裁判員制度 定着への礎となる「合憲」判断

朝日新聞 2011年11月19日

裁判員は合憲 市民が司法を強くする

「裁判員制度は憲法に違反しない」。そんな判決が最高裁大法廷で言い渡された。

国民の司法参加の話が本格化した90年代末からの「合憲か違憲か」の争いに決着がついた。

裁判官でない一般の人に裁かれるのは被告の権利を侵す。参加の義務づけは憲法が禁ずる苦役にあたる……。違憲の主張はさまざまだが、そうした指摘を踏まえ、憲法に適合するよう工夫して制度はつくられた。

じつは憲法と司法参加の関係は、ここにきて急に語られるようになったわけではない。

憲法を制定する段階から議論があり、将来、参加に道を開くときの妨げにならぬようにと条文が練られた。先人の見識と知恵にあらためて敬服する。

国民が裁判に加わる意味あいを、いま一度考えてみたい。

裁判員の負担は軽くない。プロに任せておけばいいではないか、との声は根強くある。

だが国民から縁遠く、専門の世界に閉じこもる裁判所が、私たちにとって本当に頼りになる存在であり得るだろうか。

司法は、世の多数にあらがっても人権や正義を守る使命を担う。そのために、国会が定めた法律をおかしいといったり、行政の決定を取り消したりする権限を与えられている。しかし国民との結びつきは国会などに比べて弱く、責任をまっとうしていけるのか心配がぬぐえない。

そんな司法の世界に主権者である国民が入っていくことで、よって立つ基盤を強化し、本来の役割をしっかり果たさせる。司法参加の意義はここにある。

裁判員と裁判官がともに悩み考える営みを通じて、裁判の質が高まり、司法の機能が向上することは、結果として人々に豊かな果実をもたらす。

みんなで一定の負担を引き受けながら、より良い社会をつくる。それが民主主義であり、今回の判決の背景にも同じ思想が流れているように思う。

制度が始まって2年半。「罪を犯した人の社会復帰や治安について考える機会になった」と参加の経験を前向きにとらえる裁判員が多い。国民がそばにいるという緊張感は裁判官、検察官、弁護士をきたえ、長すぎる裁判の見直しをはじめ、これまで進んでこなかった改革を後押しする力にもなった。

もちろん課題はまだ多いし、思わぬ障害が立ちはだかるかもしれない。だがそれを乗り越えることで、制度はより確かなものになってゆく。

この国の主人公は一人一人の国民である。判決は、その思いを新たにする契機になった。

毎日新聞 2011年11月17日

裁判員制度合憲 肉声を生かし定着図れ

裁判員制度の合憲性が争われた覚醒剤密輸事件の上告審判決で、最高裁大法廷が「合憲」とする初判断を示した。

1、2審で実刑判決を言い渡された被告・弁護側は、裁判官以外の国民が裁判を行うことを想定した規定は憲法上ないとした。その上で、裁判員制度は、憲法で保障された「公平な裁判を受ける被告の権利」や、「裁判官の独立」などの規定に違反すると主張していた。

最高裁は、憲法制定時の経緯にも触れながら、「憲法は国民の司法参加を許容している」と、15人の裁判官全員が一致して結論づけた。

憲法との適合性は、制度を作る時点で憲法学者も含め議論されていた。最高裁が明快に合憲判断をしたのは当然だろう。

注目されるのは、判決の中で「法曹のみによって実現される高度の専門性は、時に国民の理解を困難にし、その感覚から乖離(かいり)したものにもなりかねない」と指摘したことだ。

従来の職業裁判官による裁判の限界を冷静に自己分析したとも受け取れる。今後もその姿勢で、国民との共同作業である裁判員裁判を定着させる努力を続けてもらいたい。

裁判員制度も3年目だ。順調に運用されていると評価できるだろう。

2年目の昨年は、20歳代から70歳以上の幅広い世代から8673人が裁判員に選ばれた。約7割の裁判が3、4日で終了している。アンケートでは、経験者の9割以上が「非常によい経験」「よい経験」と回答しており、司法が身近になったと実感している様子がうかがえる。

一方で、裁判所から呼び出しがあった候補者12万人の約半数が事前の書面での申し出で辞退が認められている。裁判所側も、事情に応じ柔軟に対応しているとみられる。

もちろん、運用上の工夫の必要性や課題も見えてきた。

大阪地裁の裁判員裁判で先月、被告に死刑判決が言い渡された5人死亡の放火殺人事件では、審理期間が過去最長の60日間にわたった。ただし、実質的な拘束日数は18日間で、ゆとりを持たせたスケジュールを裁判員らは会見で評価した。連日開廷では、仕事の都合がつかぬこともあるだろう。日程設定は、今後も工夫してもらいたい。

この裁判では、絞首刑による死刑執行が残虐かどうかも争点になった。裁判員からは国会での国民的議論を求める声が出た。また、裁判員裁判では、社会での更生に重きを置き、執行猶予判決で保護観察を付す比率が高くなっている。体制を整備するためには、人員や予算の拡充が必要だ。国会や政府は、裁判員の声にしっかり耳を傾けてほしい。

読売新聞 2011年11月17日

裁判員制度 定着への礎となる「合憲」判断

裁判員制度が憲法に違反するかどうか、が争われた刑事裁判で、最高裁大法廷は「憲法に違反しない」との判決を言い渡した。

15人の裁判官の全員一致による結論だった。

2009年5月の裁判員制度導入以来、その合違憲性を最高裁が判断したのは初めてである。

裁判員制度を推進する最高裁が合憲判断を示すのは、当然とも言える。だが、制度を根付かせていくうえでは、一つの節目となる判決と言えよう。

被告は、覚醒剤を密輸したとして起訴されたフィリピン国籍の女だ。千葉地裁の裁判員裁判で実刑判決を受けた。

被告側は控訴審で、「裁判官でない裁判員が1審に関与したのは違憲」と無罪を主張したが、棄却され、上告した。

被告側が「違憲」の最大の根拠としたのは、地裁の裁判官を「最高裁が指名した者の名簿から、内閣が任命する」と定めた憲法の規定だ。選挙人名簿から、くじ引きで裁判員を選ぶ制度は、この規定に違反していると主張した。

これに対し、最高裁は、地裁の裁判は裁判官だけで実施しなければならないという憲法の規定は存在しないと指摘した。

「憲法制定当時、政府内では陪審制や参審制を採用することも可能だと解されていた」との見解も示し、憲法は司法への国民参加を禁じていないと結論付けた。

被告側の他の違憲主張について、最高裁がつぶさに憲法上の判断を示したことも注目される。

裁判員制度が「裁判官の独立」を侵害するという主張に対しては、「裁判官を裁判の基本的な担い手として、公正中立な裁判の実現が図られている」と退けた。

裁判員を務めることが、憲法が禁じた「苦役」に当たるかどうかについては、「辞退に関する柔軟な制度を設けている」などとして、合憲判断を示した。

裁判員制度を巡っては、制度設計の段階から憲法上の様々な問題点が指摘された。その議論を置き去りにしたまま、制度がスタートした経緯がある。

今回の判決からは、裁判員制度の憲法問題に決着をつけたいという最高裁の意向がうかがえる。

導入から2年半、裁判員制度は、選ばれた裁判員が忠実に責務を果たしており、ほぼ順調に運用されていると言えるだろう。

法的には「合憲」となったが、制度の定着には、裁判員の負担軽減などについて、裁判所側の一層の配慮が必要だ。

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