「アラブの春」の難しさを改めて感じさせた。2月にムバラク体制が倒れたエジプトのタハリール広場でおきた、治安部隊とデモ隊の衝突である。
治安部隊による武力行使で、デモ隊の若者たちに多数の死傷者が出た。ムバラク大統領辞任で強権は倒れたはずなのに、同じことが繰り返される。
エジプトでは、28日に国会にあたる人民議会選挙の最初の投票がある。上下院の選挙をし、新議会の発足は来年3月だ。
今回、広場に集まった若者たちには、革命後に全権を握った軍への不満があった。
軍が任命した暫定政府は選挙を前に、軍予算などを軍の専権事項とする「憲法の基本原則」の受け入れを、全政治勢力に求めた。特権を守ろうとする意図は明らかである。
衝突のきっかけは、選挙で躍進が予想されるイスラム勢力が開いた抗議集会だ。若者たちはそのまま広場でデモを続けた。
若者たちは、政府機関に旧政権時代の幹部が居すわり、民衆に銃を向けた警察や治安部隊幹部も責任を問われぬまま残っていることに、不満が強い。
治安部隊が再び武力を使ったことが「何も変わっていない」という若者たちの主張を裏づける形になった。
3日間の衝突の後、軍最高司令官は「軍が権力にとどまる意思はない」と明言した。来年6月に大統領選挙をして、民政に移管すると約束した。暫定政府の辞任を認め、政治勢力との間で挙国一致内閣の発足で合意したことも明らかにした。
若者たちは発表に納得せず、軍政を直ちに終わらせ、文民中心の救国政府の発足を求める。
若い人たちの怒りは理解できる。だが、来週から始まる選挙の実施を優先し、そこで自分たちの主張を広げてほしい。
一方で、この国や社会が「怒れる若者」にどう対応するかという問題を忘れてはならない。
エジプトは平均年齢24歳で若い人が多い。旧政権時代は、政府高官とつながる一部の富裕層が就職や昇進で幅をきかせた。それが若者の失業や貧富の差になり、結婚できない若者が増えるなど社会の矛盾になった。
軍は今回、イスラム勢力をふくむ旧野党と事態収拾を協議したが、若者との対話がなかったことには大いに疑問がある。
革命の原動力となった若者たちはインターネットや携帯電話を使いこなす新世代だ。
若者を抜きに上からの「民主化」が進んでも若者たちの不満は消えず、社会の不安が続くことを忘れてはならない。
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