欧州危機拡大 市場が催促する首脳の抜本策

朝日新聞 2011年12月13日

混迷の欧州 危機を封じる決断を

債務危機への対応策を協議する欧州連合(EU)の首脳会議は、またも中途半端な結果に終わった。

会議では、英国を除くEU26カ国で財政規律を高める新たな条約作りに合意した。「通貨はひとつだが、財政はバラバラ」というユーロの構造的欠陥を是正し、債務危機の再発を防ぐうえでは前進があった。

これは当面の危機対応にも一定の効果はある。欧州中央銀行(ECB)が金融システム不安やデフレ封じのために国債購入を増やしても、財政の尻ぬぐいと誤解される余地が減り、動きやすくなるからだ。

しかし、厳格な財政規律を作っても、各国の経済が不振に陥れば、財政を均衡させるのは難しい。経済力が弱い国では、賃金や福祉のとめどない引き下げを招く恐れもある。今ある地域間格差も是正されない。

となると、為替リスクがないユーロ圏内で、貿易や投融資で潤う強国が弱い国を支える仕組みを強化するほかない。

国債の代わりに、ユーロ各国が共同で発行する「ユーロ共同債」はそれにあたるが、独仏の反対で先送りされた。

なにより世界が首脳会議に求めていた足元の危機対応策が、力不足だ。

例えば、欧州版の国際通貨基金(IMF)といわれる欧州安定メカニズム(ESM)。財政難の国や経営不安の銀行を救う常設の「安全網」となる。発足は来年夏へ、1年繰り上げることで合意したものの、ESMがECBから資金を調達できるようにするというファンロンパイEU首脳会議常任議長の提案は実らなかった。

これまでユーロ圏が用意してきた危機対策はどれも資金不足が弱点だ。そこでESMが中央銀行と取引できるようにし、資金力や機動性を高める。それがファンロンパイ氏の提案だったが、ECBの信認低下を懸念するドイツが反対した。

そもそも、なぜ資金が集まらないのか。

大事なことは、危機対応で生じた損失はユーロ圏諸国が負担する決意を示すことだ。ここを改めれば、新興国を含め、世界が支援を惜しまないはずだ。欧州の政治指導者たちは順番を間違えていないか。

メルケル独首相は、「私たちは過去の過ちに学んだ」と胸を張った。しかし、原理・原則にこだわりすぎて、対応が後手に回っていることが過ちではないのか。

危機を封じ込めるために、思い切った決断が必要だ。

毎日新聞 2011年12月11日

欧州債務危機 まず目の前の火を消せ

何度、同じパターンを繰り返せば危機の収束をみるのだろう。

今年8回目となった欧州連合(EU)の首脳会議が終わった。“連続ドラマ”のテーマは「債務危機への抜本策」。今回も夜を徹した協議の末、何とか合意には至ったものの、抜本策はついに登場しなかった。

成果は、これまで以上に厳しい財政ルールの導入を決めたことだ。各国の財政赤字に法的拘束力の強いタガをはめ、違反国には制裁金を科す。金融業界への規制強化を懸念し反対した英国を除く国々で、来年3月までの条約制定を目指すという。

通貨統合を盛り込んだマーストリヒト条約の合意から20周年となった9日、当初からの欠陥を修正すべく財政統合に向けて歩みだしたことは、意義がある。だが、これでは燃えさかる家の前で、火事になりにくい住宅の基準を決めるようなものだ。市場が問いかけているのは、目の前の火の消し方なのである。

将来ではなく、現実に自力による借金返済が困難になってしまった国を、最後は誰がどうやって助けるのか、依然として見えないのだ。

ユーロ共同債の発行など、債務危機に陥った国の信用をユーロ加盟国全体で補う仕組みを決めるべきだった。だが、ドイツの強い反対が続き結論は持ち越された。

問題はこの繰り返しをいつまで続けられるかということだ。時間が経過するほど被害は拡大し、処理のためのコストも高くなっている。非現実的と見なされてきた「ユーロの解体」を想定した議論もここへ来て急に目立ってきた。

通貨統合の崩壊がもたらす影響はあまりにも大きい。ギリシャのような借金で身動きできなくなった国では、多数の金融機関が倒産し、経済は完全にまひするだろう。不安の連鎖で金融危機は欧州全域をのみ込み、さらに米国など域外にも連鎖する可能性が高い。

ドイツのように経済が堅固とされる国では、新通貨が高騰し輸出産業が立ち行かなくなるだろう。さらにユーロ建てで行われている域内外のさまざまな契約をどうするか、ユーロから新通貨への切り替えをどう行うのか、など複雑で困難な問題だらけだ。日本も含め世界経済は長く深刻な混乱と停滞から逃れられまい。何としても回避する必要がある。

欧州で燃えさかる信用不安の火を消すことができる“水”は、結局のところユーロ加盟国の税金である。ユーロを守るため、最後は互いの税金を投じて一国の落後者も出さない、との決意とその裏付けを示すことだ。市場に安心が戻れば、実際に必要となる資金は限定的なものにとどまるだろう。まだ間に合う。

