雇用創出10万人 介護を希望の仕事に

朝日新聞 2009年10月24日

緊急雇用対策 「人」への投資をもっと

年末に向け、さらに悪化しそうな雇用情勢に、どう立ち向かうのか。鳩山政権の緊急雇用対策が、昨日まとまった。

8月の完全失業者は360万人を超え、改善の兆しは見られない。雇用対策は今後の第2次補正や来年度予算でも取り組むことが期待されるが、目下の情勢の厳しさを考えれば、それらを待っている余裕はない。

自公政権当時の今年度補正予算ですでにつくった基金も活用しつつ、将来への布石となる内容も盛り込んだ。

職を失い困っている人の暮らしや、就職先をさがす新卒の若者を支える。同時に、介護や環境、農林といった分野でNPOや社会的企業の活用を通じた地域社会での「雇用創造」に本格的に取り組む。

こうした対策により、今年度末までに10万人の雇用を創出したり、下支えしたりする。

一つのポイントは職業訓練の充実をはじめとする「人づくり」だ。鳩山政権は公共事業に頼らない雇用対策をさぐってきた。その具体策が、職業訓練の充実だ。

今回の対策では、働きながら介護職の資格を身につけられる制度をつくる。人手不足感のある介護現場で働きながらの訓練は、安定雇用に結びつく可能性が高い。失業した人に生活費付きで職業訓練の機会を提供する事業の前倒しも決めた。

欧州の主要国では、職業訓練を雇用に結びつける施策に大幅な予算を投入している。日本では06年で国内総生産(GDP)比0.2%にすぎず、英国やドイツに比べて大幅に見劣りする。介護職を手始めに看護師など医療職種全般にも広げるべきだ。

「社会的企業」を通じた地域雇用の創造を打ち出したことも大きな特徴だ。NPOなどが社会に貢献する事業をビジネスとしても成功させ、安定した雇用をつくろうという狙いである。これも英国など欧州で発展してきた。

日本でも、病気の子でも預かってくれる保育事業や、住居がない失業者の自立支援といった福祉分野の社会的企業が生まれている。

「きれいな水を守りたい」という目標で行政や企業、市民が参加した環境NPOが地域の河川や公園の計画づくりを社会的企業として担う例もある。

多様化する生活者のニーズに応じるには、行政だけでは担いきれない。住民や企業、NPOなどの知恵を寄せ合い、地域の活力を取り戻す。そこにもっと雇用の場を生み出せるはずだ。それを政治の知恵でうまく支えていかねばならない。

そうした新たな方向が見えるとはいえ、緊急対策は文字通りとりあえずの意味しかない。年明けには財源を伴う本格的な雇用対策が迫られそうだ。

毎日新聞 2009年10月24日

雇用創出10万人 介護を希望の仕事に

政府は生活緊急支援と雇用創造を柱とする緊急雇用対策を決定した。従業員の休業補償を政府が肩代わりする雇用調整助成金の対象は今年1月ごろから急増し、8月現在で255万人に上る。勤務先の業績が下げ止まれば1年で支給は打ち切られるため、政府は年末以降に大量の失業者が出ることに危機感を持ち、緊急対策を迫られていたのだ。

生活対策としては、雇用や住居、生活支援の相談をハローワークで一括してできる「ワンストップサービス」、失業者や困窮者のために公営住宅の確保と活用などが盛り込まれた。雇用調整助成金の継続をはじめこうした生活対策を講じなければ、また「年越し派遣村」のような光景が繰り返されるだろう。しかし、長期的に見ると労働力を必要とされる職域に移動させなければ、潜在的失業者の解消にはつながらない。

その点、介護、グリーン(農林水産、環境・エネルギー、観光)、地域社会の3分野で人材育成研修を強化し、来年3月末までに約10万人の雇用下支え・創出効果を発揮することが対策に盛り込まれたのは期待したい。特に介護現場は慢性的な人手不足に陥っており、関西の高齢者介護施設の中には東北地方まで出向いて職員を確保しているケースもある。75歳以上の人口は急激に増え、2030年には2266万人と05年の2倍になる。集中的に雇用を創出していかなければ介護難民があふれるのを止められないだろう。

完全失業者が361万人もいるのにどうして介護現場は人手不足なのか。給料の安さや資格制度の壁がよく理由に挙げられるが、若者にとって介護の仕事で得られる報酬は生活できないほど安くはなく、資格がなくても介護施設で働いている人は大勢いる。問題は、結婚して子どもができてからも一家の生活を支えられる見通しが立たない給与体系や、資格取得で得られる専門性と報酬や社会的評価が連動していないところにある。

それでも家族介護の経験がある主婦や、企業を退職したシニアが働ける時間を選んで介護の仕事に入る姿は珍しくなくなった。会社を辞めて介護のNPOを設立する人、80歳を過ぎて一念発起しケアマネジャーの資格を取得して働いている人もいる。現役世代の男1人が家族の生活費全部を稼ぐという従来の家族モデルにこだわらなければ、今でも介護はライフスタイルや価値観に合わせて柔軟に働ける職場なのだ。

