JR西役員辞任 国鉄一家に頼った愚行のつけ

朝日新聞 2009年10月25日

JR西日本 歴代の社長にも問いたい

次々に明かされるJR西日本の隠蔽(いんぺい)体質には驚くばかりだが、司法の場でも歴代のトップに対して責任を問う可能性が出てきた。

05年のJR宝塚線(福知山線)脱線事故をめぐり、神戸第一検察審査会が井手正敬(まさたか)氏と南谷(なんや)昌二郎氏、垣内剛(たけし)氏の元社長3人を業務上過失致死傷罪で起訴すべきだという結論を出した。

神戸地検は、96年当時に鉄道本部長だった山崎正夫前社長だけを同じ罪で起訴した。その年に現場付近のカーブを半径600メートルから304メートルに変えたにもかかわらず、自動列車停止装置(ATS)を置かなかったことを問題視したものだ。

審査会は、3氏を「安全対策の最高責任者」と位置づけた。急なカーブに変えたのに、時速約120キロで走る新型車両を大量に導入し、余裕のないダイヤへの改定を重ねた。それで危険が格段に増したとわかったはずなのに、ATSの整備を部下に指示しなかったことに過失がある、というのである。

国鉄が分割・民営化され、JR西日本は経営基盤が弱いところから出発した。不採算のローカル線が多かったため、私鉄王国と呼ばれた京阪神で、運行サービスを高め、競争力を強めて反転攻勢に出る戦略をとった。

問題は収益を重視するあまり、公共交通機関が最優先すべき安全が後回しになったのではないか、という点だ。それがATS整備の遅れに結びついたのなら、井手氏らは判断を誤ったことになる。

地検が再び不起訴にしたとしても、審査会が改めて起訴すべきだという結論を出せば、裁判所が指定する弁護士が3氏を起訴する。市民感覚を背に、従来なかった裁判が始まるわけだ。

公判の場では、刑法上の責任だけではなく、悲惨な大事故を引き起こすに至った背景も詳しく明らかにされていくに違いない。この会社の経営姿勢がはらんでいた危うさも浮かび上がることだろう。井手氏らがどう語るのかを聞きたい。

原因調査にあたった国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の委員に不明朗な働きかけをしていた問題では、佐々木隆之社長が記者会見で「組織的な行動と思わざるを得ない」と認めた。働きかけの中心だった山崎前社長と土屋隆一郎副社長は、取締役を辞任した。

JR西日本は、宝塚線事故と同様にATSが不備だった96年の函館線脱線事故の資料を、事故調査委員会や兵庫県警に提出していなかった。こちらの問題でも、実態を調べている第三者委員会が「会社側に何らかの作為があったのではないか」とする中間報告をまとめた。

JR西日本が問われるべきものはあまりにも多い。

毎日新聞 2009年10月24日

JR西前社長辞任 組織のうみを出し切れ

JR福知山線事故の原因調査内容漏えい問題で、山崎正夫前社長と土屋隆一郎副社長が取締役を引責辞任した。国民の信頼を失墜させた責任は重大で、当然のことだ。だが、とかげのしっぽ切りに終わらせてはならない。JR西日本は組織の問題点を徹底検証し、うみを出し切る覚悟が必要である。

山崎前社長は国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)委員の旧国鉄OBに接触して調査報告書案を入手した。また、土屋副社長は社内の事故対策審議室メンバーに指示して、事故調委員から議論内容などを探らせていた。

JR西日本の第三者機関・コンプライアンス特別委員会は、この間の複数の行為を「報告書の内容に影響を与えるような働きかけ」と認定した。現場は96年に急カーブに改造されたが、山崎前社長が事故調委員にATS(自動列車停止装置)の優先設置が必要との表現を修正するよう求めたことや、旧国鉄OBらに公述人として意見を発表するよう頼み、選任から漏れた後に謝礼として現金を渡した--などの事実だ。

さらに、JR函館線で起きた類似の脱線事故で「ATSがあれば事故は防げた」とする資料が事故調や捜査機関に提出されていなかった点についても、JR側の作為の疑いがある、と厳しく指弾した。

こういった行為は、旧国鉄の「一家意識」に便乗した組織ぐるみの裏工作といっていい。しかも、ATS設置と事故の因果関係をあいまいにする、悪質な責任逃れである。

いくら企業風土や社員意識改革を掲げても「もう何も信用できない」という被害者や遺族の怒りは無理もない。不祥事の続発で、鉄道現場のモラル低下も心配になる。

この事故では、改造工事当時鉄道本部長だった山崎前社長が業務上過失致死傷罪で起訴された。しかし、神戸第1検察審査会は遺族らの申し立てにより、歴代社長3人がいずれも安全対策の最高責任者で、ATS設置の注意義務を怠っていたとして「起訴相当」と議決した。

改造工事時の経営判断が安全より収益、効率に偏っていたとする市民感覚を生かした判断である。JR西日本はこういった世論の批判を真摯(しんし)に受け止めなければならない。

