東ア首脳会議 米中も地域の一員だ

朝日新聞 2011年11月19日

東ア首脳会議 米中も地域の一員だ

インドネシアで19日開かれる東アジア首脳会議に、米国とロシアが初めて参加する。発足6年目で、太平洋からインド洋までの大国が顔をそろえる。会議の重みは格段に増した。

世界の人口の約半分をカバーし、核保有国の多くが一堂に会する機会でもある。平和で繁栄する「アジアの世紀」に向け、相互協力とグローバルな規範づくりを語り合って欲しい。

焦点は、海洋紛争の防止のため、国際法の尊重という原則をどう確認できるかだ。中東の油田地帯からマラッカ海峡を通って太平洋に至るシーレーンは、世界経済の死活を握る。タンカーや貨物船がひしめく中、各国が軍事力を拡大していけば紛争の火だねになる。

中国がベトナム、フィリピンなどと領有権を争う南シナ海では、漁船の拿捕(だほ)など緊迫した状態が繰り返されている。米軍の調査船の活動が公海で中国艦船に妨害される事件も起きた。

偶発事故が紛争に発展しないような仕組みを一刻も早く確立しなければならない。透明なルールを確立し、東シナ海などにも適用できることが望ましい。

オバマ米大統領はオーストラリアでの演説で、安全保障政策では「アジア太平洋地域での米国のプレゼンス(存在感)と任務を最優先する」と宣言した。南シナ海やインド洋に近い同国北部に、海兵隊を恒常的に駐留させることも発表した。

イラク、アフガニスタン戦争に一区切りがつき、国防予算の大幅削減も迫られる中での決断である。海軍力を急ピッチで強化する中国を牽制(けんせい)する狙いがあることは言うまでもない。中国の参加が難しい環太平洋経済連携協定(TPP)の推進と並んで、「世界の成長センター」で米国主導の秩序を維持していく決意を示したものだろう。

中国では「封じ込め」と反発する声が上がる。だが、空母の保有やミサイル戦力の強化など中国の軍拡への懸念は東南アジア諸国も共有している。インドやロシアも新鋭艦の建造やハイテク兵器の導入を進めている。

こうした軍拡競争への懸念を取り除くため、会議は絶好の機会ではないか。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は立場の違いを超えて東南アジア非核地帯条約をまとめた実績を持ち、同条約の尊重を核保有国に働きかけている。

東アジアを米中の覇権争いの場にせず、繁栄を分かち合えるような安定した地域協力の基礎を築いていく必要がある。

太平洋の荒波を静める見取り図を、会議は示して欲しい。

毎日新聞 2011年11月20日

東アジアサミット 平和の維持こそ礎だ

世界の政治・経済の中心が欧米からアジア太平洋へと大きくシフトしつつある。ハワイのアジア太平洋経済協力会議(APEC)からインドネシア・バリ島の東アジアサミット(EAS)に至るここ1週間余りの国際政治の動きは、世界が大きな地殻変動期にさしかかっていることを強く印象づけた。日本外交がこれから何をすべきかが、かつてなく真剣に問われる時代だ。

今年で6回目を迎えるEASは、オバマ米大統領の初めての出席で格段に重みが増した。オバマ大統領はAPECのあとオーストラリアに立ち寄って海兵隊の豪駐留を発表、その足でインドネシアを訪問したが、米大統領がこれほど長期間にわたって本国を離れ、アジア太平洋地域にとどまるのは異例である。この地域における利害が最優先課題だという米国の意思を、世界に向かって明確にしたものといえよう。

米国とともに今年初参加となったロシアは、国内事情のためメドべージェフ大統領に代わりラブロフ外相を出席させたが、米露が加わったことで、EASは東アジアサミットというよりアジア太平洋サミットとしての性格を持つことになった。歴史的な節目といっていい。

日本が参加する主な国際会議には主要8カ国(G8)首脳会議、APEC、主要20カ国・地域(G20)などがあるが、G8は欧米の利害や中東情勢が中心となることが多く、APECやG20は経済や金融、貿易がテーマである。日本の国益に直結するアジア太平洋の政治問題を首脳同士で論議できる枠組みとして、EASの果たす役割は極めて大きい。日本もEASを外交の主舞台と位置づけていくべきだろう。

むろん、道筋は簡単ではない。海洋の安全など政治・安保をEASで協議したい米国と、それに消極的な中国との対立は今回も解消されなかった。経済、軍事両面における米中両国の主導権争いはこれからも激しくなるだろう。アジア太平洋地域の新たな秩序、ルールづくりはまさに今、始まったばかりだ。

中国は、この地域に領土的野心を持たず、自由で民主的な価値を重視する米国が各国から歓迎されている現実を、真摯(しんし)に受け止める必要がある。米国も、一方的な対中圧力は逆効果だと自覚すべきだ。はざまの日本は日米同盟を基軸としつつ、中国を枠組みに取りこむための、慎重で粘り強い外交が求められよう。

