憲法審始動 緊急事態への備えを論議せよ

朝日新聞 2011年11月18日

憲法審査会 丁寧な議論に戻ろう

憲法のあり方を論じ、改正する際にはその案をつくる場になる衆院憲法審査会がきのう、実質的に始まった。

形のうえでは、安倍政権時代の07年8月に設置されていた。だが、憲法改正手続きを定めた国民投票法案の採決を自民、公明両党が強行したため、民主党などが委員を出すのを拒否。政権交代をはさんで「看板だけ」の状態が4年余り続いた。

それが動き出すのは、民主党の事情が大きい。衆参ねじれのもとで、野党の協力がほしい。だから自民党などに配慮し、審査会の始動に応じた。

憲法を議論する場を設け、与野党が向き合うのは悪いことではない。ただ、いま国会が優先すべきは何か。審査会をどのように運営するのか。現在の立ち位置を見誤ってはならない。

優先すべきは、まずは震災復興や原発事故への対応だ。それに経済の再生、税財政と社会保障の立て直し、エネルギー政策の検討などが続く。いずれも、内閣の命運をかけて取り組むべき重大問題が列をなす。

まさかとは思うが、こんなときに憲法の改正を急げば、国会をいま以上の混乱に陥れるだけであり、愚かなことだ。

スタートに合わせて、もうひとつ確認しておく。

党利党略を持ち込んではならない、ということだ。

審査会がのっけからつまずいたのは、安倍首相が07年参院選で、憲法改正を争点にしようとしたことだ。憲法改正には、衆参各院の3分の2以上の賛成が要る。党派を超えて合意を探るほか道はない。それなのに、選挙めあてで投票法案の採決を急ぎ、逆に停滞を招いた。

その採決までは、小政党にも発言時間を確保し、丁寧な質疑を重ねていた。そんな原点に立ち戻った審議を求める。

当面は、すでに施行されている国民投票法で示されている宿題への対応が求められる。国政の選挙権年齢や成年年齢の18歳への引き下げ、憲法に関連する民意をあらかじめ探るための国民投票の是非などだ。

少子高齢社会で若者の発言権を強めることや、直接民主主義の拡充は、政治の行き詰まりを打開する方策にもなりうる。

きのうの審査会では自民党などが、大震災への政府の対応の遅れを批判し、震災や有事といった非常事態に関する規定を憲法に設けることを検討すべきだと唱えた。

ただ、憲法が保障する人権の制約につながるような議論は、民主主義の根幹にかかわるだけに慎重にしなければならない。

読売新聞 2011年11月18日

憲法審始動 緊急事態への備えを論議せよ

憲法改正原案を審議する目的で2007年に設置された衆院憲法審査会がようやく始動した。

民主党が、委員選任に応じないなど後ろ向きの姿勢を改めたからだ。衆参ねじれ国会の運営を円滑に進めるために、自民党などの要求に応えざるを得なかった面もある。

将来の憲法改正に備え、憲法や国の根幹に関わる法制度について精力的に議論してもらいたい。

17日の審査会では、参考人として出席した中山太郎・元衆院憲法調査会長が、大災害や有事の場合に、首相はどう対応すべきか、国民の生命、財産をどう守るのか、「突っ込んだ議論」を求めた。

憲法には、衆院解散中の参院の緊急集会を除けば、緊急事態に関する規定はない。多くの国の憲法は、緊急事態条項を備えていることからも、以前から、その必要性が指摘されていた。中山氏の主張は的を射たものである。

緊急事態に関しては、災害対策基本法や一連の有事法制などで個別的に規定されている。だが、政府が緊急事態に対処するには、首相権限を一時的に強化する一方、基本的人権が無原則に侵害されないよう規定する必要がある。

与野党は、東日本大震災での政府や自治体の対応を検証し、より深刻な事態にも耐えられる法制度を検討することが急務だ。

参院のあり方も見直すべきだ。国政を停滞させている衆参ねじれ問題の背景に、参院の強すぎる権限があるためだ。

参院の審査会も近く動き出す。両院の審査会で、衆参の役割分担や権能についてそれぞれ検討し、見解をまとめてはどうか。

審査会の各党意見表明で、自民党は「新しい時代に対応できる憲法改正を実現したい」と強調した。公明党は環境権など新たな権利を加える「加憲」に言及した。

民主党は憲法論議の必要性は認めながらも「震災の復旧・復興に最優先で取り組む中で審査会がスタートした。優先順位は相対的に下がる」との考えを示した。あまりに消極的な態度である。

震災復興が大事なことは言うまでもない。しかし、当面の課題と並行して憲法問題を話し合うことは十分可能なはずだ。

民主党は、05年の前原誠司代表当時、「未来志向の新しい憲法」を目指す憲法提言をまとめたが、その後、党内論議を封印した。

今春、党憲法調査会も4年ぶりに復活した。中野寛成会長の下でも議論し、改正の具体像をより明確にすることが肝要だ。

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