党首討論 谷垣氏が守勢に見えた

朝日新聞 2011年12月01日

党首討論 2大政党の近さ鮮明に

野田首相がきのう、初めての党首討論に臨んだ。

政権が発足して3カ月。日々の直接取材を受けず、記者会見も少ない首相がどんな発信をするのか、野党がどう切り返すのかに注目した。

主なテーマは環太平洋経済連携協定(TPP)と、社会保障と税の一体改革だった。

ともに国の将来を左右するテーマであり、中身の濃い政策論争を期待したが、議論はかみ合わなかった。

何より、民主、自民の2大政党の間の本質的な違いが見えなかった。

野田首相の狙いは、はっきりしていた。国会運営、政策協議で自民党の協力を引き出すことだ。準備も周到だった。

TPP参加問題では、3年前の自身の国会質問に、麻生政権側が「真剣に検討をすすめている」と答弁したことを取りあげて、いまの自民党の立ち位置をただした。

谷垣禎一総裁は「政府の情報が私たちに伝わっていない」と情報開示の不足を突いたが、党の態度は明言しなかった。

一体改革をめぐっては、首相は自民党の財政健全化責任法案に、「党派を超えた国会議員により構成される会議」を設けて政府の素案を検討するとあることを指摘。「われわれが素案をつくった暁には、ぜひ協議していただきたい」と求めた。

谷垣氏は、民主党が「任期中は消費税を増税しない」と約束していたことを理由に反論。解散・総選挙をしないままでは「うそのマニフェスト、民主主義の破壊に手を貸すことになる」と突っぱねた。

谷垣氏の指摘には一理ある。政府のTPPに関する情報開示はまだ足りないし、消費増税をめぐる首相の言動は公約違反のそしりを免れない。

年金一元化や7万円の最低保障年金の公約はどうなったのかという問いにも、首相ははっきりと答えるべきだった。

ただ、谷垣氏の主張はTPP参加や消費増税そのものに対する異論ではなかった。むしろ、政府・民主党と方向性に大差はなく、具体策づくりで協調する余地があるように見えた。

そもそも、経済連携も財政の立て直しも、どの党が政権に就いても向き合わざるを得ないのは明らかだ。

こんな状態のまま総選挙に突入しても、有権者は違いがわからず選びにくいだろう。

きのうの党首討論は改めて、2大政党の近さを示した。お互いに、もっと一致点を見いだす努力ができるはずだ。

毎日新聞 2011年12月01日

党首討論 谷垣氏が守勢に見えた

野田佳彦首相と谷垣禎一自民党総裁らによる初の党首討論が行われた。近く正念場を迎える消費税増税について首相は年内をめどに具体案を取りまとめる意向を示し、税制改革の協議に自民も応じるよう、谷垣氏に強く促した。

主要政策をめぐる発信力に両党首はこれまで乏しかった。政党の埋没を避けるためには、党の基本的立場を明確に国民に訴えかける覚悟がいる。自民もまた政府・与党批判に安住せず、税制の与野党協議や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐる姿勢を早急に整理しなければならない。

防衛省幹部による暴言問題など政権運営にほころびも目立つ首相だ。だが、この日の討論は比較的余裕をもって対応したのではないか。

焦点の消費増税について首相は年内取りまとめ方針を示したが、引き上げ時期や税率の明記については直接言及しなかった。TPPについて谷垣氏がコメなどの例外品目扱いの見解をただしたのに対しても、踏み込んだ答えはなかった。

それでも首相が追い込まれた印象をあまり与えなかったのは、自民や谷垣氏の立場があいまいなためだ。TPPをめぐり首相は野党時代の08年に自公政権の姿勢をただした自らの国会質問を引き合いに出し、自民の方針を反問した。谷垣氏は政府の情報公開不足を改めて強調したが、自党の立ち位置がはっきりしないと議論は深まらない。

消費税について首相は自民の参院選公約が税率10%を掲げている点を指摘、「われわれが素案をまとめればぜひ協議に応じてほしい」と谷垣氏に求めた。谷垣氏は民主党による税率引き上げは政権公約違反として、法整備前に衆院解散で民意を問うよう求め、対決姿勢を鮮明にした。だが、与野党協議そのものまで拒むような論法では説得力を欠く。

今回の討論が注目されたのは単に初対決というだけでなく、大阪ダブル選挙で既成政党が埋没ぶりを露呈した直後だったためだ。両党首は政治家の発信力という点で橋下徹前大阪府知事にすっかり主役を奪われたような感すらある。

かつての「小泉流」をほうふつとさせる大阪都一点張りの橋下氏の劇場型戦法には危うさもあり、国政にそのまま応用すべきものでもない。だが、わかりやすいメッセージが若者や無党派層の関心を呼び起こした事実を中央の政党は重く受け止めるべきだ。

行き過ぎたヤジに議場が覆われたのは残念だが、首相は討論で最低保障年金も含めた改革法案を13年度までに提出する方針も表明した。税と社会保障の一体改革へ国民の理解を得る先頭に立つ気構えを示す時だ。

読売新聞 2011年12月01日

党首討論 自民は消費税の協議に応じよ

野田首相の質問に、的確に切り返せないようでは野党第1党の党首として力不足だろう。

野田首相と谷垣自民党総裁らによる初の党首討論が行われた。谷垣氏は、消費税率引き上げ問題について、政府・民主党が年内に法案をまとめて閣議決定できるのかとただした。

野田首相は、年内をメドに結論を出したいと述べた。その上で、消費税の改革はどの政権でも先送りできない課題であり、素案をまとめた段階で協議に応じることを約束してほしいと迫った。

谷垣氏が即答を避けたのは残念だ。与党と協議し、消費税関連法案の早期成立を目指すべきだ。

消費税を含む抜本的な税制改革は、麻生政権が税制改正関連法の付則で道筋をつけたものである。自民党は消費税率の10%への引き上げを超党派の会議で検討することも参院選で公約している。

民主党の政権公約(マニフェスト)に消費税に関する記述がないことを理由に、谷垣氏が衆院解散を求めたのも大いに疑問だ。

自民党は、民主党のマニフェストは破綻しているとして子ども手当などバラマキ政策を見直すよう強く主張してきたではないか。

消費税問題での政府・民主党の政策転換は、本来、前向きに評価すべきなのに、衆院解散を求めるというのは筋が通らない。

欧州の財政危機を他山の石として、日本も財政再建を急がねばならない。与野党間の論議を棚上げし、衆院選後、またやり直すような悠長な対応は許されない。

一方で、民主党内に首相の足を引っ張る発言が出ているのは問題だ。小沢一郎元代表らが消費税率引き上げに反発している。

時計の針を逆に回すような言動を看過すべきではない。党執行部は、首相の掲げる方針に従うよう説得を重ねる必要がある。

環太平洋経済連携協定(TPP)について谷垣氏は、首相の交渉参加表明は時期尚早とし、政府に十分な情報公開を求めた。首相は、情報提供の重要性は認めながらも、「今、自民党の立ち位置はどうなのか」と問い返した。

谷垣氏は答えなかった。党内の賛否が割れているからだろう。

野田首相は、民主党内の反対論も踏まえて、交渉参加へ(かじ)を切った。谷垣氏は意見集約への姿勢すら見せていない。手続き論で政府を攻めても説得力を欠く。

谷垣氏は、次期衆院選で政権を奪還したいのなら、明確にTPP参加への覚悟を語り、政府側と政策を競うべきである。

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