復興増税25年 理念なき与野党妥協

朝日新聞 2011年11月09日

所得増税25年 消費増税はできるのか

東日本大震災の復興費用をまかなうための臨時増税のうち、所得増税の期間を25年にすることで、民主と自民、公明の3党が合意した。

政府・民主党の当初案は10年だったが、公明党の意見を受けて15年になり、自民党の主張をいれてさらに10年延びた。

臨時増税の税収は、復興資金をいち早く確保するために発行する復興債の返済にあてる。日本の財政は先進国の中でも最悪の水準だ。国の借金残高は1千兆円を上回る見通しとなり、国内総生産(GDP)の2倍を超す。復興のための財源をあらかじめ確保したことは、一定の責任を果たしたと言える。

ただ、25年は長すぎる。

1年あたりの増税額を抑えるためだが、将来の世代に負担を先送りしないことが臨時増税の目的だったはずだ。建設国債を60年かけて返済しているのと比べれば短いとはいえ、これから生まれてくる世代にも負担増が及ぶ長さである。

心配なのは、増税に対する与野党の姿勢だ。一連のやりとりから浮かび上がるのは、国民に負担増を求める決断から逃げたい、という姿勢である。

政府・与党はこの夏に決めた「社会保障と税の一体改革」で消費税収を社会保障にあてることにし、2010年代半ばまでに消費税率を段階的に10%へ引き上げる方針を決めた。来年の通常国会に法案を出す予定で、今年末までに増税の時期や幅などを決める段取りだ。

ところが、民主党内では依然として反対が根強い。当選回数が少ない議員が多く、次の選挙への影響が心配なのだろう。

国の財政を圧迫している最大の原因は、高齢化に伴う社会保障費の増加だ。社会保障費は、建設国債の対象となる道路や橋などとは違い、まさに今の世代のために使われる。それを借金でまかない、将来の世代につけ回してはいけない。先送りはもう限界だ。欧州の財政危機は対岸の火事ではない。

自公両党にも注文がある。

09年に改正された所得税法の付則には「消費税を含む税制の抜本的改革を行うため、11年度までに必要な法制上の措置を講じる」との規定がある。決めたのは自公政権だ。

さらに自民党は、昨年の参院選での公約に「消費税は当面10%とし、全額を社会保障費に充当する財源とします」と掲げていた。忘れてもらっては困る。

財政の悪化に歯止めをかけるには、増税から逃げてはいけない。与野党ともこのことを自覚してほしい。

毎日新聞 2011年11月09日

復興増税25年 理念なき与野党妥協

民主、自民、公明の3党が東日本大震災の復興財源を賄う復興債の償還期間を「25年」とすることで合意した。注目された所得税の増税期間も政府・与党の当初案にあった「10年」から倍以上に延びることになる。償還期間の決着により、11年度第3次補正予算案や予算執行に必要な増税関連法案が成立に近づいた。

だが、何とも理念を欠く妥協である。復興事業が盛んに行われている間に増税などで財源を回収する、というのが野田佳彦首相の考えだったはずだ。「長い償還期間は若い世代に負担を先送りすることになる」とし「今を生きる世代が負担する」と主張していたではないか。

それが公明党との協議で「15~20年」となり、自民党の同意を得るため結局、「25年」まで譲歩した。若い世代どころか、東日本大震災を体験していない、これから生まれてくる世代にも負担が及ぶことになる。

財源の負担者が、その使途に納得をし、無駄な使われ方がないか監視するのが納税の原則だ。意思表示はできず負担だけ強いられる不公平をこれ以上許してはいけない。

確かに、ねじれ国会下で物事を動かしていくには妥協も必要だろう。しかし、単なる数字の積み上げには政治の創意も工夫も感じられない。所得税の単年度負担増を抑えるため増税期間を長くしながら、所得税の増税額拡大につながる、たばこ税引き上げを見送るのも、納得し難い。

これでは、今後、本格化する消費税増税を巡る与野党協議が心配だ。

まずは政府と民主党が反省すべきだろう。7月の関係閣僚合意で「5年が基本」だった償還期間を「10年」にし、さらに民主党内の反発により「10年を基本」に緩めた。自ら長期化の土壌を作った責任は大きい。

野党にも言いたい。復興債を通常の赤字国債と別扱いにするのは、日本の財政がすでに相当悪化しているからだ。その責任は自民党にも大いにある。選挙を意識し、痛みを強いる政策にことごとく反対する、というのでは、世界的に大問題となっている欧州の債務危機を全く分かっていないとしか言いようがない。

野田首相が主要20カ国・地域(G20)首脳会議で表明した消費税引き上げ方針が、国内の手続きを軽視した「国際公約」だとして野党などが批判しているが、見当違いだ。

増大する社会保障費の財源確保は日本が必要としていることであり、世界が頼んでいるのではない。金融市場も含め世界が注目しているのは、日本が消費税をいつ何%にするかではなく、与野党が壁を乗り越え、財政再建に本気で取り組む政治に変われるかどうかだ、ということも付け加えておきたい。

読売新聞 2011年11月09日

復興債25年償還 3党合意を「消費税」に生かせ

東日本大震災の復興財源に充てる復興債の償還期間について、民主、自民、公明3党は、政府案の10年を25年に延長することで合意した。

最大の焦点だった償還期間が決着し、2011年度第3次補正予算案と復興財源法案が月内に成立する見通しとなった。

本格的な復興予算の執行に向けて、与野党が増税問題で歩み寄ったことは一歩前進と言えよう。

復興費用の大半は、政府が国債の一種である復興債を発行して調達し、その後、所得税やたばこ税などを時限的に増税して返済する仕組みだ。問題は、どれぐらいの償還期間にするかだった。

政府税制調査会は5年と10年の2案を示し、首相は10年を指示した。これに対し、公明党が15~20年、自民党が建設国債並みの60年を主張したため、民主党は10年から15年、25年と譲歩を重ねた。

ねじれ国会では、自公両党の賛成がなければ、復興予算の関連法案を成立させられない。民主党が妥協したのは、やむを得まい。

償還財源の柱となる所得税の増税期間は、10年から25年に延長される。長期化すれば、単年度の税負担は軽くなる。年収800万円の標準世帯の増税額は年5360円で、政府案の10年に比べると4割にとどまる。

だが、全体の増税額は変わらない。例えば、35歳のサラリーマンであれば、60歳の定年時まで負担し続けなければならず、震災後に生まれた子どもにもツケが及ぶ。目先の増税額を少しでも圧縮することに腐心し過ぎたからだ。

野田首相が「将来世代に負担を先送りしない」と強調した復興増税の基本理念が失われたのは、残念だ。これでは、臨時増税とは言えないのではないか。

10年代半ばまでに消費税率を段階的に10%まで引き上げれば、増税時期が長期にわたって重なり、消費や経済全体への悪影響も懸念される。復興増税は短期間で切り上げるのが本来の姿だろう。

政府が増税対象としているたばこ税の扱いについても、与野党で早急に結論を出すべきである。

今回の3党合意の内容については問題もあるが、政治を前に動かす枠組みが維持された意味は大きい。社会保障と税の一体改革に伴う消費税率引き上げという難題の解決にもつながるからである。

財政は危機的状況にある。税負担の必要性を国民に真摯(しんし)に訴えることが政治の責任だ。各党には、財政再建に向けた覚悟と合意形成への努力が求められる。

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