朝日新聞 2011年11月02日
ベトナム支援 原発輸出は考え直せ
野田首相が福島第一原発事故で停滞していた原発輸出の「解禁」に大きくかじを切った。
来日したベトナムのズン首相との間で、日本政府が原発2基の建設に協力することを約束した共同声明に署名したのだ。
実現すれば、日本初の原発輸出となる。
私たちは、史上最大級の事故を起こし、原発への依存度を減らすべき日本政府が、原発売り込みの先頭に立つのは、筋が通らないと主張してきた。
ベトナムが電力不足解消への協力を求めたとしても、その答えが原発である必要はない。
近年、日本とベトナムは急速に緊密さを増している。
今回のズン首相の訪日では、レアアースの共同開発のほか、ベトナムからの看護師・介護福祉士候補者の受け入れ、高速道路建設などへの計930億円の円借款供与でも合意した。
経済成長が著しく、今世紀半ばには人口が1億人に達するベトナムは、投資先としても市場としても魅力がある。
日本政府としては、軍事力の近代化や海洋進出を強める中国をにらんで、関係を強化しておきたい思惑もあろう。
ベトナムも南シナ海で中国との紛争を抱える。日本は資金、技術の提供元というだけではなく、安全保障上も協力を深めたい存在だ。
だからこそ両国は、政府レベルでお互いを「戦略的パートナー」と位置づけ、日本は最大規模の途上国援助(ODA)の供与を続けている。
ベトナムとの友好を進め、発展を手助けすることに異議はない。しかしその方法は、いまの日本にふさわしいものであるべきだ。インフラ整備や自然エネルギーの開発、人の交流など、多くの分野で協力できる。
日本政府は最近、インドとの間でも原発輸出の前提となる原子力協定交渉を進展させることで合意した。トルコとの協定交渉も再開をめざしている。
原発事故がいまだに収束せず、検証作業も終わっていない。政府の姿勢はあまりに前のめり過ぎるのではないか。
原発輸出のために技術水準を維持する必要があると、「脱原発依存」の歩みを遅らせる口実にも使われかねない。輸出先で原発管理の責任を長期間、背負うおそれもある。
民主党政権は原発輸出を成長戦略の目玉に据えていた。しかし実際に事故が発生し、巨大な被害を目の当たりにしたいま、何ごともなかったかのように既定路線を走ることは決して許されない。
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毎日新聞 2011年11月01日
対越原発輸出 安全確保が大前提だ
野田佳彦首相とベトナムのズン首相が、同国で計画中の原子力発電所建設を日本が受注することで合意した。国会で両国間の原子力協定が承認されれば、原発輸出が動き出す。
首相は9月の国連演説で、「世界最高水準の安全性」を原発輸出の前提にする考えを表明した。ビジネスを優先し、危険と不安を輸出することがあってはならない。慎重な上にも慎重な安全確保を輸出の前提にすべきだ。
合意したのは、ベトナム南部ニントゥアン省の原発第2期工事の2基(各100万キロワット)だ。それぞれ21年、22年の運転開始を予定する。
昨年10月の日越首脳会談で、日本が開発のパートナーになることで合意していた。その際、ベトナム側から事業への低利融資や先端技術の導入、人材育成、廃棄物処理の協力などの条件が出され、今回それらを満たすことが確認された。
国内で「脱原発依存」をうたう政府が、輸出を認める理由は何か。政府は、原発を国際展開する意義として、世界的なエネルギーの安定供給と温室効果ガスの排出削減や国内の技術力・人材の維持・強化などとともに、日本の経済成長への寄与を挙げている。
確かに、原発は1基5000億円のビジネスといわれる。内需縮小に悩む政府は、昨年6月の新成長戦略で、民間企業のインフラビジネスを後押しする「パッケージ型インフラ海外展開」を打ち出し、原発もその対象にしていた。
しかし、原発事故はいまだに収束せず、検証も終わっていない。東電が過酷事故の際に、長時間の全電源喪失を想定していなかったことなど問題点も次々に浮かび上がっている。この段階で経済的な利益を追求し、無条件に輸出を続けては、国際的な信頼は得られまい。
一方で、ベトナムは外資を積極的に呼び込んで経済成長を図るため、安定した電力源の確保を目指している。既にロシアへ原発2基を発注したが、大国への過度の依存は避けたい考えがあるという。その意味で、日本への期待は大きい。輸出交渉を続けてきた日本が、その信義に応える必要も否定できないだろう。
それでも、原発の「安全神話」崩壊を目の当たりにした日本が、原発を輸出するには、それだけの覚悟と責任が伴うはずだ。
政府の事故調査・検証委員会や国会に設ける事故調査委員会の検証をにらみながら、安全性の向上を図るのは当然のことだ。
原発輸出の交渉先はベトナムにとどまらない。なし崩し的な輸出を許さないためにも、政府と国会は議論を深めるべきだ。
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