TPPハワイ会合 国内の調整を急ごう

毎日新聞 2011年11月15日

TPPハワイ会合 国内の調整を急ごう

野田佳彦首相の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への「参加表明」によって、日本は久しぶりに経済外交で存在感を示した。カナダとメキシコも参加に意欲を示し、フィリピンとパプアニューギニアも参加を検討し始めたという。日本参加でTPP拡大にはずみがついた。

国内のTPP反対派は日本は「事前協議」に参加しただけだ、といっている。そうともいえる。TPP交渉の参加国になるには、メンバー国9カ国全部の承認が必要だ。日本はとりあえず9カ国の承認の取り付け交渉をしなければならない。それを事前交渉というならその通りだ。

面白い見方がある。「日本は人気ラーメン店の行列に並んだ」段階だというのである。評判のラーメンを食べるために並んだのである。並んだだけで食べずに帰ることはありえない。つまり事前交渉には違いないが、交渉参加は既定路線だ。

事前協議の段階では、米国との交渉に最も手間がかかるだろう。米国議会が米政府に圧力をかけている。牛肉問題、郵便貯金・簡易保険の業務拡大、自動車の対日輸出などについて、注文があるようだ。

米国はかつてカナダの乳製品、鶏肉の貿易に障壁があるとして、カナダのTPP参加を拒否した経緯がある。日本政府は入り口で早くも交渉能力を試されることになる。

TPPの現状は進展といえば進展しているが、難しい問題の交渉はこれからだ。ハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、TPP9カ国は「大枠合意」を発表したが、一般的な原則の域を出ていない。

米国は来年中に交渉を妥結させたい意向のようである。だが、米国の専門家ですら米大統領選の行われる年に交渉が決着する可能性はない、と見ている。日本が国益を主張する時間は十分ある。

注目すべきはメキシコなど多くの国がTPPに加わることを考え始めた点である。自由貿易圏の力が一定の参加国数、経済力を超えると、雪崩を打って膨張し始める。そこに入らないと不利益になるからだ。TPPの狙いはそこにある。中国やロシアも参加しないと不利になり、参加のためには経済の国家介入をやめなければならなくなる。それがTPPのベストシナリオだろう。

国内ではTPPの交渉のテーブルに「すべて」をのせるか「例外」を留保するか、議論になっている。重要なのはしっかりした農業再生策を早くつくることだ。農業の自立のめどが立ってこそ、日本はTPPでリーダーシップを発揮できる。外との交渉とともに、国内調整を急がなければならない。

読売新聞 2011年11月17日

自民党 TPP推進は政権担う条件だ

自由貿易の拡大による成長戦略は、自民党政権が長年取り組んできたことではないか。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題を巡る自民党の姿勢には、疑問符を付けざるを得ない。

谷垣総裁は16日、全国の町村議会議長を前に、野田首相のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での交渉参加表明に絶対反対すると主張してきたと強調した。その上で「民主党政権に国益を守る交渉が出来るのか」と批判した。

この期に及んで何を言っているのか。参加を表明しなかったらカナダ、メキシコにも後れを取り、深刻な状況を招いただろう。

経団連の米倉弘昌会長は、「日本だけが取り残され、国際社会からの信頼を失いかねなかった」と指摘した。自民党の主張が、政権に復帰した場合には政権運営の「足かせ」になるだろうと苦言を呈したのも、もっともである。

政権党として経験を積んだ自民党だからこそ、日米同盟と自由貿易体制の重要性について民主党より深く理解しているはずだ。

それなのに、党幹部からは「TPPはアジアの成長を取り込むツールではない。やはり中国、韓国、インドを巻き込む新たな枠組みが必要ではないか」といった非現実的な発言さえ出ている。

野田首相のTPP参加表明は拙速として、参院の問責決議も視野に追及するという。米国をはじめ、関係国との厳しい交渉に入ろうというのに、自民党は政府の交渉力を弱めたいのか。TPPを政争の具にしてはなるまい。

石破茂・前政調会長は、「首相が交渉に参加すると表明した以上、我が党が離脱すると言ったら日米関係はもたない」と語り、自民党がむしろ、政府に政策を要求すべきだと主張している。

日本の輸出産業の競争力をどう強化し、農業をいかに再生するのか、自民党の政策を聞きたい。

社会保障・税一体改革の消費税率引き上げ問題も、同様である。どの政権でも財政再建は直面する課題だ。自民党はもっと積極的に取り組む必要がある。

与党との協議に公明党は応じる方針を示している。自民党があくまで協議を拒むのなら、それは党利党略でしかない。

自民党は第3次補正予算案成立後、野田政権との対決姿勢を強め、衆院解散に追い込む構えだ。

だが、世論調査で自民党の支持率は、民主党の支持率を下回っている。従来通りの対決一辺倒では、国民の支持は得られない。

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