緊急雇用対策の中には、介護、福祉、医療分野で年内に5万人分の職業訓練確保というものもある。時代が求める産業構造の変化を雇用対策の面からも大胆に進めるべきだ。

読売新聞 2009年10月25日

緊急雇用対策 肝心なのは就労の場の確保だ

厳しい雇用情勢が続いている。鳩山首相が「政府を挙げて雇用の確保に取り組んでいく」と述べたのも当然である。

その具体策として、政府の緊急雇用対策本部が緊急対策を取りまとめた。

安全網の整備としては、ハローワークの雇用支援機能や住宅支援策の強化、職業訓練メニューの充実、雇用調整助成金の支給要件緩和――などの対策が並ぶ。

大半は前政権時代から実施されつつある施策の拡充である。新鮮味はないが、個々の対策を着実に実行し、成果につなげていかなければならない。

緊急対策は「情勢に即応して機動的に対応する」としている。こうした姿勢で、対策の見直しや追加策を検討することは大事だ。

ただ、過去には多額の予算を付けたにもかかわらず、不人気でほとんど活用されなかったものも少なくない。すでに実施中の制度も含め、効果を厳しく検証しながら進めていくべきだ。

8月の完全失業者は361万人で、1年前より89万人増えた。有効求人倍率は過去最悪の0・42倍まで低下している。

この春以降、新規求人は、製造業、情報通信業など11の主要産業すべてで前年同月を下回る状況が続いている。失業者を吸収する強力な産業が見当たらない。

職業訓練を受けても、就労の場がなければ学んだ技術を生かすことは出来ない。雇用の拡大と創出策こそ、喫緊の課題である。

この点について緊急対策は、介護や農林水産業、観光、環境分野の雇用創出を掲げた。

しかし、個々の分野ごとに、例えば向こう1~2年でどれだけの雇用創出が可能なのか、数値目標などは示していない。これらは成長産業として、よく取り上げられる分野だが、実現への確かな道筋を描けてこそ説得力を持つ。

海外要因などで企業の生産活動が回復してくれば、雇用にも明るさが見えてくるという楽観論もある。だが、政府としては、景気刺激策で産業界全体を活気づけていく方策を考えるべきだ。

緊急対策には新卒者の就職支援態勢の強化策も盛り込まれた。企業に対し、中途採用や通年採用の拡大も要請するという。

就職希望の高校3年生が求人の大幅な減少で苦しんでいる。大学生の就職戦線にも寒風が吹き荒れる。この問題も急を要する。緊急対策も指摘したように、「産業政策や文教政策と連動」した取り組みを強化してもらいたい。

産経新聞 2009年10月25日

緊急雇用対策 危機感もち実効性高めよ

政府が緊急雇用対策をまとめた。職業訓練の強化などで10万人規模の雇用創出を目指すほか、年末年始を控えて失業者の生活支援などを盛り込んだが、新たな財政措置はなく、当面のつなぎ対策に終始するなど力不足は否めない。

現在5%台半ばの完全失業率は年度末に向けて企業リストラが進んで6%台になる恐れもある。政府は第2次補正予算の編成を含めて実効ある対策を早急に打ち出す必要がある。

今回の対策では、働きながら介護福祉士やホームヘルパー2級の資格を取得できるように研修費用などを助成する。公共事業の削減で雇用が減る建設業から農林業への就業促進と環境分野の人材育成なども決めた。

ただ、わずか2回の会合で対策がまとめられただけに、既存の対策事業の焼き直しが目立つ。政府はこの対策で10万人の雇用下支え効果が見込めるとしているが、360万人以上の完全失業者が発生している中では不十分と言わざるを得ない。

また、ハローワークで求職から住居、生活支援の手続きを一括してできる「ワンストップ・サービス」を大都市圏で試験実施することも盛り込まれた。今回の対策で打ち出した数少ない新規政策といえる。

「派遣切り」などで仕事と住む場所を一度に失った人に対する新たな支援策だが、ハローワークを管轄する厚生労働省では「住宅探しまで担当できるのか」との異論もあった。国土交通省などの関係省庁と密接に連携し、実効性を高めてもらいたい。

一時休業などで従業員の雇用を守る企業に支払われる雇用調整助成金は、支給要件を緩和したこともあって3月から利用が急増している。

だが、今回の対策では平成21年度補正予算で創設された基金を活用するなどにとどまり、新たな予算措置は盛り込まれなかった。第2次補正予算を早期に編成することで、雇用調整助成金のさらなる要件緩和を含めた雇用の安全網の強化が不可欠だ。

政府はこの対策で「安心できる社会の最も重要な基盤は雇用の確保」との基本認識を示している。だが、残念ながら対策の中身からはそうした意識は感じられない。雇用情勢は厳しさを増している。政府はもっと危機感をもって臨まなくてはならない。

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