米国防長官来日 同盟の課題に決断を急げ

朝日新聞 2009年10月22日

普天間移設 新政権の方針を詰めよ

米海兵隊の沖縄・普天間飛行場は県内の名護市辺野古へ移設するのが唯一の道であり、代替案はない。訪日したゲーツ米国防長官は、米国の基本的立場をそう強調した。

辺野古への移設は日米双方の前政権が合意したことだ。政権交代に伴ってそれを検証し、必要があれば見直しを提起するのは当然のことだろう。オバマ政権は検討の結果、現行案がベストとの判断に立つ。さて、鳩山新政権はどうするのか。

「私どもには新しい政権の考えがありますから、時間をかけながらいい結果を出したい」。鳩山首相は記者団にこう語った。北沢俊美防衛相、岡田克也外相ともども、会談ではゲーツ長官にそうした意向を伝えた。

そもそも民主党は普天間飛行場の県外、もしくは国外への移設を求めてきた。米国の立場はそれとして、日本側が新たな可能性を含めて検討しなおしたい、それまで時間を貸してほしいというのは無理のないことだ。

ただ、それが単なる結論の先送りであってはならない。首相は来年1月の名護市長選の結果を見極める意向も示している。地元の民意を尊重するのは大事にせよ、迫られているのは新政権の決断であり、国民を説得できる結論であることを忘れてはなるまい。

あらゆる選択肢を真剣に探り、その結果を国民の目に見えるようにしてもらいたい。そのうえで方針を固め、実現に動くことだ。住宅密集地にある普天間飛行場の危険性は早く除きたいし、米国の忍耐にも限りがある。計画を見直すのであれば、今度こそ実行できるよう国内をまとめ、米国を説得できなければならない。

国防長官の発言を聞く限り、米国の姿勢はかなり硬そうだ。辺野古への移設が実現しなければ普天間は残り、海兵隊8千人のグアム移転など、沖縄の負担軽減にもつながる在日米軍の再編計画全体が動かなくなるという。

その危機感は理解できる。だが、それでもなお、貴重な自然の残る海を埋め立て、ただでさえ米軍基地が集中する沖縄に新たに恒久的な基地をつくることに、国民や県民が納得しているとは言い難い。その思いをどうくみ取り、政権交代に寄せた人々の期待に応えるか。それが首相に迫られている。

この問題での日米の意見の相違が同盟関係全体をきしませるような方向に向かうことは避けなければならない。同盟の根幹は両国の基本的な利害の一致であり、相互信頼である。普天間問題が突出して両国関係を傷つけるとしたら、日米双方にとって不幸だ。

首相には、来月訪日するオバマ大統領との会談を、日米関係の大局のなかで問題の着地を探る出発点にしてもらいたい。そのためにも、政権としての基本方針を早期に詰めるべきだ。

毎日新聞 2009年10月23日

「普天間」移設 政権の意思が見えない

来日したゲーツ米国防長官と鳩山由紀夫首相、岡田克也外相、北沢俊美防衛相の会談の中心テーマは、米軍再編にかかわる普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題だった。

ゲーツ長官は、ビジネスライクに物事を進める人物らしい。会合は30分以内、他国訪問時に恒例となっている儀仗(ぎじょう)も辞退することが多いという。今回の一連の会談や記者会見でも物言いは率直だった。

普天間移設では、(1)日米合意のキャンプ・シュワブ沿岸部(沖縄県名護市)への移設計画が最良の案であり、沖縄県が主張する沖合に移動する案は許容範囲である(2)普天間移設がなければ海兵隊のグアム移転もなく、沖縄の兵員縮小もない(3)計画はできるだけ早く進展させる必要がある--という主張だった。この考えが米政府の責任者から日本政府に正式に伝えられたことで、移設問題は新たな局面に入ったと言える。

ゲーツ長官の「強いメッセージ」(北沢防衛相)に対し、日本側には明確な回答がまだない。会談では、政権交代や総選挙による沖縄県の政治環境の変化と、現行計画が決まった経緯の検証を進めていることを説明するにとどまった。もう少し時間がほしいということなのだろう。

移設先の選択肢は、大別して(1)民主党の本来の主張である沖縄県外・国外(2)米空軍の嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)への統合をはじめとする沖縄県内(3)日米合意案かその修正--の3通りである。(1)は米政府との交渉が困難を極めるほか、県外なら移転先の自治体、住民の説得も必要となる。(2)も米政府の説得と移転先の合意がネックとなる。(3)なら民主党の方針転換と連立相手の社民党の説得が必要である。

いずれも高いハードルが待ち受ける。が、方針の決定を先延ばしすれば、それだけ住宅密集地にある普天間飛行場の周辺住民の安全・騒音問題が放置されることになる。政府が進める検証作業を踏まえ、最終的には鳩山首相が決断するしかない。

ゲーツ長官は岡田外相との会談で11月12日のオバマ大統領来日までに日本側の方針を決めるよう求めた。政府方針決定の時期については、政権内の考えもばらばらだ。北沢防衛相が早期決着に意欲を示し、岡田外相が来年度予算編成を念頭に年内決定を主張しているのに対し、鳩山首相は来年半ばの決着に言及した。

