一川防衛相 資質に重大な疑義あり

朝日新聞 2011年12月06日

一川防衛相 更迭し、政権は出直せ

一川防衛相がきのう、国会で続投の意欲を示した。野田首相も「襟を正して職責を果たしていただきたい」とかばった。

驚くばかりの認識の甘さだ。

野党が多数を占める参院で、防衛相の問責決議が確実視されているから言うのではない。

かねて私たちは、問責決議で閣僚の首を取り、政権を追い込むような国会のあり方を批判してきた。いまも、その考えに変わりはない。

だが、一川氏は問責以前に、もはや閣僚にふさわしくないことを、みずから実証しているではないか。

まず、就任直後に「私は安全保障の素人」と述べて、防衛相としての資質が疑われた。国賓のブータン国王夫妻の宮中晩餐(ばんさん)会を欠席して、同僚議員の政治資金パーティーに出た。

決定的なのは、今回の沖縄防衛局長の暴言、更迭問題への対応のお粗末さだ。

「犯す前に、これから犯すと言いますか」という局長の暴言に関連して、米軍普天間飛行場の移設の原点である米兵の少女暴行事件を「詳細には知らない」と述べた。記者会見では、少女暴行事件を「ランコウ事件」といった。

沖縄の人々が局長発言に憤ったのは、単なる言葉遣いの問題ではあるまい。基地の負担を沖縄に強引に押しつける政府の差別意識を感じ取ったからに違いない。その不信感を、一川氏の言動がさらに増幅させた。

それなのに、野田首相はなおも「適材適所で選んだ」と繰り返す。信じられない。速やかに防衛相を更迭すべきだ。

もちろん、責任者の首をすげ替えれば済む話ではない。この際、辺野古移設の政府方針を抜本的に見直し、年内の環境影響評価の提出も断念すべきだ。

もともと一川氏は小沢一郎元民主党代表に近く、入閣は党内融和の象徴だった。消費増税などの難題を抱えて、首相が党内力学への配慮を優先するようなら、政権への信頼をさらに失うのは避けられない。

首相には国会も忘れてもらっては困る。すでに会期末まで4日しかない。

復興財源をつくる目的もある国家公務員の給与引き下げ法案や、労働者派遣法改正案などは、与野党協議があと一息のところまできている。衆院の「一票の格差」の是正も待ったなしだ。このまま国会を閉じて、先送りすることなどあってはならない。

野田首相は即刻、防衛相問題を決着させ、政権を立て直し、法案成立にも尽くすべきだ。

毎日新聞 2011年12月03日

一川防衛相 資質に重大な疑義あり

就任後わずか3カ月の間に不適切な言動を繰り返す一川保夫防衛相の閣僚としての資質に、重大な疑義を抱かざるを得ない。

一川氏は1日の国会で、米軍普天間飛行場移設問題の発端となった1995年の米海兵隊員による少女暴行事件を質問され、「正確な中身は詳細には知らない」と答弁した。

移設問題を担当する閣僚が、沖縄県民にとって癒やしきれない心の傷となっている事件について答弁する内容ではないだろう。一川氏はその後、事件関係者の立場を考慮して説明を控えたという趣旨の弁明をしたが、そう受け取るには無理がある。

一川氏の不用意な発言は、これにとどまらない。就任早々、「安全保障に関しては素人」と述べて批判を受けた。先月中旬には、国賓として来日したブータン国王夫妻を迎えた宮中晩さん会を欠席して民主党参院議員の政治資金パーティーに出席、「私はこちらの方が大事だと思って参りました」とあいさつし、謝罪に追い込まれた。

また、沖縄防衛局長(更迭)が先月末、普天間移設計画に基づく環境影響評価(アセスメント)の評価書の提出時期について「犯す前に犯しますよと言いますか」と発言したことの監督責任も問われている。「知らない」答弁はこの発言に関するやりとりの中で飛び出した。

一川氏は2日夕、沖縄入りし、仲井真弘多県知事と会談し、前沖縄防衛局長発言を謝罪した。知事は「県民の尊厳を傷つけた」と批判し、会談を約10分間で打ち切って、強い不快感を示した。また、知事は会談前の県議会で、一川氏の「知らない」発言について「極めて遺憾であり、残念だ」と述べた。当然だろう。

移設問題は今後、普天間の固定化(継続使用)回避に向けて正念場を迎える。「一川体制」でこの難題を解決できるか、懸念がある。

自民、公明両党は今国会で、防衛相に対する問責決議案を野党が多数の参院に提出する方針である。提出されれば可決される公算が大きい。

自民党などが問責決議をめぐって政局的な対応に終始すれば、会期末の国会が混乱し、東日本大震災の復興対策や、国家公務員の給与を引き下げる法案などの処理に支障が出る可能性があるほか、今後の、最高裁が違憲状態と判断した衆院「1票の格差」是正問題、消費税増税をめぐる与野党協議など重要課題への影響も考えられる。また、法的拘束力のない参院の問責決議案の可決によって閣僚の交代が繰り返されるのは、正常な姿とは言い難い。

野田佳彦首相は、こうした事態を踏まえて、防衛相の進退について賢明な判断をすべきだ。

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