政党である。借金累積の真の責任者でもある。特に、バブル崩壊後の20年は、成長政策に失敗したうえバラマキを続けた。その自民党と連立を10年組んだ公明党も同罪だ。両党とも協議の土俵に上り、過去の政権与党としての見識を示すべきではないか。
欧米を中心に世界のあちこちで政治が力を失っている。本来国民に負担を求めるべき時にそれができない。マーケットの動きにも素早く反応できない。日本の政治もまさにその能力と真価が問われる局面に入りつつある。大切なのは、改革の必要性をわかっている国民は多い、という事実だ。政治家がどう説明するか、本当に覚悟があるのかを見ている。
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