東電支援認定 賠償もリストラも加速せよ

朝日新聞 2011年11月05日

東電事業計画 あくまで当座の策だ

福島第一原発の事故に伴う賠償資金を確保するため、政府の原子力損害賠償支援機構と東京電力が共同で作成した特別事業計画が認められた。

今年度分として必要と見積もられた賠償金は約1兆100億円。このうち1200億円は原子力賠償法に基づき、国が東電に直接支払う。機構は政府から交付される国債を現金化し、8900億円を東電に提供する。

事業計画には資金支援の前提として、人員の削減や資産の売却など東電が取り組むべきリストラについて、数値目標を含む具体策が列挙された。今後10年間で、最低2.5兆円の資金を捻出する計画だ。

機構からは「お目付け役」として数十人規模のチームが送り込まれ、財務内容や改革の進み具合をチェックしたり、支援金が賠償以外に使われないよう監視したりする。

賠償のための資金支援はやむをえない措置であり、東電に厳しい合理化策を課していくための態勢づくりも当然のことだ。

ただ、こうした対策の積み上げが、東電の存続を既成事実化するものであってはならない。

東電の9月中間決算は、6272億円の赤字となった。純資産も単体で6186億円と、今年3月末から半減した。

賠償費用は手当てできたとしても、今後膨らむ除染費用や事故炉の廃炉費用が明らかになっていく過程で東電の資本が大きく傷み、民間企業として行き詰まるのは確実だ。

今回の計画はあくまで当座の資金繰り支援であり、来年3月までに抜本的な事業計画を立てることになっている。「経営のあり方」も検討項目となっており、枝野経済産業相は記者会見で「あらゆる可能性を排除しない」と言明した。

実質的に破綻(はたん)した電力会社をそのまま存続させることは、電力の安定供給や日本経済の活性化にとってもマイナスだ。政府は、資本注入による東電の公的管理を視野に法的な処理の枠組みを準備すべきだ。その中で、貸手である金融機関や株主の責任についても、追及していく必要がある。

政府内では並行して、原子力政策の見直しや電力改革の作業が進む。電力業界の筆頭格でもある東電のあり方を根底から見直しながら、電力産業全体の改革につなげねばならない。

東電が新しい電力事業体へと生まれ変わり、電力の供給と被災者の支援に万全を期す。

それが、事故を起こした公益企業と国にとって、失墜した信用を取り戻す道だ。

毎日新聞 2011年11月08日

東電事業計画 電力の抜本改革を急げ

政府が、東京電力と原子力損害賠償支援機構が共同で提出した「緊急特別事業計画」を認定した。福島第1原発事故の賠償金支払いのため、東電に約8900億円を援助する。しかしこれは、東電の債務超過を当面回避するための資金繰り支援という性格が色濃い。

東電と機構は来春までに、今後10年間を想定した「総合特別事業計画」を策定する。東電の将来像を描くには、原子力を含めたエネルギー政策の見直しが欠かせない。政府は本格的な検討を急ぐべきだ。

今回の計画は、当面確実な賠償額を1兆109億円と計算した。そこから原子力損害賠償法に基づき国が支払う補償金1200億円を差し引いた約8900億円が交付される。

今回盛り込んだ賠償額は、政府の第三者委員会「経営・財務調査委員会」が推計した約4兆5000億円の一部に過ぎない。

多くは来春の総合計画に持ち越された。国への返済は10年以上も続く見通しだ。長期にわたって国の支援を受ける東電にとって、国民の理解を得る努力は不可欠だ。東電と支援機構のトップが参加する「経営改革委員会」には、10年間で2兆5000億円というコスト削減を積み増す努力が求められる。抵抗が予想される退職者向け年金削減も確実に実行しなければなるまい。

政府の支援を受けても、東電の資金繰りは綱渡りが続く。政府の資金は本業の赤字の穴埋めには使えないからだ。

東電の12年3月期決算は、約5763億円の赤字を見込み、純資産は7088億円と1年前の半分以下に減少する見通しだ。

今後の資金繰りは、電気料金値上げや定期検査で停止中の原発再稼働の行方に大きく左右される。

電気料金制度について政府は、有識者会議を新設し、コストに一定の利益を上乗せする「総括原価方式」の見直しを始めた。年明けに結論を出す予定だが、料金制度は電力会社の経営だけでなく、電力政策全体に関わるはずだ。需要者側に料金プランの選択肢を与え、効率的な利用や節電への意欲を向上させるような柔軟な料金制度の検討を求める。

東電と支援機構は、来春の総合計画で、東電の経営のあり方を抜本的に見直す方針だ。廃炉などの巨額な費用を賄い、債務超過を回避するには公的資金による出資が必要になる可能性もある。東電を公的管理下に置くことになるわけで、原発国有化問題とも絡んでくる。

これを機に、地域独占の是非や電力自由化を促進するための発送電分離など先送りされてきた課題について幅広い議論を急ぐべきだ。

読売新聞 2011年11月05日

東電支援認定 賠償もリストラも加速せよ

東京電力福島第一原子力発電所事故の損害賠償に関する、公的支援の実施が正式に決まった。

枝野経済産業相が4日東電の経営合理化策などを盛り込んだ緊急特別事業計画を認定した。これを受け、原子力損害賠償支援機構が近く、東電に約1兆円の支援を行う。

東電が、賠償金の支払い負担で債務超過に陥る事態は当面、回避される。着実な被害救済に向けて前進したことを評価したい。

緊急計画は、東電の経営状況に関する政府の「経営・財務調査委員会報告書」をもとに、東電と支援機構が共同で作成した。

支援機構から援助を受ける条件として、東電は今後10年間で、2・5兆円の経費節減など総額3兆円超のリストラを実施する。

給与の削減に加え、退職したOBを含む年金給付カットなど、踏み込んだ措置も掲げた。

OBの年金削減は、対象者の3分の2以上の同意が必要で、実施へのハードルは高い。だが、巨額の支援が国債で賄われる以上、東電は退職者を何とか説得して、年金を削減すべきだ。

東電と支援機構は「経営改革委員会」を設置して、リストラの効果や内容を検証する。経営の無駄を徹底的に洗い出し、合理化策を追加することが欠かせない。

緊急計画は、東電による迅速な賠償金の支払いや、請求書類の簡素化など、被害者への対応の改善策も示した。

個人向けの賠償は約7万世帯が対象だが、現時点での請求件数は全体の5分の1にすぎない。東電が配布した賠償金の請求書類が複雑で難しすぎたことも、遅れの一因だろう。東電は、手続きの見直しを急がねばならない。

被害者には、東電に対する不信感も根強い。そこで支援機構は、外部の弁護士ら5人単位のチームを編成し、計20チームが被災地で相談業務にあたることにした。有効に活用してもらいたい。

原発事故の賠償額は当初2年で4・5兆円と推計され、今回の1兆円ではとても足りない。

東電は今年度、原発を代替する火力発電の燃料費などで、約6000億円の赤字を見込む。さらに今後、原発の廃炉や除染などにも巨額の費用がかかる。事故の収束と賠償、電力安定供給の責務をきちんと果たせるか心配だ。

東電と支援機構は来春、緊急計画に続く総合特別事業計画を策定する。その際は、東電への公的資本注入など、抜本的な経営強化策を打ち出す必要があろう。

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