視点・プロ球団の名称 地域貢献考えるなら

朝日新聞 2011年11月11日

モバゲー球団 きちんと野球をやろう

プロ野球・横浜ベイスターズの売却が決まった。日本野球機構の審査を経て、12月1日のオーナー会議で認められれば、新球団「横浜DeNAベイスターズ」が生まれる。

ディー・エヌ・エー(DeNA)は携帯電話のゲームサイト「モバゲー」を運営するIT企業だ。若者は「モバゲー球団」として受けとめるだろう。小さな電話を舞台に100円単位の金を数千万の会員から集める業界が球団をもつ時代になった。

2004年の楽天、ソフトバンクに続く、IT企業による球界参入だ。これまで球団を持った親会社をながめると、新聞、鉄道、映画、自動車、食品、金融、テレビと変わってきた。勢いのある産業分野の移り変わりを感じずにいられない。

手放す側のTBSホールディングスは、年間20億円といわれる赤字に苦しんだ。かつて野球協約でうたったように、野球を「文化的公共財」とするなら、わずか10年で投げ出す責任も問われよう。買収したときに140億円だった球団株が65億円でしか売れなかったのも、価値を高める努力を怠ってきたからにほかならない。

これからDeNAに求められるのは、スポーツを扱う責任と覚悟である。きちんと野球に取り組む、ということだ。

春田真会長は「会社の価値を高めるためには球団の力が大きいと判断した」と話している。既存球団の反対で断念したが、はじめは「モバゲー」を球団名に入れることを望んだ。宣伝効果への期待をはっきりと口にしている。だが、ビジネスの道具としてだけとらえ、球団を持つだけで満足してもらうわけにはいかない。

テレビ視聴率が落ちて放映権料が減り、球団経営の見直しが叫ばれてひさしい。黒字球団は巨人や阪神などごく少ないといわれる。そんな厳しい環境で札幌に移った日本ハムや、仙台によった楽天は成功をおさめた。

キーワードは地域密着だ。

プロ野球の日米比較に詳しい大坪正則・帝京大教授は「地域や地元住民と密着しようという思想なしに、このビジネスは成り立たない。損益だけで球団経営を語るのは、その思想がない証拠」と指摘する。

まず、地元の横浜とどう向き合うかが問われる。

DeNAは、ソーシャルネットワークと連動した生中継や、野球ゲーム配信などのアイデアを示している。3年で球団の黒字化をめざすという。球界を刺激する気概をもって、新たな風を吹き込んでほしい。

毎日新聞 2011年11月07日

視点・プロ球団の名称 地域貢献考えるなら

プロスポーツも地域に根付いた球団経営が求められる時代、球団名はどうあるべきか。

プロ野球・横浜ベイスターズを保有するTBSホールディングスと、ゲームサイト運営会社「ディー・エヌ・エー(DeNA)」との売却交渉がまとまった。新球団名は「横浜DeNAベイスターズ」が予定されている。舌をかみそうだ。

当初、DeNAは球団名に自社が運営する携帯電話向けゲームサイト「Mobage(モバゲー)」を使用する意向だった。だが、巨人の渡辺恒雄球団会長が、商品名を球団名にすることは野球協約の内規に抵触することを挙げ、「売名にならないよう格好つけてもらわないと」と語ったため、断念した。

いくつか疑問が浮かぶ。なぜ企業名ならよくて商品名はいけないのか。「売名は許されない」としながらヤクルトや中日などのように企業名と商品名が同じ球団が存在する。ご都合主義との指摘にどう答えるか。そもそも球団名についての内規は存在するのか。明文化されたものがあるならば、透明性確保のためにも公表するか、野球協約を改正して盛り込むべきだろう。プロ野球ビジネスに関心と興味を持つ企業が今後、新規参入の判断をする手助けにもなる。

企業が球団名に自社名をつけるのは税務対策上、都合がいい。1954年の国税庁通達は、親会社が球団に支出した金銭を広告宣伝費として認めたうえで、赤字補填(ほてん)の支出は損金扱いとするとしている。親会社にすれば法人税を軽減できるメリットがあり、「超法規的措置」とも指摘されている。実際、「市民球団」を掲げているある球団のオーナーは以前、球団名を地域名に変える可能性を尋ねた同僚記者の取材に「会社の名前がなくなったら(お金を)出してもらえない」と答えている。

時代は変わりつつある。地域密着の重要性は広く浸透していてパ・リーグの場合、5球団が企業名の前に地域名をつけている。だが、中途半端な印象はぬぐえず、定着していない。もちろん球団名を地域名に変えたからといって経営が改善するわけではない。今回の横浜がいい例だ。だが、企業名をつけている限り、プロ野球チームは私企業の広告宣伝の道具としての位置から抜け出すことはできないことも事実だろう。

DeNAはプロ野球への参入目的の一つに「地域社会への貢献」を挙げている。地元自治体との連携を強め、すでに今いるファンに抵抗感なく応援してもらうためにも球団名は「横浜ベイスターズ」のままがいい。

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