朝日新聞 2011年11月30日
沖縄侮辱発言 アセス強行はあり得ぬ
女性と沖縄を蔑視する暴言であり、断じて許せない。
沖縄防衛局の田中聡局長が、米軍普天間飛行場の移設問題に絡んで、「これから犯す前に犯しますよと言いますか」という趣旨の発言をした。
沖縄の反対を無視して、名護市辺野古への移設を進めるための環境影響評価(アセスメント)の提出時期を明かさない政府の姿勢を、女性への性的暴行に例えたものだ。
那覇市の居酒屋で県内の報道関係者と懇談し、酒を飲んでいた。オフレコが前提でもあり、口が軽くなったのだろう。
地元紙が報じ、表面化した。朝日新聞は発言時は、その場にいなかったが、補強取材をして記事にした。私たちも、あってはならない暴言だと考える。
振り返れば、普天間移設のきっかけは、16年前の米海兵隊員による少女暴行事件だった。その後も米軍人による暴行事件は続いている。県民感情に少しでも寄り添える人物なら、こんな例え話をできるはずがない。
県民と向き合う責任者としては不適任極まりない。更迭は当然である。
野田政権は、沖縄の基地負担を軽減する具体策を少しずつ積み上げてきた。
米軍嘉手納基地での訓練の一部をグアムに移す。米軍属の公務中の犯罪を日本で裁判にかけられるよう、日米地位協定の運用を見直す、などだ。
いずれも不十分な内容だし、辺野古移設のための懐柔策という底意も否定できない。それでも、沖縄の信頼を取り戻したいという政府の心構えを示す効果はあったかもしれない。
そんな努力も水の泡だ。
仲井真弘多知事は「コメントもしたくない。口が汚れるから」と述べた。多くの県民が同じ思いだろう。
それにもかかわらず、政府は年内に、アセスメントの最終手続きに入る方針を変えないのだという。
沖縄県議会は今月、アセス提出の断念を求める意見書を全会一致で可決したばかりである。そこに、この暴言が重なったのだ。もはや、アセス手続きなど進むはずがないことは明らかではないか。
私たちは辺野古案はもう不可能であり、日米両政府は新たな策を探るべきだと繰り返し主張してきた。この騒動は辺野古案撤回への決定打に見える。
政府は、まず立ち止まるべきだ。何もなかったかのようにアセスを強行するなら、局長の暴言を追認したことになる。政府が過ちを重ねてはならない。
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毎日新聞 2011年11月30日
沖縄防衛局長発言 言語道断の地元侮辱だ
沖縄や女性を侮辱する発言が、責任ある防衛省の官僚から飛び出したことに、強い怒りを覚える。
沖縄防衛局の田中聡局長が、報道機関との懇談会で、米軍普天間飛行場の移設計画に基づく環境影響評価(アセスメント)の評価書の提出時期について、「犯す前に犯しますよと言いますか」と発言した。一川保夫防衛相が沖縄県に評価書を提出する時期を明言していないことに関連して語ったという。
評価書の提出は、飛行場の名護市辺野古への「県内移設」に向けた手続きだ。一方、沖縄は「県外移設」を求めて政府と対立している。発言は、沖縄が反対する県内移設に向けた措置を女性への性的暴行にたとえたものであり、言語道断の暴言だ。
一川防衛相が国会答弁や記者会見で沖縄側に陳謝し、田中局長を更迭したのは当然である。
沖縄防衛局は防衛省の地方組織の一つだが、政府の出先機関として沖縄の米軍基地問題を担当する同局には、とりわけ重要な役割がある。その責任者が「県内移設」推進を「暴行」と同列視したことは、「沖縄の同意を得て普天間移設を進める」という野田佳彦首相らの発言とは裏腹に、最後は沖縄の意向を無視して強行するというのが本音ではないか、沖縄をさげすむ気持ちが底にあるのではないか、との疑念を生む。そう受け取られても仕方ない。
