税制改正大綱 場当たり的な対応繰り返すな

朝日新聞 2011年12月11日

税制改正 この先が思いやられる

政府・与党がすったもんだの議論の末、来年度の税制改正案をまとめた。

焦点になったのは、車検のたびに納める自動車重量税と、購入時に支払う自動車取得税の見直しだ。今年度の税収はそれぞれ約7千億円と2千億円。排ガス基準の達成度や燃費性能によって両税を軽くするエコカー減税の延長問題もからんだ。

結論はこうだ。

重量税は、本来の税額に上乗せしている3千億円の半分、1500億円を減税する。取得税は変えない。エコカー減税は対象車種を絞ったうえで、来春から3年間延長する。さらにエコカー補助金を復活させ、今年度第4次補正予算に3千億円を計上する。

政府税制調査会の議論では、各省が激しく対立した。自動車業界の要望を受けて、経済産業省は2税の廃止を主張。財務省は財政難を理由に減税に反対した。2税は地方自治体の財源となっており、地方税を所管する総務省は財務省と歩調を合わせた。環境省と国土交通省はエコカー減税の維持を訴えた。

一方、民主党の税制調査会は「廃止、抜本的な見直し」を政府に強く求めた。次の総選挙を意識し、減税志向が強い党内の空気を踏まえての主張だ。

結論は、見事なまでの妥協の産物である。補正予算まで動員した決着にあきれるほかない。

自動車課税の抜本見直しは不可欠だ。2税とも道路整備にあてる道路特定財源だったが、一般財源化で課税の根拠が乏しくなった。取得時に消費税、保有には自動車税もかかり、二重課税となっている。

円高、大震災にタイの洪水も重なって、自動車業界は苦境にある。ただ、単純な大幅減税で財政赤字を拡大するわけにもいかない。環境対策も重要だ。ガソリンなどの燃料にかかる税を含め、どう作り直すか。

省益にとらわれず、複眼思考で取り組むべきテーマだ。まさに「政治」の出番ではないか。

政権交代を機に、政府税調のメンバーは有識者から各省の副大臣、政務官ら政治家へ一新された。ところが、会合では省益丸出しの発言が大半だった。野田政権で復活した民主党税調は、政府への陳情・圧力団体かと見まごう状況だった。

政府・与党は社会保障と税の一体改革の素案について議論を始め、消費税増税の具体案を年内にまとめる。その前哨戦となった来年度税制改正がこんな調子では、今後が心配になる。

関係者は猛省し、消費税増税論議に臨んでもらいたい。

読売新聞 2011年12月11日

税制改正大綱 場当たり的な対応繰り返すな

住宅、中小企業、環境関連などの減税メニューが並ぶが、全体に小粒の内容にとどまった。日本経済へのてこ入れ効果は未知数である。

政府が2012年度税制改正大綱を決めた。社会保障と税の一体改革に伴う消費税の本格論議を前に、利害調整が難しい配偶者控除やたばこ税見直しなど大型案件は議論交錯を恐れ、先送りした。

その場しのぎの対応を続ける限り経済は活性化せず、深刻な税収不足からの脱却も望めまい。

政府・与党は、消費税率引き上げも含め、包括的な税制改革に早急に取り組む必要がある。

来年度税制改正で唯一、大きな争点となった自動車課税は、自動車重量税を減税し、来春期限切れとなるエコカー減税を延長することで決着した。エコカー販売促進に向けた補助金も復活させる。

自動車業界と民主党が、「販売不振の一因は重い税負担にある」として取得税と重量税の廃止を強く求め、政府と民主党が深夜まで迷走を続けた末の妥結である。

環境に配慮した車を普及させる政策目標に沿ったエコカー減税の延長は理解できる。

だが、十分な代替財源が手当てできないのに、重量税の減税や補助金まで認めたのは甘すぎる。

民主党は最後まで、車の保有台数が多い地方や、自動車業界と関係労組に配慮したとみられる。

財政再建の重要性を顧みず、選挙を意識した大衆迎合主義がまたも幅をきかせた形だ。

こんな調子では、反対論の根強い消費税率引き上げを実現できるのか、大きな疑問符が付く。

政府・与党の場当たり的な姿勢は、11年度税制改正に盛り込みながら、野党の反対で成立していない項目の扱いにも表れている。

政府は12年度税制改正大綱で、高所得者を対象にした給与所得控除の縮小、石油石炭税の課税を強化する地球温暖化対策税の導入などを改めて提案した。

内容を変えぬまま再提案したところで、ねじれ国会では、再び否決されるだけではないか。

もともと11年度改正に盛り込まれた増税項目は、法人税の大幅減税で生じる財源不足を穴埋めすることを優先した結果、議論を尽くさず見切り発車したものが多い。仕切り直すのが筋だろう。

民主党政権は、比較的反発の少ない高所得層に税負担を集中させる傾向が強い。公平性を欠くだけでなく、労働意欲や経済活力を失わせる逆効果が懸念される。看過できない問題である。

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