貧困と高齢者 地域で支える工夫を

朝日新聞 2011年11月17日

貧困と高齢者 地域で支える工夫を

年をとり、家族はなく、貧しい……。私たちの社会で、そんな人たちが増えている。

生活保護を受けている人は、最新の7月の調査で過去最多の約205万人となった。このうち65歳以上の単身高齢者は、3割前後とみられる。09年度は約50万人だった。この時点で10年前の1.8倍である。

4人が死亡する火災が起きた東京都新宿区のアパートは、こうした人たちが、都会の片隅でひっそり暮らす様子を浮きあがらせた。23人の住人のうち19人が生活保護を受けており、ほとんどが高齢者だった。

生活保護を受けている人に許される月額家賃は5万円余り。都会に物件は少ない。必然的に古くて狭い木造のアパートに集中する。

ひとり暮らしができるうちはいい。だが、年をとるにつれ、介護が必要になってくる。

高度成長期に地方から人が流入した都市部では今後、高齢・貧困・単身・要介護の人が増える。一方で、家族や地域社会のきずなは弱体化している。

こうした社会の変化に、生活保護や介護保険といった既存の公的福祉が追いつけるのか。

09年3月、火災で10人が犠牲になった群馬県の高齢者向け施設「静養ホームたまゆら」には、都内から要介護の生活保護受給者が送り込まれていた。

こんな悲しいことを繰り返したくない。身よりのない高齢者でも、いま住んでいる地域で暮らせるように工夫したい。

東京都内で活動するNPO法人・ふるさとの会は、高齢者に限らず、幅広い年齢層の生活困窮者を1100人以上、支援している。既存のアパートを改修したりして「支援付き住宅」をつくり、要介護の高齢者を受け入れる。介護保険など公的制度はしっかり活用するが、それだけでは生活できない。

そこで、同会が支援する若年層に、「さびしいときの相談相手になる」「掃除やゴミ出しをする」といった活動をしてもらい、賃金も払う。

同じ地域のなかで、高齢者のくらしを支え、若年者雇用の受け皿もつくる。こうした活動をさらに広げられないものか。

支援対象者の生活保護費から活動費を捻出する形式だけみれば、「貧困ビジネス」と区別がつきにくい。組織をオープンにし、外部の目が入るようにする姿勢は欠かせない。

近隣に暮らす私たちにも、見守りや声かけなど、できることはいくらでもある。誰かにお任せして乗り切れるほど、日本の高齢化の波は小さくない。

毎日新聞 2011年11月21日

生活保護最多 長期受給を解消しよう

病気や障害で働けなくなったり、失業したり、借金を背負って家族を失ったり……。予期しない事態が起きたときのために雇用保険や年金などの社会保障はある。それらがすべてなくても、私たちは健康で文化的な最低限度の生活を憲法で保障されている。「最後のセーフティーネット」と言われる生活保護だ。

戦後の混乱期に創設された制度だが、今年7月の受給者は205万人を超え、過去最多になった。10年度の給付費は計3兆4000億円に上る。受給者は高齢者が最も多いが、最近目立つのが病気や障害などがない現役世代の人だ。

非正規雇用が増えて今や雇用労働者の4割近くになった。長期の不況や円高で工場の閉鎖や拠点を海外に移す企業は多く、その影響を最も受けているのが非正規雇用労働者である。第1次産業の衰退、公共工事の減少、家族のいない単身世帯の増加なども背景にある。

生活保護の問題はいったん受給すると長期化してしまうことだ。働ける現役世代でも平均受給期間は5年近い。生活保護から抜け出せるのは全体の6%程度に過ぎない。基礎年金や最低賃金よりも生活保護の方が高水準であることや、医療や介護などの自己負担がないことも長期受給の一因と言われている。高齢の受給者は無年金・低年金対策ともあわせて議論されるべきだが、目下の課題は働ける人をどうやって生活保護から就労へと戻せるかである。

今年10月から職業訓練を受けていることを条件に生活費を月10万円支給する「第2のセーフティーネット」を施行した。ただ、生活保護受給者といっても、家庭内暴力や人間関係が問題でうつ状態の人、失業を機にアルコール依存になっている人、子育てや介護で働けない人、発達障害や精神障害のために職場定着が難しい人など百人百様である。それぞれの状態に合わせたきめ細かい相談支援、生活支援が必要だ。職業訓練が現実に求人のある職種と適合しているかも見直す必要がある。

仕事を失い家族もいないために自室に引きこもり、社会で活動する意欲を喪失している人も多い。イギリスでは貧困よりも社会的排除の側面から生活困窮者対策に取り組んできた。

市民の18人に1人が生活保護受給者という北海道釧路市でも受給者にきめ細かい相談支援を行い、ボランティアやアルバイトを始めるところから社会との結びつきを得ることをバックアップしている。受給者数は多いが受給総額を抑制し、受給者の社会的孤立の解消にも効果を上げている。

生活保護の問題は財政負担だけでなく社会的な孤立や分断にある。

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