首相は来年1月末の名護市長選の結果を見極めたいという意向のようだが、それが移設問題の打開につながるとは考えにくい。沖縄県の仲井真弘多知事も政府方針の早期決定を求めている。首相はまず、政権の方針を決める段取りと時期について政権内の意思一致を図るべきである。

読売新聞 2009年10月22日

米国防長官来日 普天間問題を先送りするな

米海兵隊普天間飛行場の移設に向けて、米政府が一歩踏み出した。日本政府も、問題を先送りせず、歩み寄る時だ。

来日したゲーツ米国防長官が、鳩山首相、北沢防衛相らと会談し、沖縄県が要望する普天間飛行場の代替施設の沖合移動を正式に容認した。

一方で、「代替施設なしで、海兵隊のグアム移転はないし、沖縄における兵員縮小と土地の返還もない」と語った。日米が合意した現行計画を早期に履行するよう日本側に迫ったものだ。

これに対し、北沢防衛相は、「この問題に時間を浪費する暇はない。日本側の努力がかなり重要だ」と前向きの姿勢を示した。

代替施設の沖合移動に否定的だったゲーツ長官の方針転換は、このままでは普天間飛行場の移設が頓挫しかねない、という危機感の表れだろう。日本政府は同盟国として、このメッセージを真剣に受け止め、迅速に対応すべきだ。

疑問なのは、鳩山首相が「日米政府の合意は重い」と認める一方で、「時間をかけながら良い結論を出したい」などと、現行計画の是非の判断を来年に先送りする態度をとり続けていることだ。

判断の先送りは、単に日程を遅らせるだけでなく、米側と地元自治体の移設機運を失わせ、計画自体を白紙に戻す恐れがある。

その場合、海兵隊8000人のグアム移転や、普天間飛行場など米軍6施設の返還という画期的な地元負担軽減策全体が破綻(はたん)しかねない。長年培ってきた日米の信頼関係にも深い亀裂が生じよう。

鳩山首相は「来年は日米安保条約改定50周年であり、日米関係をさらに発展させたい」とゲーツ長官に語った。もし本当にそう考えるなら、来月12日のオバマ大統領来日までに、現行計画への支持を決断することが求められよう。

普天間飛行場を県外か国外に移設させるという、非現実的な民主党の衆院選前の政策にいつまでも固執すべきではない。

沖縄県や、移設先の名護市は、沖合移動という条件付きながら、現行計画を支持している。その意向を尊重することが肝要なのに、鳩山首相は、「大事なのは沖縄県民の総意だ」などとして、自らの判断を避けている。

だが、本来、国全体の安全保障にかかわる米軍基地問題に関して、県民の意向だけに委ねるような姿勢は危険である。

この問題こそ、民主党が主張する「政治主導」により、政府の責任で、前進を図るべきだ。

産経新聞 2009年10月24日

普天間移設 現行計画での決断求める

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で鳩山由紀夫首相は「他に選択肢があれば決着が早まることもあり得る」と語り、新たに県内の移設先を探して米側に提示する意向を示唆した。

この問題ではゲーツ米国防長官が「普天間移設なしには海兵隊グアム移転や他の基地施設の返還もなくなる」と強調、11月の米大統領訪日までに日米合意に沿った決着を要請したばかりだ。

この期に及んで自らの責任で判断を下せず、あてもなく新移設先を求めたり先送りしたりするようでは、日米同盟は破綻(はたん)の危機に陥りかねない。現行計画の履行を首相に強く求めたい。

首相発言を受けて、政府は「県外移設」を断念して県内に新たな候補地を見つけるという。嘉手納基地への統合案も出ている。

しかし、日米両政府が2006年に合意した現行計画の着実な履行を米側が求めている意味の重大さを忘れてはならない。

来日したマレン米統合参謀本部議長も「計画の遅れは日本の防衛だけでなく地域の安全にも死活的影響を与える」と緊急性を強調した。在日米軍再編の成否は中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル脅威の増大に対応する同盟の抑止態勢を決定付けるとともに、日本の平和と安全に直結する。

首相の決断先送りの背景には、来年1月に行われる移設先の名護市長選の結果を待ちたい意向があるという。だが、現行計画は「普天間全面返還」が決まった1996年以来、あらゆる選択肢を日米が検討した末の“果実”だ。

移設問題を争点に地元で対立を繰り返させられてきた住民の間にも「早く政府の責任で決めてもらいたい」との声があるという。地元自治体も米政府も、沖合移動の微修正で足並みを一致させつつある中で、日本政府だけが国家の安全と同盟戦略の全体を見渡した判断を下せないのは問題だ。

計画が実施されなければ、地元住民が願う普天間全面返還をはじめ、グアム移転を通じた海兵隊の削減、嘉手納基地以南の米軍6施設の返還も水の泡になる。住民の負担もさらに続くだけだ。「同盟基軸」の具体的行動を期待して来日するオバマ大統領を落胆させる結果にもなるだろう。

