ユネスコ問題 日本も仲介に努めよ

毎日新聞 2011年11月04日

ユネスコ問題 日本も仲介に努めよ

突き詰めれば「国際機関はいかにあるべきか」「国際社会の公正さとは何か」という問題だろうか。

国連教育科学文化機関(ユネスコ)が総会でパレスチナの正式加盟の是非を諮り、賛成107、反対14、棄権52の大差で可決した。すると反対票を投じた米国が反発し、ユネスコへの分担金(当面約48億円)凍結を発表したため、ユネスコが機能不全に陥ることが懸念されている。

米国は80年代にユネスコの姿勢を批判して脱退し、03年に復帰した。しばしば国連への分担金支払いを凍結、滞納してきた経緯もある。今回の凍結についても、自国の主張が通らないから分担金を払わないというのはおとなげないと言うしかない。パレスチナ関係の国内法による措置とはいえ、オバマ政権の国際協調路線に照らしても違和感がある。

パレスチナのユネスコ加盟は、イスラエルに占領されてきたヨルダン川西岸などの文化遺産を守る目的もある。だが、国連で「オブザーバー」資格のパレスチナは、国家としての正式加盟に向けてユネスコ加盟を一里塚にしたい思惑もあろう。イスラエルと同盟国の米国が神経をとがらせるのも無理はない。

私たちは、米国を仲介としたイスラエル・パレスチナ交渉の継続を望む。中東和平の最終的解決は2国家の平和的共存しかない。交渉の枠組みを保つべくパレスチナも自重すべきである。だが、パレスチナがユネスコや国連への正式加盟を求めれば交渉の道は断たれるというのは、やや短絡的な議論ではなかろうか。

なぜなら中東和平にはイスラエルに由来する問題も多いからだ。たとえば国連緊急特別総会は03年、イスラエルが造る分離壁の建設中止などを求める決議を圧倒的多数の賛成で採択し、国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)は04年、分離壁建設を「国際法違反」と裁定したが、分離壁問題は手つかずのままだ。

ユダヤ人入植地もそうだ。占領地への移住は国際条約上の問題がある。だが、イスラエルはパレスチナへの「制裁」として入植地建設を推進しパレスチナへの送金やユネスコ公式訪問団の入国を拒否するという。イスラエルの言い分もあろうが、国際世論に謙虚に耳を傾けてほしい。

米国では来年の大統領選などを控えて、親イスラエル組織の存在感が増している。再選をめざすオバマ大統領は動きにくいだろう。ユネスコの投票で棄権に回った日本は93年以降、約12億ドルの対パレスチナ支援を実施した大口支援国だ。この際、イスラエルとパレスチナの歩み寄りに一役買ってはどうか。双方の激突で中東和平プロセスが空中分解する事態は何としても避けたい。

読売新聞 2011年11月07日

ユネスコ加盟 パレスチナに必要な和平交渉

国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)総会が、パレスチナの加盟を賛成多数で承認した。

主要な国連機関で、パレスチナの正式加盟が認められたのは初めてだ。自治政府のマリキ外相は採決後、「歴史的な瞬間だ」と意義を強調した。

パレスチナは、独立国家としての国際的な承認取り付けに拍車をかける戦術として、ユネスコ加盟を狙ったのだろう。

パレスチナは、将来の国家領土と考える、ヨルダン川西岸にある聖書ゆかりの史跡をユネスコ世界遺産に登録させたい立場だ。その動きに弾みがつくのは確実だ。

だが、加盟によって、かえって肝心の和平交渉が遠ざかることになりはしないか。懸念は残る。

反対票を投じた米国は、ユネスコ予算の支払い停止を表明した。イスラエルとの和平合意がない現状で、パレスチナを国家扱いする国連機関には資金拠出を禁じる法律があるからだ。

イスラエルも強く反発した。報復措置として、ヨルダン川西岸でのユダヤ人入植地建設を加速することを決めた。

この背景に、パレスチナが9月に申請した国連加盟問題がある。安全保障理事会で審議中だが、米国は拒否権を行使する構えだ。

パレスチナは、加盟が比較的容易なユネスコに入ることで、国連加盟問題での立場を強めようとしたのではないか。

パレスチナでは、和平プロセス停滞などからアッバス自治政府議長の人気が低迷していたが、国連加盟申請で上向いている。

その支持の広がりを、パレスチナの政治的分裂状態の解消へつなげることが、議長の課題だ。

自治政府が統治するのはヨルダン川西岸だけで、地中海に面したガザ地区は、イスラエルとの共存を認めないイスラム原理主義組織ハマスの支配下にある。

この現状を正さないことには、イスラエルとの交渉は進むはずもあるまい。

一方、イスラエルは、パレスチナ側が交渉開始の前提とする、入植凍結に応じるべきだ。

パレスチナにとっての究極の目標は独立国家の樹立だ。それにはやはり、イスラエルとの交渉で、領土や首都を確定し、共存を図るしか現実的な方策はない。

米、露、欧州連合(EU)、国連の4者は、両者を交渉の場に着かせる努力を倍加すべきだ。パレスチナのユネスコ加盟に棄権を表明した日本も、交渉再開への支援を惜しんではならない。

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