一方、運輸安全委員会は第三者による検証チームを作り、JR西日本の働きかけで報告書の内容に影響がなかったかを調べ、場合によっては修正もする。

課題はまだある。中立性と透明性を高めるため、倫理や情報開示の規定を整備し、調査対象となる企業のOBに頼らずに済む人材育成システムを構築することも急務である。

読売新聞 2009年10月24日

JR西役員辞任 国鉄一家に頼った愚行のつけ

組織防衛しか眼中になかったのだろうか。JR西日本が繰り返してきた「企業風土の変革」という号令が(むな)しい。

JR福知山線脱線事故をめぐる国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(当時)の最終報告書案漏えい問題で、JR西の佐々木隆之社長が前原国交相に調査の途中経過を報告した。

併せて、脱線事故で在宅起訴された後に社長を退いていた山崎正夫取締役ら役員2人を、引責辞任させた。事実上の解任である。

山崎前社長は、事故調の委員に働きかけて報告書案を公表前に入手し「ATS(自動列車停止装置)の優先的設置が必要だった」という文言の削除まで要求した。

事故調査の信頼性を著しく失墜させたことを考えると、解任は当然の措置である。

JR西の工作は報告書案の入手にとどまらない。

事故調による意見聴取会を前にして、旧国鉄OBら4人に対し、意見を述べる「公述人」に応募するよう求めていた。

落選した2人には各10万円の謝礼も渡していた。JR西に有利な発言をしてもらう狙いだったとみられても仕方あるまい。これにも山崎前社長がかかわっていた。

1996年に起きたJR函館線脱線事故の会議資料の一部が、事故調や兵庫県警に提出されていなかった問題もある。

未提出分には、函館線の事故は「新型ATSを設置していれば防げた」という記述があった。JR西は「意図的ではない」と説明するが、福知山線事故の捜査の焦点となる部分だった。

事情聴取対策と受け取れる内部資料を作成して社員に配布し、神戸地検から捜査妨害にあたるとして注意を受けてもいる。事故当時の社長だった垣内剛・元社長も、事故調の別の委員と会食していたことが明るみに出た。

組織ぐるみで数々の工作を重ねた一連の動きは、遺族・被害者の感情を踏みにじる行為だ。事故への反省がうかがわれない。

JR西の接触相手は多くが旧国鉄OBだった。山崎前社長は「国鉄一家の(きずな)に頼り、愚かな行動をした」と釈明したが、これまではそれが通用してきたのだろう。

福知山線事故捜査で神戸地検が不起訴にした垣内元社長ら歴代3社長について、神戸第1検察審査会が「起訴相当」と議決した。

事故の背景には収益拡大を最優先した経営方針があった。再捜査に入る地検は、そうした企業風土にも切り込んでもらいたい。

産経新聞 2009年10月25日

JR西漏洩問題 「解体的出直し」できるか

JR福知山線脱線事故の報告書漏洩(ろうえい)問題で、JR西日本の佐々木隆之社長は内部調査の経過報告書を前原誠司国土交通相に提出し、陳謝した。同時に、取締役の山崎正夫前社長と土屋隆一郎副社長の引責辞任を決めた。事実上の解任だが、遅きに失した処分である。

報告書によると、事故の原因を調査していた同省の航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委員会)の委員に漏洩を働きかけたり、接触したりしたのは山崎前社長らのほか、新たに事故当時の垣内剛社長も含まれていたことが判明した。

JR西はこれまで強く否定してきたが、佐々木社長は漏洩工作が「組織ぐるみ」だったことをようやく認めた。幹部らによる不適切な働きかけを知っていた社員が36人にのぼったというから、当然であろう。

漏洩の働きかけだけではなく、報告書の書き換えの要求や、酒食を伴う接待も行っていた。同委員会が行う意見聴取会に対し、旧国鉄OBらに公述人として応募するように働きかけていた。JR西側に有利な意見を述べてもらう意図があったことは明らかだ。

見境もなく漏洩や隠蔽(いんぺい)工作に走ったJR西の企業体質にはあきれ果てる。前原国交相は「会社存続も難しい」と語ったが、解体的な出直しが必要であろう。

一方で、4人もの委員がJR西幹部と接触していた同委員会の側にも、大きな問題点があったのは明らかだ。山崎前社長が働きかけた委員にいたっては、要求通りにJR西に都合の悪い部分の削除まで求めた。最終報告書の内容を再点検するとともに、組織のあり方や委員の人選を見直すべきだ。

事故について、神戸地検は現場カーブの付け替え工事の際に鉄道本部長だった山崎前社長だけを業務上過失致死傷罪で在宅起訴した。刑事告訴されていた歴代社長3人については、嫌疑不十分で不起訴とした。

遺族の申し立てを受けた神戸第1検察審査会は、この3人についても「起訴相当」と議決した。議決書は、3人が刑事責任を問われないのは「到底、賛同できない」と、かなり思い切った表現で起訴を求めている。

再捜査に乗り出す地検は、起訴・不起訴の可否だけでなく、漏洩工作に走らせたJR西の組織上の問題点についても、厳しくチェックすべきである。

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