社会保障と税の一体改革で、消費税増税の時期や税率を明記した素案を年内にまとめる。
野田首相が、そう決意を語った。素案を野党に示し、年明けに大綱にしたうえで、法案づくりに入る段取りを描く。
まずは民主党をまとめられるかが焦点となる。選挙で不利になるのを恐れ、党内では反対論が根強い。連立政権を組む国民新党も強く反対している。
首相は「私が先頭に立って政府・与党内の議論を引っ張る」と強調した。不退転の決意で取り組んでほしい。
一体改革は待ったなしだ。
急速に進む少子高齢化に、社会保障制度は耐えられるのか。欧州が債務危機に揺れるなか、先進国で最悪の状態にある日本の財政は大丈夫なのか。
互いに連動するこの二つの不安が、社会や経済の閉塞(へいそく)感につながっている。早くくさびを打ち、将来の世代を含めて安心して暮らせる社会へと、制度を作り直していかねばならない。
改めて、社会保障と財政の現状を確認しておきたい。
日本の社会保障は、現役世代が高齢者を支える構図だ。現役から引退組への「仕送り」である年金だけでなく、医療や介護も給付の中心は高齢者だ。
医療や年金、介護など社会保障の給付額は今年度で約108兆円。保険料だけでは支えられず、国と自治体からの公費の投入が40兆円に達する。国の一般会計(当初予算)では社会保障費が29兆円近く、歳出の3割強を占める。ここが高齢化で毎年1兆円ほど膨らんでいく。
かたや、支え手である現役世代は少子化で細る一方だ。経済の低迷で収入も増えない。手薄だった子育て支援策や雇用対策を充実させることが不可欠だ。あわせて医療、年金、介護の各分野で制度が破綻(はたん)しないよう、見直していかねばならない。
財政はどうか。
今年度の国の当初予算で歳出は92兆円を超す。ところが、税収は40兆円強。借金である国債の発行額が44兆円余りに及ぶ。借金が税収を上回る異常事態は3年連続だ。国債を含む国の債務総額は国内総生産(GDP)の2倍に達し、来春にも1千兆円を突破する。
ギリシャに端を発した欧州の債務危機は、主要7カ国の一角であるイタリアをのみ込んだ。国債の相場が下がって、金利が高止まりする状態から抜け出せない。フランスにも危機の影は及び、ドイツさえ盤石とは言えなくなってきた。
「先進国の国債は安全資産」という常識が揺らいでいる。
日本は、国債発行の9割以上を、国民の貯蓄などを原資とする国内資金でまかなっている。他の先進国にはない強みだ。
ただ、いったん不安心理に火がつくと、国債市場を支える国内の金融機関も、損失を避けようと、国債を手放したり新たな購入を控えたりするだろう。
景気が低調な中で国債相場が下落する「悪い金利上昇」は、利払いの増加を通じて財政をさらに悪化させる。しかも、設備投資や住宅着工の足を引っ張り、経済活動を停滞させる。それが税収減を通じて国債増発への懸念を高め、相場下落・金利上昇を加速させる。そんな悪循環も杞憂(きゆう)とは言い切れない。
今回の素案作りの土台となる6月の政府・与党案を振り返ろう。現役世代が減少するなか、社会保障費をまかなう税には、すべての世代が負担し、税収も安定している消費税がふさわしい。消費税収を社会保障だけにあてる目的税とし、2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げる――。
いつ、何回に分けて、何%ずつ引き上げるのか。当然、素案に盛り込まねばならない。
増税に対しては、「デフレの解消が先」「行政改革を徹底してから」といった声が上がっている。
ともに不断の努力が必要な課題だ。医療や介護、教育など国民のニーズが大きい分野や、大手企業がほぼ独占している電力分野を中心に、規制緩和などで活性化をはかり、デフレ解消と税収増を目指さねばならない。
ただ、デフレ解消の即効薬が見あたらないこともはっきりしてきた。行政のムダ削減でも財政赤字は穴埋めできない。「事業仕分けで財源をつくる」とうたった民主党の方針が頓挫したことでわかったはずだ。
増税が景気の足を引っ張るとの懸念も根強いが、実際に増税する際、リーマン・ショックのような景気の落ち込みに直面していたら、延期すればよい。
今回の一体改革をすべて実現しても、社会保障の再構築、財政の再建とも道半ばだ。ここでつまずけば、「日本は自ら改革できない」との疑念が高まり、欧州のように市場の波乱を引き起こしかねない。
問われているのは、政治の意志と実行力である。
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