日本の繁栄はアジア太平洋の安定に支えられてきた。この地域の紛争拡大は日本に、そして世界に混乱をもたらす。平和の維持こそが礎であり、その責任は地域の全ての国が共有しなければならない。

読売新聞 2011年11月20日

東アジア外交 自由貿易圏づくりを主導せよ

アジア・太平洋の自由貿易圏の枠組みづくりを巡る動きが加速化している。日本は積極的な外交を展開し、経済連携を主導すべきである。

野田首相、中国の温家宝首相、韓国の李明博大統領が、インドネシア・バリで会談し、日中韓の自由貿易協定(FTA)の早期交渉入りを目指すことで合意した。3か国の投資協定交渉を年内に実質妥結させる方針も確認した。

米国など9か国は約1週間前、環太平洋経済連携協定(TPP)で大枠合意し、日本は交渉参加に向け、協議に入ると表明した。

中国はこの動きを警戒している。これまでは日中韓FTAに及び腰だったが、積極姿勢に転じたのは、米国主導のTPPに対抗する狙いがあるのだろう。

太平洋全域にまたがるアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)構想の実現に向け、唯一具体化しているのはTPPだ。

しかし、東南アジア諸国連合・日中韓(ASEANプラス3)や、これにインド、豪州、ニュージーランドも加えた「ASEANプラス6」の経済連携も、有力な道筋となり得る。

いずれの枠組みにも関与する主要国は日本だけである。

野田首相が、TPPと、中国やASEANの動きを「両方横目にみながら」取り組む意向を示したのは、妥当な考え方と言える。

日本は、TPPを軸に据え、日中韓FTAの実現や、ASEANとの連携強化も図るべきだ。それが、この地域の貿易自由化に弾みをつけることになろう。

日本の動きによっては、TPP交渉での米国の強硬姿勢をけん制する効果も期待できる。

一方、アジア・太平洋地域で経済連携を深めるためには、安定した安全保障環境が重要である。

バリで開かれた東アジア首脳会議(EAS)には米露が正式に参加した。これまで経済や防災などが中心だったEASを、首脳同士が地域の安保問題も討議する場として定着させることが肝要だ。

EASは、海洋に関する国際法の尊重や、紛争の平和的解決を明記した宣言をまとめた。

中国と、ベトナムやフィリピンなどの南シナ海での紛争は地域の懸念材料である。宣言はこうした問題を想定しており、中国に自制を促す意義は大きい。

日本は、EAS参加国の政府高官や有識者による「海洋フォーラム」設置を提案してきた。実現すれば、地域の海洋問題解決の糸口を探る場として活用できよう。

読売新聞 2011年11月19日

米アジア新戦略 地域安定に重み増す日米同盟

「太平洋国家」として米国が、外交・安全保障と経済政策の軸足をこの地域に置く戦略的決断を下した意味は大きい。

オバマ米大統領がオーストラリアで演説し、アジア太平洋を最重要地域と位置づけ、米国の役割を長期にわたり拡大していく方針を表明した。

10年に及んだ対テロ戦争が終局を迎え、イラクからもアフガニスタンからも米軍は撤収していく。アジア太平洋における強力な軍事的プレゼンス(存在)の堅持が、可能になると言える。

大統領は、財政赤字削減のため国防費も減らす中、この地域だけは影響を受けないと確約した。

米国の新戦略は、地域の安定と繁栄に寄与し、歓迎できる。日米同盟の役割も重みを増そう。

新戦略の背景に、軍事、経済で台頭した膨張中国の存在がある。問題は、中国の軍拡で地域の安保環境が変化していることだ。

中国は、「核心的利益」とみなす南シナ海の領有権を主張し、ベトナムなど東南アジアの近隣国と軋轢(あつれき)を生じている。

米国防総省は今夏、中国の軍事力に関する年次報告書で、中国が“空母キラー”といわれる対艦弾道ミサイルの開発など、西太平洋で米空母の展開を阻む「接近拒否」戦略の実行能力を向上させていることに警戒をあらわにした。

米豪両国が、米海兵隊の豪州駐留で合意したのは、こうした安保環境の変化に対応した措置の一環だ。海兵隊は来年からダーウィンの豪軍基地に常駐し、将来は2500人規模に増やすという。

沖縄や韓国などの駐留米軍は、すでに中国の弾道ミサイルの射程内にある。射程外にも米軍の行動拠点を確保することは、抑止力を強化する上で欠かせない。

中国は、米国に次ぐ世界2位の経済大国になったが、それに見合う責任ある行動をとるどころか、人民元の切り上げぺースも遅く、知的財産権を無視した違法コピー製品も絶えない。

「国際法や慣習、通商や航行の自由」が守られる国際秩序、「自由で公正な貿易、明確なルール」に基づく開かれた国際経済システムを追求しようというオバマ大統領の主張は正しい。

中国には、国際規範に基づく行動を粘り強く促す必要がある。

アジア太平洋地域の繁栄を維持することは、日米それぞれの成長戦略に直結する共通の課題である。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を通じた日米連携の強化も、地域の安定につながろう。

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