普天間移設のきっかけは、1995年に沖縄で起きた米海兵隊員による少女暴行事件だった。那覇防衛施設局施設企画課長、大臣官房広報課長、地方協力企画課長などを歴任した田中局長はそれを熟知しているはずだ。この点からみても、「犯す」発言の無神経ぶりにはあきれる。
野田政権は、日米合意の履行を求める米政府の強い意向を受けて、来月下旬ごろには評価書提出に踏み切る予定だ。しかし、田中発言への沖縄の反発は強い。提出時期に影響する可能性もある。普天間移設はあくまで沖縄側の同意を前提に進めるよう改めて野田政権に求めたい。
今回の事態について、一川防衛相に監督責任があることは言うまでもない。政府は日米地位協定の運用見直しで沖縄との信頼回復に乗り出したばかりだ。陳謝だけで沖縄との関係が発言前に復するとは思えない。
その一川防衛相も就任早々、「安全保障は素人」発言で物議を醸し、最近も、ブータン国王夫妻を招いた宮中晩さん会を欠席して民主党参院議員の政治資金パーティーに出席、「私はこちらの方が大事だと思って参りました」とあいさつし、国会で謝罪した。野田政権発足からまもなく3カ月。閣僚も官僚も、政権運営に対する緊張感の欠如が目立つ。
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読売新聞 2011年12月01日
沖縄局長更迭 政府は信頼の再構築に全力を
傷ついた沖縄との信頼関係を回復するのは容易ではない。政府は、米軍基地問題に誠実に取り組むことで、関係再構築に全力を挙げるべきだ。
一川防衛相が、米軍普天間飛行場の移設問題をめぐり不適切な発言をしたとして、防衛省の田中聡沖縄防衛局長を更迭した。
田中氏は記者団との居酒屋での懇談で、普天間飛行場移設に関する環境影響評価書の沖縄県への提出について「犯す前にやらせろとは言わない」などと語った。
懇談は、報道しないというオフレコが条件だったが、地元紙の琉球新報が「公共性、公益性がある」との独自判断で記事化した。
この報道姿勢は疑問である。
オフレコ取材について日本新聞協会は「国民の知る権利にこたえうる重要な手段」としつつ、報道機関にオフレコを守る道義的責任があるとの見解を示している。
報道機関が、オフレコ取材の相手の了解を得ず一方的に報道するようだと、取材先との信頼関係が築けず、結果的に国民の知る権利の制約にもつながりかねない。
鉢呂吉雄前経済産業相が原発事故をめぐる失言で辞任した際は、オフレコ発言かどうか曖昧だったが、今回は明らかに違う。
無論、評価書の提出を女性への暴行に例えた田中氏の発言自体は極めて不適切だ。普天間問題の発端が1995年の女児暴行事件だったこともあり、沖縄県民が反発したのはもっともである。
こうした結果を招いた以上、田中氏の更迭は当然だろう。
野田首相は田中氏の発言について謝罪するとともに、環境影響評価書を予定通り提出する考えを示した。評価書の年内提出は日米間で何度も確認している。きちんと実行する必要がある。
政府は最近、日米地位協定の運用を見直し、米国人軍属の裁判を日本で行うことを可能にするなど沖縄との関係修復に努めていた。今後も、米軍の訓練の県外移転など、地元の基地負担の軽減策を地道に実行に移すことが大切だ。
米国では、連邦議会の国防費削減圧力が強く、在沖縄海兵隊のグアム移転が困難になりつつある。普天間問題が進展しなければ、普天間飛行場の固定化に加え、海兵隊移転が白紙になりかねない。
沖縄県側には、海兵隊移転を普天間問題と切り離して実現することへの期待があるが、それは、もはや不可能な情勢にある。
沖縄全体の基地負担軽減をどう進めるのか、政府と沖縄県は冷静に協議することが求められる。
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