鳩山首相は公約やメンツにこだわらず、どちらが日本の国益と住民の利益に応えることになるかを速やかに決断すべき時である。

産経新聞 2009年10月22日

日米防衛会談 同盟への警告受け止めよ

来日した米国のゲーツ国防長官は鳩山由紀夫首相や北沢俊美防衛相らとの会談で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)のキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への移設を、日米合意に基づいて日本側に早期に履行するよう求めた。

明確な回答を示さない日本側に対し、ゲーツ長官は「普天間移設なしに海兵隊グアム移転はない」と強調した。在日米軍再編問題を先送りする鳩山政権の姿勢に失望し、積極的に取り組まなければ日米同盟は破綻(はたん)しかねないという警告と受け止めるべきだろう。

今回、具体的な進展がみられなかったことは、11月のオバマ大統領来日時でも同様の事態になることを意味している。憂慮せざるを得ない。この問題はマニフェスト(政権公約)の実現という国内政治の次元を超えている。首相や関係閣僚は危機認識を共有し、日米合意実現へ調整を急ぐべきだ。

鳩山首相とゲーツ長官との会談で、日米同盟をさらに深化させることなどを確認した。だが、首相は普天間移設について「国民や沖縄県民の理解を得る観点から答えを出したい」と述べるにとどまった。米軍再編問題の見直しを掲げた衆院選で勝利し、政権交代を実現した経緯に軸足を置く姿勢を示したものだ。北沢防衛相は「時間を浪費するつもりはない」と決着を急ぐ姿勢を強調しており、政権内でのちぐはぐさも目立つ。

首相や岡田克也外相が「県内移設に反対する国会議員が増えた」といった地域的要因を持ち出してゲーツ長官に説明するのは、国の安全保障を担う責任感が欠けているとしかいいようがない。

日米両政府の協議の末に決まった普天間移設と海兵隊のグアム移転は一体である。基地が集中する沖縄の負担軽減と米軍の抑止力維持という安全保障政策全体を考えて導きだされた結論だ。

在日米軍再編は米軍再編戦略全体の一部を構成し、日本でのつまずきは悪影響を及ぼす。日米防衛首脳会談では、北朝鮮の核・ミサイル問題や中国の軍拡に協力して対応する方針で一致したが、日米合意を履行しなければ、地域の安全保障環境の悪化を招くことを忘れてはならない。

ゲーツ長官はインド洋での海上自衛隊による補給支援を重ねて評価した。テロとの戦いで、現実的かつ効果的な日本の行動への強い期待を感じ取るべきだ。

産経新聞 2009年10月20日

米国防長官来日 同盟の課題に決断を急げ

米国のゲーツ国防長官が20日に来日し、21日まで鳩山由紀夫首相ら日本政府首脳と協議する。

焦点は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題とみられるが、鳩山政権は海上自衛隊のインド洋補給支援の代替貢献策や「核の傘」など日米同盟の基本にかかわる問題も多く抱えている。同盟関係を危うくすることがないように、鳩山首相は普天間問題などの諸懸案の解決に向けた現実的判断を下していくべきだ。

長官来日に先駆けて米国防総省高官は、移設先(同県名護市)の代替滑走路の沖合移動を容認する意向を表明した。先週、仲井真弘多県知事がこれを条件に現行計画に沿った県内移設を認める意見を示したことに応え「微修正なら妥協は可能」という歩み寄りのカードを切ったとみていい。

地元と米側の歩調がそろい始めたにもかかわらず、鳩山首相らが「県民の総意を探る必要がある」と来年半ばまで決断を先送りする姿勢をみせているのは問題だ。政権公約などで普天間の「県外移設」を掲げてきたのに加え、来年は1月に名護市長選、11月には県知事選もあるからだろう。

だが、この問題は両国が1996年に普天間全面返還に合意して以来14年越しの懸案だ。現行計画は世界規模の米軍再編の不可分の一部でもある。遅れれば、アジア太平洋全体の米軍戦略や日米の共同抑止態勢にも重大な支障を来しかねない。首相は住民の期待や同盟の要請を踏まえて速やかに指導力を発揮する必要がある。

鳩山政権は、アフガン政府が固執していないとの理由でインド洋補給支援を中止する意向だが、代替支援は何も決まっていない。

核の傘についても、岡田克也外相は米国に核先制不使用宣言を求めて「日米で議論したい」と主張している。だが米国の核の傘は中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル脅威に備え、日本の安全を担保する最大のよりどころだ。同盟の抑止の基盤を自ら放棄するような考え方には疑問がある。

首相が掲げる東アジア共同体構想にも「米国排除にならないか」との懸念がある。鳩山政権は「緊密で対等な同盟関係の構築」を掲げてきたものの、今は同盟の不信を招きかねないのが実情だ。

長官訪日を機にこれらの疑問や問題を解消すべきだ。首相が具体的な決断と行動で日米の信頼を高めることが第一歩になる。

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