混合診療判決 制度の改善と柔軟運用を図れ

朝日新聞 2011年10月29日

混合診療判決 患者が選べる道広げよ

長く論争が続いてきた「混合診療」禁止の是非をめぐって、最高裁の判断が示された。

健康保険からお金が支払われる「保険診療」と、保険がきかない先端技術や薬を使う「自由診療」とを組み合わせたものが混合診療だ。この場合、医療費全額が保険の対象外となる。

患者の負担が大きすぎる。保険診療分はそのまま認めるのが筋だ。原告はそう訴えたが、最高裁は請求を退けた。

「医療の質の確保や財政の制約などを考えれば、保険の範囲を制限するのもやむを得ず、法の下の平等などを定めた憲法に違反しない」との判断だ。

制度の全体や国会での議論を吟味しての結論だが、判決は健康保険法の難解さ、あいまいさを繰り返し指摘している。

人々の健康や生活に深くかかわる法律なのに、読んでも分からない。肝心なことはチェックの甘い省令や通達で決める。こうした例は珍しくない。

政府と国会の責任は重い。

官僚は法案づくりにあたる姿勢を改め、議員は国民の存在を常に念頭において審議にのぞんでもらいたい。

混合診療に関しては、「制約を取り払えば、新しい薬や治療法が利用しやすくなり、患者のためになる」との全面解禁論がかねて主張されてきた。

一方で、自由診療が広がると薬などの安全性の確認がおろそかになる、お金のあるなしで受けられる医療に大きな差ができてしまう、といった慎重論も根強い。患者や家族の間でも意見が食い違う。

判決は、混合診療を原則禁止する政策を違憲・違法とはいえないと述べただけで、積極的に支持したわけではない。「過剰な規制だ」との批判に理解を示す個別意見もあった。

制度は5年前に見直され、審査を通った治療法であれば、混合して使っても保険診療分についてはお金が支払われる道が広がった。さらにその治療法自体に保険がきくようになるケースも多い。解禁、慎重双方の声をくんだ仕組みといえる。

この「管理された混合診療」に適切に取り組み、弊害を抑えつつ患者の選択の幅を広げていくことが大切だ。審理にあたった裁判官5人のうち3人が、今後の運用に期待と注文を寄せているのを、医療行政に携わる者は真剣に受け止めてほしい。

この問題は、厳しい財政事情の下、広く国民に提供する医療水準をどう定め、社会の合意をいかに形成していくかという重い課題に行き着く。判決を、議論を深める足がかりにしたい。

毎日新聞 2011年10月30日

混合診療 柔軟な運営に議論を

健康保険が使える診療と適用外の自由診療を併用すると、本来なら健康保険が使える診療の分もすべて自己負担を強いられる。国の施策として「混合診療」を禁じているためだ。これでは負担が大きすぎて保険適用外の診療が受けられなくなる。腎臓がんの治療で混合診療を求めた男性患者が国を提訴したのはそうした理由だ。最高裁第3小法廷はこの患者の上告を棄却、敗訴が確定した。最高裁が混合診療の適法性について判断を示したのは初めてだ。

健康保険法には混合診療を禁止する規定はなく、以前から国に対する批判は根強かった。小泉政権時代の04年に規制改革の一環として混合診療解禁の方針が打ち出された。07年の東京地裁・1審判決は「混合診療を禁止する根拠は見いだせない」と原告の訴えを認めた。民主党政権になってからも成長戦略の中に混合診療の利用拡大を盛り込むなど、解禁への流れが強まっていた。

これに対し厚生労働省や日本医師会などは、保険適用外の治療や薬が広く使われるようになると患者側の安全性が損なわれる恐れがあり、自由診療が広がると経済力のある人しか受けられない治療や薬が増えていくなどの理由で反対してきた。

対立が先鋭化する背景には、医療技術が日進月歩で進化し、インターネットなどを使って患者側がそうした情報を得られるようになったことがある。それに対し、国側は治療法や新薬の審査のスピードが追いつかないのが現状だ。「海外での最新の治療法を患者の方が見つけて、これをやってくれと言われることが多くなった」とある開業医は言う。

患者が自分自身に対する治療法の情報に熱心なのは当然で、国が保険適用を認めた治療しか受けられない現状を批判するのはよくわかる。ただ、効用や安全性の不確かな薬や治療法が詐欺まがいの宣伝で流行し多数の被害者を出したことも過去にある。高齢化や医療技術の革新によって公的医療費は今後も膨張していく。財政面から抑制圧力が強い中で混合診療を認めると、お金がなければ受けられない自由診療の比重が加速して増えていく心配も否定できないだろう。

厚労省は混合診療は禁止しつつも、例外的に「先進医療」と認めたものは保険診療と併用できることにし、その種類を増やしてきた。実質的な一部解禁とも言える。国の適法性を認めた最高裁判決では複数の裁判官が「開かれた場で利害関係者が参加して議論することが望ましい」「迅速で柔軟な運営が期待される」などと意見を述べた。公的医療費の抑制のためではなく、あくまでも患者側の安全と利益に立脚した議論が求められている。

読売新聞 2011年10月27日

混合診療判決 制度の改善と柔軟運用を図れ

がん患者の男性が国を相手取り、「混合診療」を原則禁止しているのは不当だと訴えていた裁判で、最高裁第3小法廷は男性の主張を退けた。

ただし、小法廷の5人中4人の裁判官が、制度の現状について個別意見を付けている。大谷剛彦裁判長は、混合診療について「健康保険法に正面からの規定がなく、患者側からすると分かりにくい」と指摘した。

小宮山厚生労働相は「国の主張が認められた」としているが、個別意見の内容を重く受け止め、制度の改善に努めるべきだろう。

混合診療とは、公的保険で認められた投薬や治療と、保険未適用の治療法とを併用することだ。

厚労省はこれを原則として禁止してきた。認めると効果や安全性が疑わしい医療が横行し、患者の経済力で受けられる医療に差が生じる、といった理由からだ。

混合診療を受けた患者は、保険外の医療だけでなく、制度上、保険医療分までが全額自己負担になってしまう。このため、提訴した男性は、保険外の新しいがん治療法を断念したという。

主な争点は二つあった。まず混合診療を禁じる法的根拠があるかどうか。そして、原則禁止としている政策自体の妥当性である。

健康保険法には「混合診療を禁止する」との規定はなく、他の条文から厚労省がそう解釈しているに過ぎない。1審は「厚労省の解釈は誤り」として男性の主張を認め、2審は「解釈は妥当だ」と逆転判決を出した。

最高裁は2審判決を支持したが、下級審で判断が分かれたのは、現行法に異なる解釈の余地があるためだ。それが患者側の不満にもつながっている。

混合診療の原則禁止については、最高裁は「安全確保や財源の制約などから、保険適用を合理的に制限することはやむを得ない」と現状を追認した。

ただ、現実には、混合診療を認める例外的な制度適用が、すでに相当拡大している。

例えば、新療法を医療機関が届け出て、「先進医療」に認められれば保険診療と併用できる。未承認薬の投与も検討に時間をかけず混合診療を認めたり、保険医療に組み込んだりしている。

現状は「実質的解禁」に近いと指摘する声も多い。

医療は日進月歩であり、常に混合診療を認める範囲の拡大に努力しなければ、患者の要望に応えることができない。より柔軟な制度の運用が必要だろう。

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