食と放射能 新基準を不安軽減に生かそう

朝日新聞 2011年11月01日

食品の放射能 安心へ手だてを尽くせ

食品に含まれる放射性物質の基準が厳しくなる。福島第一原発事故の直後から暫定基準が使われてきたが、やっと見直されることになった。

31日に開かれた厚生労働省の薬事・食品衛生審議会で、食品に含まれる放射性セシウムによって受ける放射線の上限を年間1ミリシーベルトとする案が厚労省から示された。

現行の暫定基準は年間5ミリシーベルトで、飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉類と、五つの食品群ごとに、1年に食べる量を考えて1キログラム当たりの規制値を決めた。

幸い、農産物などから検出される放射能は減っている。食品ごとの新しい規制値は来春施行の予定という。国民の健康を守るのはもちろん、消費者の安心につながるよう、十分な説明など手だてを尽くしてほしい。

「1ミリ」という値はどうか。

内閣府の食品安全委員会は先週、「健康影響が見いだされるのは、食品中の放射性物質による被曝(ひばく)が生涯の累積でおよそ100ミリシーベルト以上」とする答申をまとめた。100ミリシーベルトはこれ以上だと発がんの影響が科学的に明らかで、0.5%リスクが高まるとされる。今生まれた子供が100年生きるとして、単純に割ると1年当たり1ミリシーベルトとなる。

同じ量でも、少しずつの方がリスクはより低いとも考えられており、安全側に立った数字といっていいだろう。

課題は残る。食品安全委の答申は食品だけから被曝する、との仮定だが、外界からの放射線を無視できないのは当然だ。

大切なのは、食品からも外界からも、ひっくるめて被曝を減らすことだ。除染の目安を検討する文部科学省が扱うのは外部被曝だけだが、ばらばらでは困る。政府全体として、その両方を減らす道筋が必要だ。

消費者の納得のためには、実際の食事をもとにしたデータで示すことも重要だろう。

厚労省の推計では、ふだんは年間、食品からの放射線は約0.4ミリシーベルトだが、福島原発事故によって食品から余計に被曝する量は1年で約0.1ミリシーベルトという。

早野龍五・東大教授は、子どもたちが食べた学校給食をまるごとミキサーにかけて測る方法を提案している。給食の食材は保存されているので、追跡できる。横須賀市は1週間分を測定して公表しており、最近の結果は「不検出」だった。

空間線量の高い福島県での調査を最優先に、との提案だ。ぜひ進めてほしい。

毎日新聞 2011年10月29日

食品の放射能 説明と測定を徹底せよ

食品から受ける内部被ばくの影響を検討してきた食品安全委員会が、評価書をまとめ厚生労働省に答申した。「自然放射線などを除いた生涯の累積線量が、おおよそ100ミリシーベルトを超えると健康に影響がある」という内容だ。

この評価を基に厚労省が食品ごとの新たな規制値を決めるが、わかりにくいのはこの100ミリシーベルトの位置づけだ。

7月に評価案が示された時には、「外部被ばくと内部被ばくを合わせた線量」と説明された。ところが、答申では「食品から受ける内部被ばく」に限定された。

では、外部被ばくが高くても食品の基準は100ミリシーベルトなのか、それともその分低いのか。食品安全委は「厚労省などしかるべき管理機関が考えること」として判断を避けた。

食品安全委の使命は食品のリスク評価をすることだという理屈だが、1人の人は内部被ばくと外部被ばくの影響をあわせて受ける。知りたいのは全体の影響だ。政府は、こうした縦割りをやめ、被ばく全体のリスク評価をすべきではないか。

現在の食品の規制値は放射性セシウムによる被ばく線量の上限を年5ミリシーベルトとしている。これはあくまで事故直後の暫定値であり、厚労省はより厳しい新基準を早急に決める必要がある。その際には、国民が納得できるよう、外部被ばくや100ミリシーベルト以下の影響まで含めた基準値の根拠についてよく説明してもらいたい。

答申は、子どもの方が放射線に対する感受性が大人より高い可能性があることも指摘した。食品の規制値を大人と子どもで分けることは現実的ではなく、子どもに合わせた規制が必要になる。

ただ、規制値が新たに決まっても、実際に食品からどれだけ被ばくしているかがわからなければ、消費者の不安は解消されない。国や自治体が実施しているサンプル調査だけでは不十分だ。

健康を守り、不安やストレスを減らすために、もっときめ細かい測定を進めてほしい。今後、生物濃縮によって魚介類などの汚染が新たにわかってくる可能性もあり、幅広く実施すべきだ。

東大の早野龍五教授は実際に子どもたちが食べる給食1食分の放射性セシウムの量を測り数値を毎日公表することを提案している。同大の児玉龍彦教授は米袋などをそのまま測るベルトコンベヤー式の計測機器による全品検査を提案している。流通業界や市民が食品を独自に計測する動きも出てきている。

政府や自治体にはこうした動きも後押ししてもらいたい。このままでは、たとえ現実の線量が低くても、消費者の不安は収まらない。

読売新聞 2011年10月28日

食と放射能 新基準を不安軽減に生かそう

食品の放射能汚染について、政府の食品安全委員会が、健康への影響を判断するための、初の基準をまとめた。

新基準は、本格的な規制値の策定を目指す厚生労働省の諮問に対する答申だ。

自然界の放射線とは別の被曝(ひばく)線量が、食品で生涯100ミリ・シーベルトを超えると健康に影響する可能性があるとした。個別の食品中の放射性物質の規制値は、これを考慮して決めるよう求めている。

厚生労働省は今後、具体的な検討を始める。作業を急ぎ、不安の軽減につなげてもらいたい。

東日本大震災による原子力発電所の事故以来、食の安全への不安は一向におさまらない。

食品の規制値が事故直後、十分な議論もなく、海外の基準を参考に決めた暫定値のままだったことが、原因の一つだろう。

暫定値は、食品による被曝累積線量を放射性セシウムだけで「年間5ミリ・シーベルト以下」として算出している。ここから食品ごとに、事故による放射性セシウムなどの許容量を示している。

答申は、算出の根拠となる被曝線量を「生涯の被曝線量で100ミリ・シーベルト」とした。食品の規制値は原則、生涯の摂取量で決めるためだ。食品ごとの規制値は、今より厳しくなる見通しだ。

答申はまた、十分にデータはないとしたうえで、子供は放射線の影響を受けやすい可能性があるとも指摘している。

厚労省による具体的な規制値作りに際しては、適切な規制値となるよう、こうした事情も考慮する必要がある。

今夏、牛肉などで一部汚染肉が出荷されるなど、汚染のチェック体制に不備もあった。

現在流通している食品のほとんどは、放射能汚染はないことが確認されている。自治体や流通関係者による食品検査体制の構築が進んでいるためだ。消費者に安心してもらえるよう、政府は、この動きを後押しすべきである。

同時に、政府は、確かな情報を徹底して分かりやすく提供することを忘れてはならない。

わずかに放射性物質が検出されたとしても、もともと、どんな食品にも、自然界にある放射性物質が1キロ・グラム当たり数十ベクレルから数千ベクレル含まれている。放射性セシウムが数十ベクレル程度検出されても、影響はほとんどないだろう。

国産の野菜は子供に食べさせないという母親もいる。一部被災地では風評被害がやまない。冷静に判断できる材料を増やしたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/871/