憲法改正原案を審議する目的で2007年に設置された衆院憲法審査会がようやく始動した。
民主党が、委員選任に応じないなど後ろ向きの姿勢を改めたからだ。衆参ねじれ国会の運営を円滑に進めるために、自民党などの要求に応えざるを得なかった面もある。
将来の憲法改正に備え、憲法や国の根幹に関わる法制度について精力的に議論してもらいたい。
17日の審査会では、参考人として出席した中山太郎・元衆院憲法調査会長が、大災害や有事の場合に、首相はどう対応すべきか、国民の生命、財産をどう守るのか、「突っ込んだ議論」を求めた。
憲法には、衆院解散中の参院の緊急集会を除けば、緊急事態に関する規定はない。多くの国の憲法は、緊急事態条項を備えていることからも、以前から、その必要性が指摘されていた。中山氏の主張は的を射たものである。
緊急事態に関しては、災害対策基本法や一連の有事法制などで個別的に規定されている。だが、政府が緊急事態に対処するには、首相権限を一時的に強化する一方、基本的人権が無原則に侵害されないよう規定する必要がある。
与野党は、東日本大震災での政府や自治体の対応を検証し、より深刻な事態にも耐えられる法制度を検討することが急務だ。
参院のあり方も見直すべきだ。国政を停滞させている衆参ねじれ問題の背景に、参院の強すぎる権限があるためだ。
参院の審査会も近く動き出す。両院の審査会で、衆参の役割分担や権能についてそれぞれ検討し、見解をまとめてはどうか。
審査会の各党意見表明で、自民党は「新しい時代に対応できる憲法改正を実現したい」と強調した。公明党は環境権など新たな権利を加える「加憲」に言及した。
民主党は憲法論議の必要性は認めながらも「震災の復旧・復興に最優先で取り組む中で審査会がスタートした。優先順位は相対的に下がる」との考えを示した。あまりに消極的な態度である。
震災復興が大事なことは言うまでもない。しかし、当面の課題と並行して憲法問題を話し合うことは十分可能なはずだ。
民主党は、05年の前原誠司代表当時、「未来志向の新しい憲法」を目指す憲法提言をまとめたが、その後、党内論議を封印した。
今春、党憲法調査会も4年ぶりに復活した。中野寛成会長の下でも議論し、改正の具体像をより明確にすることが肝要だ。
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