どうする「一体改革」 消費増税法案 協議に足る素案を示せ

朝日新聞 2011年12月05日

社会保障と税の改革 消費増税は避けられない

社会保障と税の一体改革で、消費税増税の時期や税率を明記した素案を年内にまとめる。

野田首相が、そう決意を語った。素案を野党に示し、年明けに大綱にしたうえで、法案づくりに入る段取りを描く。

まずは民主党をまとめられるかが焦点となる。選挙で不利になるのを恐れ、党内では反対論が根強い。連立政権を組む国民新党も強く反対している。

首相は「私が先頭に立って政府・与党内の議論を引っ張る」と強調した。不退転の決意で取り組んでほしい。

一体改革は待ったなしだ。

急速に進む少子高齢化に、社会保障制度は耐えられるのか。欧州が債務危機に揺れるなか、先進国で最悪の状態にある日本の財政は大丈夫なのか。

互いに連動するこの二つの不安が、社会や経済の閉塞(へいそく)感につながっている。早くくさびを打ち、将来の世代を含めて安心して暮らせる社会へと、制度を作り直していかねばならない。

改めて、社会保障と財政の現状を確認しておきたい。

日本の社会保障は、現役世代が高齢者を支える構図だ。現役から引退組への「仕送り」である年金だけでなく、医療や介護も給付の中心は高齢者だ。

医療や年金、介護など社会保障の給付額は今年度で約108兆円。保険料だけでは支えられず、国と自治体からの公費の投入が40兆円に達する。国の一般会計(当初予算)では社会保障費が29兆円近く、歳出の3割強を占める。ここが高齢化で毎年1兆円ほど膨らんでいく。

かたや、支え手である現役世代は少子化で細る一方だ。経済の低迷で収入も増えない。手薄だった子育て支援策や雇用対策を充実させることが不可欠だ。あわせて医療、年金、介護の各分野で制度が破綻(はたん)しないよう、見直していかねばならない。

財政はどうか。

今年度の国の当初予算で歳出は92兆円を超す。ところが、税収は40兆円強。借金である国債の発行額が44兆円余りに及ぶ。借金が税収を上回る異常事態は3年連続だ。国債を含む国の債務総額は国内総生産(GDP)の2倍に達し、来春にも1千兆円を突破する。

ギリシャに端を発した欧州の債務危機は、主要7カ国の一角であるイタリアをのみ込んだ。国債の相場が下がって、金利が高止まりする状態から抜け出せない。フランスにも危機の影は及び、ドイツさえ盤石とは言えなくなってきた。

「先進国の国債は安全資産」という常識が揺らいでいる。

日本は、国債発行の9割以上を、国民の貯蓄などを原資とする国内資金でまかなっている。他の先進国にはない強みだ。

ただ、いったん不安心理に火がつくと、国債市場を支える国内の金融機関も、損失を避けようと、国債を手放したり新たな購入を控えたりするだろう。

景気が低調な中で国債相場が下落する「悪い金利上昇」は、利払いの増加を通じて財政をさらに悪化させる。しかも、設備投資や住宅着工の足を引っ張り、経済活動を停滞させる。それが税収減を通じて国債増発への懸念を高め、相場下落・金利上昇を加速させる。そんな悪循環も杞憂(きゆう)とは言い切れない。

今回の素案作りの土台となる6月の政府・与党案を振り返ろう。現役世代が減少するなか、社会保障費をまかなう税には、すべての世代が負担し、税収も安定している消費税がふさわしい。消費税収を社会保障だけにあてる目的税とし、2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げる――。

いつ、何回に分けて、何%ずつ引き上げるのか。当然、素案に盛り込まねばならない。

増税に対しては、「デフレの解消が先」「行政改革を徹底してから」といった声が上がっている。

ともに不断の努力が必要な課題だ。医療や介護、教育など国民のニーズが大きい分野や、大手企業がほぼ独占している電力分野を中心に、規制緩和などで活性化をはかり、デフレ解消と税収増を目指さねばならない。

ただ、デフレ解消の即効薬が見あたらないこともはっきりしてきた。行政のムダ削減でも財政赤字は穴埋めできない。「事業仕分けで財源をつくる」とうたった民主党の方針が頓挫したことでわかったはずだ。

増税が景気の足を引っ張るとの懸念も根強いが、実際に増税する際、リーマン・ショックのような景気の落ち込みに直面していたら、延期すればよい。

今回の一体改革をすべて実現しても、社会保障の再構築、財政の再建とも道半ばだ。ここでつまずけば、「日本は自ら改革できない」との疑念が高まり、欧州のように市場の波乱を引き起こしかねない。