読売新聞 2011年12月11日

EU首脳会議 金融不安の払拭にまだ力不足

ギリシャに端を発した欧州発金融危機を食い止めようと、欧州各国の首脳が薄氷の合意にこぎつけた。だが、金融不安払拭には力不足だろう。

ユーロ導入の独仏など17か国を含む欧州連合(EU)首脳会議は、厳しい財政規律を課する新条約を締結することで合意した。

新条約の参加国は「財政均衡」の原則を憲法に明記する。単年度の財政赤字が対国内総生産(GDP)比3%を突破した国には、自動的に制裁を発動する内容だ。

危機をもたらしたギリシャなどの放漫財政を教訓に、財政健全化を各国に義務づける方策は、ひとまず前進と評価できよう。

通貨は一つだが、財政政策は各国でバラバラだったことが、ユーロの根本的な弱点だった。

メルケル独首相とサルコジ仏大統領が主導して、予定通りに2012年3月までに各国が新条約に署名すれば、懸案の財政統合に向け、欧州統合は新局面に入る。

だが、新条約案に対し、非ユーロ圏の英国のキャメロン首相だけは、自国の財政主権を守る立場から参加を拒否した。独仏と英国の対立は、EU内の不協和音をさらけ出したと言える。

さらに深刻なのは、今回の首脳会議が、燃えさかる当面の危機を封じ込めるために必要な大胆な策を打ち出せなかったことだ。

会議は、財政危機国に資金支援する欧州版の国際通貨基金(IMF)とされる「欧州安定メカニズム(ESM)」について、予定を1年前倒しして来年半ばに発足させる方針で一致した。

IMFを通じて、財政危機国に最大2000億ユーロ(約21兆円)を貸し出す救済策も決めた。

だが、IMF活用案には、IMF最大出資国である米国が新たな資金拠出に難色を示すなど、実効性に疑問も残る。

ユーロ圏が共同で発行する「ユーロ共通債」も、ドイツの反対で合意できなかった。

何より、ESMの母体となる欧州金融安定基金(EFSF)の拡充が進んでおらず、危機対策の資金が十分確保できていない。欧州がEFSF強化に迅速に動くことが信頼回復に不可欠である。

世界の株式・為替市場や、格付け会社が、首脳会議の結論をどう評価するのかは不透明だ。市場では、欧州中央銀行(ECB)がイタリアなどの国債を大量に買い支えることへの期待があるが、ECBは慎重姿勢を崩していない。

危機克服への綱渡りを先導する独仏両国の責任は大きい。

読売新聞 2011年12月08日

欧州危機拡大 市場が催促する首脳の抜本策

欧州危機を収束できるかどうか、いよいよ緊迫の2日間を迎える。市場の信認を取り戻す抜本策が求められよう。

独仏などユーロ圏17か国を含む欧州連合(EU)首脳会議が、8、9日にベルギーで開かれる。欧州中央銀行(ECB)も8日、金融政策を話し合う。

欧州危機は、巨額の財政赤字を抱えたギリシャからイタリアに飛び火し、スペイン、フランスに拡大しつつある。深刻な事態だ。

会議を前に、米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、独仏など「トリプルA」の6か国を含むユーロ圏15か国の長期国債格付けを引き下げ方向で見直すと発表した。

さらに、6か国の保証を裏付けに欧州金融安定基金(EFSF)が発行する債券を格下げする方向も明らかにした。後手に回る政治の対応に不信を示した形だ。

欧州首脳らは、市場の警告を真摯(しんし)に受け止める必要がある。

危機収束策が不十分なら、S&Pは格下げに踏み切る。金融市場が一段と混乱し、危機国を支援するEFSFの機能も揺らぐ。負の連鎖に要警戒だ。

首脳会議の焦点は、ユーロを安定させる財政健全化策である。

メルケル独首相とサルコジ仏大統領は、財政赤字を対GDP(国内総生産)比3%以内に抑えるルールを破った国に自動的に制裁を科す方針で一致し、EU条約改正を会議に共同提案する。

放漫財政を食い止め、財政規律を強化するのは当然だ。独仏提案に沿い、欧州各国でバラバラだった財政の相互監視へ、明確な方針を打ち出してもらいたい。

何より必要なのは、危機拡大を防ぐ緊急措置だ。ユーロ圏が10月末に決めたEFSF拡大、ギリシャ債務削減、銀行資本増強はいまだに実施されていない。遅きに失する恐れがあろう。

これらの対策と連動し、ECBの役割がますます重要になる。

ECBは、イタリア出身のドラギ総裁が就任した直後の11月初め、2年半ぶりに政策金利を引き下げて年1・25%とした。

各国が緊縮財政に取り組むと、欧州景気は減速し、マイナス成長に陥ることが懸念される。景気下支えへ、ECBが追加利下げを検討する姿勢は歓迎されよう。

国債利回りの急騰を抑え、信用不安を沈静化するには、ECBがイタリアなどの国債を大量に買い支える措置も有効だ。

欧州が結束し、急いで行動することを世界は注視している。

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