朝日新聞 2011年11月02日
南スーダン PKO、慎重に丁寧に
野田政権はきのう、7月に分離独立した南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に、自衛隊の施設部隊を派遣することを決めた。
石油資源やレアメタルに富む南スーダンは、アフリカの中でも将来の発展が見込まれる、世界注視の新生国だ。
現地では約8千人の軍人や警察官らでつくる国連南スーダン派遣団(UNMISS)が作業する。その司令部要員として、自衛隊は年内に2人を送り、来年1月からは道路の補修などを担う約200人を、首都ジュバに展開させる方針だ。
この派遣を、私たちは基本的に支持する。
米国に続く世界第2位のPKO予算を拠出している日本は、平和構築を外交の看板にしてきたし、これからもそうあるべきだと考えるからだ。
だが、南スーダンの場合は、これまで治安の悪さを理由に、国連からの派遣要請を断ってきた経緯がある。野田政権は2度の現地調査を経て、PKO参加5原則を満たすと判断したとはいえ、極めて困難な任務になることは間違いない。
国内では部族対立がいまなお頻発している。北部の国境近くでは10月末に、反政府武装勢力と政府軍が交戦し、数十人規模の死者が出ている。さらに油田をめぐる紛争も続いている。
武力衝突の現場と派遣先は離れているものの、ここは派遣直前まで、5原則を守れるかどうかを見極める必要がある。
自然の厳しさも侮れない。何より蔓延(まんえん)する伝染病が心配だ。雨期は4月から半年近くあり、道路が寸断され、活動に支障をきたしそうだ。
補給路がケニアの港湾から約2千キロに及ぶのも難題だ。治安が不安定な地域でのこれほどの長距離輸送は経験がない。
これらさまざまな障害を勘案して、今回の派遣でも、武器使用基準を緩和せよという議論が一部にある。だが野田首相は、要員防護のための「最小限の使用」という従来方針を踏襲することを表明している。この判断も妥当だろう。
武器使用問題は、日本の国際協力のあり方を根本から変えるほど重要なテーマだ。今回の派遣とは切り離して、時間をかけて議論するのが筋だ。
自衛隊のPKO参加は1992年のカンボジア以来、9件目になる。規律の高さや仕事の手堅さには定評があり、とくに施設部隊などの後方支援は「日本のお家芸」とも評される。
アフリカでの厳しい条件のもと、確かな仕事を期待する。
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毎日新聞 2011年11月02日
南スーダンPKO 役割も期待も大きい
野田政権は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に陸上自衛隊の施設部隊を派遣することを決め、一川保夫防衛相が自衛隊に派遣準備を指示した。政府は年内に部隊派遣の実施計画を閣議決定し、年明けには第1次要員を、来春までに300人規模の施設部隊を派遣する。
20年以上の内戦を経て今年7月に旧スーダンから分離・独立した南スーダンは、インフラの未整備が国づくりの足かせになっている。日本の1・6倍を超える国土面積に舗装道路は約60キロしかなく、同国を縦断する白ナイル川には簡易式の橋が1本かかっているだけだ。道路、水道、河川港、橋りょう、電力などの整備は新しい国家建設の前提であり、国際社会の支援は欠かせない。
陸自の施設部隊は過去、PKO協力法に基づいて、カンボジア、東ティモール、ハイチなどに派遣され、活動実績は国連などから高く評価されている。今回は、南スーダン南部の首都・ジュバ付近で道路補修や橋などの建設に従事する計画で、部隊の活動に対する期待は高い。
南スーダンの周辺には、紛争を抱える国や地域が多い。東は国内に分離・独立運動を抱えるエチオピアであり、その東隣は海賊の出没が国際問題になっている破綻国家・ソマリアである。南のウガンダでは政府軍と反政府勢力の戦闘が継続し、北のスーダンとの間では油田地帯の帰属が決まらず、対立が続いている。こうした不安定な地域にある南スーダンの健全な国家建設を支援することは、テロや紛争の抑止・防止にも寄与することにつながる。
それだけに、危険を伴う場面が予想されるのも事実だ。先週末には、北部国境付近で反政府武装勢力と政府の治安部隊が衝突、市民を含めた犠牲者が出たばかりだ。内陸国・南スーダンの活動には、南東に隣接するケニアの海岸部から約1900キロにわたる補給ルートも必要となる。
野田政権は、調査団の報告を受けて、ジュバ周辺の治安は比較的安定していて活動は可能であり、補給ルートも確保できると判断したようだが、衛生面を含め隊員の安全対策には万全を期してもらいたい。
PKO協力法で定められている「参加5原則」をめぐっては、武器の使用基準の緩和を求める意見もある。野田政権が南スーダンへの陸自派遣について5原則の枠内で対応する考えを表明する一方で、民主党内には他国の部隊を防衛するために武器使用基準を緩和すべきだとの声がある。しかし、これには政府の憲法解釈で禁じられている「武力行使との一体化」の論議が絡む。武器使用をめぐる問題は、今回のPKO派遣と切り離して十分、議論を深めることが必要だ。
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読売新聞 2011年11月02日
南スーダン支援 意義深い陸自PKOの国造り
7月に独立した南スーダンの新たな国造りを、日本が目に見える形で支援する意義は大きい。
政府は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)に陸上自衛隊の施設部隊を派遣することを決めた。来年1月にも第1次隊を派遣する。春までに300人に増員し、首都ジュバで道路や空港の補修を行う。
アフリカへの陸自の部隊としての派遣は、1990年代前半のモザンビークとルワンダでの活動以降、長く途絶えている。
スーダンでの国連平和維持活動(PKO)参加は、2005年の南北内戦和平以来の懸案だ。施設や輸送ヘリの部隊派遣を検討したが、治安の悪さなどを理由に見送られ、わずか司令部要員2人の派遣にとどまっていた。
アフリカの中央に位置する産油国の南スーダンに平和を定着させることは、アフリカ全体の安定につながる。国際テロ対策としても重要な任務と言える。
UNMISSには既に、57か国から5600人以上の軍事要員や文民警察官が参加している。資源確保に熱心な中国も、施設、医療部隊約370人を送っている。
陸自の海外活動は、規律ある、手堅い仕事ぶりで評価が高い。道路の補修は、活動中のハイチPKOも含め、多くの実績があり、陸自の得意分野と言える。
今回の派遣を、日本が再び国際平和協力活動に積極的に取り組むための転機としたい。
日本は従来、南スーダンに対し、職業訓練施設の整備、教員研修などの政府開発援助(ODA)を実施してきた。陸自の活動をより効果的にするため、ODAによる社会基盤整備を組み合わせて、相乗効果を図ってはどうか。
陸自派遣には課題もある。
ケニアの港から千数百キロに及ぶ長い陸路で物資を補給しなければならないうえ、6~9月の激しい雨期には活動が制約される。
北部の国境付近では最近、政府軍と反政府組織による軍事衝突が発生している。紛争地域から数百キロ離れたジュバ周辺の治安は安定しており、日本政府は、現行の武器使用基準のままで問題はない、との立場をとっている。
だが、南スーダンでの陸自の活動は長期間に及ぶ可能性が高い。治安情勢の変化も想定して、正当防衛などに限定された武器使用基準を緩和し、任務遂行目的などの武器使用を可能にすべきだ。
民主党政策調査会は現在、PKOの在り方を議論している。前向きの結論を出してもらいたい。
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