東アジア共同体 開かれた地域協力を推進せよ

朝日新聞 2009年10月26日

東アジア 共同体をともに磨こう

東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の首脳会議、さらにインドや豪州などを加えた東アジア首脳会議がタイで開かれ、鳩山由紀夫首相が自らの東アジア共同体構想を説明した。

鳩山首相の強い思いは伝わっただろう。各国首脳の評価の声も寄せられた。今月初めの中国、韓国との首脳会議に続いて、鳩山首相の姿勢と構想へのアジア各国の理解は深まったのではないか。

ただしASEANには、東アジア地域協力の中核だとの自負がある。昨年から日中韓が集う首脳会議が始まったこともあり、地域統合をめぐる議論の重心が北に移るのではないかとの懸念が生まれている。さらには地域協力をめぐる日中の主導権争いや米国との距離感をめぐっての戸惑いもある。

鳩山首相は米国の関与を求めつつ、ASEANの協力を得て、価値観の異なる国も含めて域内対話を深める姿勢を示した。ASEAN側の懸念の解消につながることを願いたい。

欧州や南北アメリカなど世界の各地で地域統合の動きが進んでいる。東アジアでも共同体をという声が強まるのは歴史の流れともいえる。

その姿はまだ見えないが、欧州連合(EU)とは別の道をたどるということは共通理解といえるのではないか。

東アジアは政治体制や宗教、民族が多様で経済格差も大きい。こうした地域での共同体作りではASEANの経験から学べることが少なくない。

インドネシアやマレーシアなどが67年に創設したASEANは当初、反共連合の性格が強かった。その一方、対話を重ねる中で、資源や領土をめぐる相互の対立を乗り越えてきた。

冷戦の終結後は、社会主義国ベトナムや軍政のミャンマー(ビルマ)なども迎えて10カ国に拡大した。複雑な課題を抱える日中韓に一堂に会する場を提供した。「開かれた地域主義」に基づいて米国やロシア、北朝鮮などとも安全保障を話し合ってきた。

ASEANがこれだけ重層的な協力の枠組みを築きあげてきたのは、敵対や排除をするのではなく取り込んで話し合うことが、自らの安定と繁栄の基盤になると確信してきたからだろう。その実績は正しく評価されるべきだ。

ASEANは政治・安保、経済、社会・文化の各分野で15年に共同体の実現をめざす。地域機構としての充実をさらに図ってもらわねばならない。

ミャンマーの民主化をどう実現していくのか。今回、発足した政府間人権委員会を大きく育てていってもらいたい。食糧安保や貧困軽減、メコン開発など、地域が抱える課題解決の力もつけねばなるまい。

日中韓とASEAN。東アジア共同体の構築は、どちらの推進力が欠けても達成できないだろう。

読売新聞 2009年10月26日

東アジア共同体 開かれた地域協力を推進せよ

「東アジア共同体」構想は、鳩山首相が言明した通り、特定の国を排除しない「開かれた地域協力」の原則を堅持していくことが大切だ。

タイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)との一連の首脳会議で、首相は、日本の外交政策について日米同盟が基軸であることを強調した。

その上で、東アジア共同体構想について、「開かれた地域協力の原則に立って、協力を着実に進めたい」と表明した。

米国の関与を排除しない姿勢を明確にしたものといえよう。

首相は、今月10日の日中韓首脳会談の席上、「今まで米国に依存し過ぎていた」などと述べ、外交の軸足を米国からアジアに移すのではないかとの疑念を内外に生んでいた。

今回の首相の発言は、それを早期に打ち消すとともに、米国にくすぶる民主党政権へのいらだちを緩和する狙いがあるのだろう。今後も、日米基軸が基本であることを踏まえて発言してほしい。

ASEAN諸国にとって、米国は、欧州連合(EU)に次ぐ輸出相手先である。中国の軍事的台頭をにらんで、今後も米軍のプレゼンス(存在)の維持を望んでいる国は多い。

米国自身も、東アジアとの経済連携を進める枠組みとして、米国やカナダ、南米諸国が参加するアジア太平洋経済協力会議(APEC)を重視している。

米国の関与は、これまでの東アジアの地域協力と何ら矛盾するものではないだろう。

首相は首脳会議で、域内の経済連携を加速させるとともに、これまで取り組んできた金融、エネルギー、防災などの協力を強化する考えを表明した。

だが、経済連携では、日本はASEANとの経済連携協定(EPA)こそ発効済みだが、韓国、インド、オーストラリアとの交渉は停滞している。

韓国とは、日本が農林水産物の自由化に消極的であることに韓国が反発し、5年前に交渉が中断した。インドとは、後発医薬品に関する承認手続きの簡素化をめぐって対立している。

韓国やオーストラリア、シンガポールが積極的にEPAを推進する中、このままでは、日本だけが取り残されかねない状況だ。

東アジア共同体構想を推進したいと言うなら、鳩山首相は、まず東アジア各国とのEPA交渉を具体的に前進させることに力を注ぐべきである。

産経新聞 2009年10月26日

鳩山アジア外交 日米基軸を再確認したい

鳩山由紀夫首相がタイで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳らとの一連の会合で「日本の外交政策として日米同盟を基軸と位置付けている」と述べた。自ら提唱する「東アジア共同体」構想を説明する前にあえて言及した。異例の発言といえる。

鳩山首相は9月のオバマ米大統領との会談では同構想について説明せず、「米国はずし」の懸念が指摘されていた。米軍普天間飛行場移設問題などでも日米関係にきしみが生じている。そんな時期にアジア外交の大舞台で共同体構想への米国の関与を求める姿勢を示したことは、日本の国益からみて評価できる。

だが、岡田克也外相は共同体参加国に日中韓、ASEAN、インド、豪、ニュージーランドを挙げ、米国を除く考えを明言している。政権の意思統一だけでなく、構想を日米同盟基軸の中でどう位置付けるかを明示すべきだ。

一連の首脳会合で、鳩山首相は東アジア共同体構想に関して「中心にはASEANがある」とし、当面経済や教育、防災などの分野で連携を進めたいと説明した。

これに対するASEAN側の反応は、もろ手を挙げての歓迎ではなかったようだ。とくに日中韓とASEANの首脳会合で鳩山首相が表明した「構想推進には日中韓の連携が望ましい」との考えには異論もある。

2015年までの共同体化を目指すASEAN10カ国には、将来の地域統合の中核もASEANが担うとの思惑がある。タイのアピシット首相は「ASEAN統合が第一歩」と主導権を奪われることへの警戒心を隠していない。

あいまいな鳩山構想とは対照的に、中国の動きはすばやい。温家宝首相はASEAN首脳との会談で、ASEAN統合への協力推進と将来の東アジア共同体実現への協力を表明した。ASEAN加盟国間の格差是正のために100億ドルの投資協力基金を創設するという。来年1月には、中国・ASEAN自由貿易協定(FTA)に基づくASEAN中国自由貿易圏がスタートする。

東アジアにおける経済、軍事両面での中国の過大な影響力に対抗するためにも、米国の関与は欠かせない。そうした現実をしっかりとふまえた日本外交であるべきだ。軸足がしっかりしなければ、ASEANもその他の国も、鳩山構想には乗ってこない。

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