国会延長せず閉幕 禍根残した首相の無策

朝日新聞 2011年12月10日

国会閉幕 動かぬ政治に絶句する

ますます、政治の風景がすさんでいく。

きのう臨時国会が閉幕した。震災復興に向けた第3次補正予算や、復興庁設置法などは辛うじて成立させた。

だが、あと一歩のところまで来ていた重要法案は、ことごとく先送りした。

懸案だった派遣法改正案は、衆院の委員会で可決したのに成立しない。国家公務員の給与引き下げは、与野党が同じ削減幅を掲げながら合意できない。

会期を延長すれば成果もあがったかもしれないのに、与野党ともやろうとしなかった。

さらに国会の「さぼり」を象徴したのが「一票の格差」をただす選挙制度改革だ。与野党が持論をぶつけあっただけで、ちっとも進まない。

何という職務怠慢か。無責任さにあぜんとする。

そしてまた残ったのが、参院での問責決議だ。一川保夫防衛相と山岡賢次消費者相に対する決議が可決された。

振り返れば、昨年の臨時国会でも当時の仙谷由人官房長官らへの問責決議があった。それを機に野党は一部で審議を拒み、与党は混乱を恐れて国会延長を見送った。なんとも似たような展開ではないか。

少し違うのは、一川氏の場合は職にとどまるべきでないことが明らかな点ぐらいだろう。

野党は今回も一川氏らが続投すれば、来年の通常国会での審議に応じない構えだ。だが、法的拘束力のない参院決議を振りかざすのは、もうやめよう。

震災復興、社会保障改革、欧州危機など難問が山積している。もっと建設的に政策論争をすべきだ。政局の駆け引きばかりの茶番劇を、テレビの再放送のように見せられても困る。

ただ、こんな荒涼たる政治を招いた第一の責任は与党、とりわけ野田首相にある。

ひとつは国会運営の失敗だ。復興増税に加えて消費増税にも取り組もうというときに、官の身を削る公務員給与の削減もできずに、どうやって国民に負担を求めるつもりなのか。これでは与党内の求心力を失い、国民にもそっぽを向かれる。

ふたつめは、そもそも一川、山岡両氏を閣僚に起用したことだ。ともに小沢一郎元民主党代表に近く、党内融和に配慮した閣僚起用とされた。だが、山岡氏のマルチ商法関連の話など、広く知られた話だった。

それを、いまさら問責理由にする野党にも驚くが、そんな人選をした首相も反省すべきだ。

ここで政治を立て直せるか。首相の正念場だ。

毎日新聞 2011年12月10日

国会延長せず閉幕 禍根残した首相の無策

不毛な幕引きである。臨時国会は会期末の9日、一川保夫防衛相、山岡賢次国家公安委員長兼消費者担当相の参院での問責決議が可決され、会期が延長されぬまま閉会した。

野田佳彦首相から与野党対立を打開する熱意は感じられず、国家公務員の給与を減額するための法案など懸案の処理は先送りされた。消費増税法案の審議が見込まれる来年の通常国会を控え、政権与党の対応は禍根を残したと言わざるを得ない。

「じくじたる思い」。懸案を積み残したまま国会を終えた首相の釈明がむなしく聞こえる。

今国会で野田内閣が抱えていた宿題は東日本大震災の復興に向けた3次補正予算や一連の復興関連法だけではない。国家公務員給与を平均7・8%減らし復興財源にあてる法案も石にかじりついても成立させるべき懸案だった。

ところが、民主党が連合に同時処理を約束した国家公務員に労働協約権を認める法案の扱いや人事院勧告の実施などで自民、公明両党と調整がつかず、民主は会期延長をあっさりとあきらめた。これでは労組依存体質と言われても仕方がない。

法案が成立しないと、毎月約200億円の復興財源が失われる。人事院勧告による給与減額も実施されず、冬のボーナスは満額支給された。衆院「1票の格差」是正、議員定数削減も先送りだ。国民に「痛み」を説く資格を問われかねない。

2閣僚の問責に至る首相の対応も問題だ。特に一川氏の数々の言動は閣僚の資質に疑問を抱かせるもので、早急に更迭すべきだった。山岡氏とマルチ商法業界との関係を危ぶむ声も入閣当時からあった。首相が両閣僚を続投させる方針を表明した以上、今後両氏の問題は自身の責任に直結する覚悟がいる。

一方、問責決議に存在感発揮を依存するような自民の取り組みも疑問だ。両閣僚が続投した場合でも、次期国会で最初から審議拒否戦術を用いることは許されない。谷垣禎一総裁が真に早期の衆院解散を望むのであれば、消費税や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などへの党の立場を固めることが先決だろう。

首相は消費増税の法整備に不退転の決意でのぞむ姿勢を改めて強調した。だが国民の理解を広げ、野党と協議する環境を整える大きな戦略が今国会の対応からは感じられなかった。

大震災の惨事に直面した今年、国会はさまざまな局面で十分に機能を発揮できなかった。政治の劣化にふさわしい幕引きなどと、言われたくはあるまい。与野党は公務員給与など積み残した課題について、閉会中も真摯(しんし)に合意を探るべきだ。

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