問われているのは、政治の意志と実行力である。

毎日新聞 2011年12月03日

どうする「一体改革」 消費増税法案 協議に足る素案を示せ

民主党内の取りまとめができない事態も予想して予防線を張っているのだろうか。

野田佳彦首相は消費増税を含む税と社会保障の一体改革について「年内をめど」に政府・与党の素案をまとめ、素案をもとに与野党協議をしたうえで、消費増税法案などの大綱を決める考えを示した。大綱が決定すれば法案が作成され、国会に提出する手順を想定しているようだ。

首相は「私が先頭に立って政府・与党内の議論を引っ張る決意だ」とも語った。だが、「めど」はあくまでも「めど」である。確固たる意思が伝わってこないのが気になる。

本格的な取りまとめ作業を前に、民主党内では小沢一郎元代表をはじめ消費税増税に反対する声が強まっている。反対派、慎重派の主張は、消費増税は一昨年の衆院選での民主党マニフェストに盛り込まれておらず、歳出の削減もまだ不十分だというものだ。

確かに「増税をする前に公務員や国会議員が身を削るべきだ」というのが多くの国民の思いだろう。実際には身を削る努力はまったく不十分だ。しかし、急激な少子高齢化が進む中、財政を再建し安心できる社会保障制度を構築するためには、無駄の削減だけでは財源におのずと限界があることは、民主党議員も政権を運営していく中で分かったはずだ。

「増税する前にやることがある」と言いながら、徹底した無駄の削減も、そして増税も結局先送りしてきたのが、ここしばらく政界の実情だったのではないか。増税と同時に身を削る。もはや先送りはやめて具体的に動き出す時期である。

もし、年内に素案すらまとめられなければ、首相のリーダーシップに疑問符が付き、年明け後の党内合意はさらに難しくなる可能性が大きい。首相自身の正念場でもあるのだ。

素案には消費増税の時期と幅を盛り込むかどうかも大きな焦点だ。首相は「なるべく素案や大綱の段階で具体的に明記したい」と語ったが、ここでも「なるべく」と慎重に前置きするのを忘れなかった。

法案成立のためには協力が不可欠な自民党や公明党は今のところ協議に応じる気配はなく、早期の衆院解散・総選挙を一段と強く求めていく構えだ。このため増税時期や幅をあいまいにしたまま野党との協議に臨もうとしても、「まず民主党の考えを具体的に示せ」と協議を拒否されるのは目に見えている。

ここは首相が腹をくくり、時期と幅も明記すべきだ。社会保障政策の青写真もきちんと提示し、野党が協議に応じざるを得なくなるような素案にするということだ。

読売新聞 2011年12月06日

社会保障改革 必要な負担増を正面から説け

政府・与党が今年6月に打ち出した社会保障と税の一体改革案を、具体化し、実現するための本格調整が始まった。

野田首相を本部長とする政府・与党の「社会保障改革本部」が設置された。首相は初会合で、「この改革に不退転の決意で臨む」と明言した。

改革本部で年内をメドに出す結論を、首相はあえて「素案」と呼んでいる。

ねじれ国会では、野党の賛成なしに法案の成立は望めない。素案をたたき台に、野党の意見を採り入れて大綱を確定する考えだ。改革本部での決着を急ぎ、早く野党との協議に入るべきだろう。

焦点は「2010年代半ばまでに段階的に10%に引き上げる」ことになっている消費税に関し、具体的な段取りをどう示すかだ。

現在の5%から2段階で引き上げる場合、何%ずつ、いつ引き上げるか。その時の経済状況にある程度の配慮が必要だとしても、現時点での政府・与党の方針を、明示する必要があろう。

民主党内には、小沢一郎元代表を中心に消費税率引き上げに反発する議員が少なくない。税率を据え置いた場合のリスクを考えないのだろうか。

年金、医療など制度改革について、これまで民主党の作業チームや厚生労働省の審議会がまとめた報告には一長一短がある。

年金に関しては、物価下落に連動して支給額を引き下げる措置を見送ったことの影響で、本来より2・5%高い状態が続いている。それを段階的に解消する方向になった。この点は評価できる。

だが、こうした効率化や負担増の項目は少ない。全体として給付の拡充策が目立つ。例えば、高齢者医療で暫定的に低く抑えている窓口負担を元に戻すことなど、国民に痛みを求める改革は大半が見送りムードだ。

6月にまとめた一体改革案によると、15年度には社会保障の充実に約3・8兆円が必要になる。給付を抑制するなどで1・2兆円近く節約し、差し引き約2・7兆円を消費税で賄う計算だった。

節約分が小さくなれば、早くも帳尻が合わなくなる。消費税は年金の国庫負担を2分の1に引き上げる財源などにも充てなければならず、税率10%でも不足する恐れが出てくる。

今後、改革本部の議論で、大局的な視点からどこまで各論を修正できるか。首相は、「先頭に立って議論を引っ張る」と言った通り、行動することが求められる。

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