ユーロ首脳会議 安定化の努力緩めるな

朝日新聞 2011年10月28日

ユーロ包括策 合意の着実な実行を

迷走を重ねた欧州の債務問題への包括策づくりが、一応の形を整えた。失敗すれば世界的な混乱を招くところだった。合意は大きな前進だ。ただ、危機克服までには綱渡りが続くことも間違いない。

欧州連合(EU)ユーロ圏17カ国の首脳会議などで決まった包括案は三つの柱からなる。

まず、民間金融機関が持つギリシャ国債の扱いだ。経済が収縮するギリシャは借金を大幅に減らさないと再建できない。このためEUの強い要請を受けた金融機関側が、保有するギリシャ国債の元本の50%を削減することを受け入れた。

第2に、欧州の銀行と金融システム全体の安定を図るため、問題銀行の資本増強を約1千億ユーロという規模で進める。

第3の柱は、欧州金融安定化基金(EFSF)の再拡充だ。銀行に公的資金を入れたり、ギリシャ国債の債務不履行(デフォルト)をイタリアやスペインの信用不安に連鎖させたりしないための安全装置である。

独仏の確執が根深かったが、国債を持つ投資家の損失を一部補填(ほてん)する方式と、EFSFが国債を買う子会社をつくり、国際通貨基金(IMF)から資金を受ける方式を併用した。これによってEFSFが支援に使える資金は1兆ユーロ規模になる。

ただ、それぞれ課題はある。ギリシャ国債の元本50%カットは金融機関の自主的な協力で行う形だ。当初計画の21%から大幅に引き上げられ、足並みが乱れかねない。資本増強やEFSFの拡充も、資金規模が十分なのか、懸念がつきまとう。

包括策を実行する過程では、銀行の貸し渋りが広がるのを防がなければならない。

まずは来月のG20首脳会議までに三つの柱をどう進めていくか、具体的な戦略をまとめてほしい。そして、新興国を含め、資金的に余裕のある世界の国々が、IMFなどを通じて、EFSFの拡充に一致して協力する形につなげたい。

1人当たりの域内総生産(GDP)で見れば欧州は裕福だ。それが、まだ豊かとはいえない新興国に救いを求める。欧州は支援に回る世界の国々の立場を理解し、政治的なリーダーシップを発揮して、包括策を着実に実行していかねばならない。

包括策の先には、恒久的な支援制度となる欧州安定化メカニズム(欧州版IMF)の設立や財政の統合など、ユーロ圏の再構築が控える。

欧州には一連の混迷を、政治的求心力に結びつけるしたたかさが求められる。

毎日新聞 2011年10月28日

ユーロ首脳会議 安定化の努力緩めるな

未明まで及んだマラソン協議の末、欧州の首脳らがようやく“合意”にこぎつけた。肝心の細部が詰めきれておらず、ユーロ安定につながる「包括策」とは呼び難いが、決裂という最悪の事態は回避できた。

合意は三つの柱から成る。欧州の銀行の資本増強策がまず一つだ。ギリシャなどの国債に投資し、巨額の損失を抱えることになった銀行の体力を強化するもので、欧州連合(EU)内の主要銀行が義務付けられる自己資本比率を大幅に引き上げる。

金融不安が世界的に連鎖するのを食い止めるうえで不可欠といえるが、貸し渋りなど景気への副作用には十分注意が必要だ。

協議が特に難航したのは残る二つの柱を巡ってだった。ギリシャの債務残高をどの程度、追加減免するか、そして、ギリシャ問題がスペインやイタリアなど経済規模の大きな国に延焼するのを食い止めるための防火扉をどう築くか、の2点である。

政府側の要請を受け、貸手の銀行はギリシャに対する債権の削減率を7月合意の21%から原則50%まで引き上げることに応じた。問題は、こうした投資家の損失負担が将来、ギリシャ以外の国に対しては起きない、と市場が信用するかどうかだ。

カギとなるのが3番目の柱、防火扉の強化である。首脳合意には、信用力が低下した国が市場から資金を借りる際、一部を欧州金融安定化基金に保証してもらう制度が盛り込まれた。ただ、これが十分機能するかどうかは、今後決める細部次第だ。どの程度の保証があれば投資家が安心して国債を買うか、予測は難しい。一方、中国など域外の国の資金活用も併せて試みるというが、これも詳細は不透明だ。

仕組みが複雑化する背景には、ドイツなど救済に回る側が、これ以上の資金拠出を拒んでいることがあるようだが、半端な対応でしのげる時間は限られているのではないか。

市場から“次のギリシャ”と着目されているイタリアで、政治が混迷しているのも気になる。支援の枠組みを整えても、問題を抱えた国の自助努力が不十分では、資金をいくら追加しても解決できない。

ユーロ圏に安定が戻るまで、まだ相当の時間を要することは間違いなさそうだ。その間、一段の円高も含め、日本経済に火の粉が降りかかる事態も覚悟しなければなるまい。

日本としては、自らの懸案を早期に解決し、経済の活力を高めておくことだ。震災からの復興を加速させ、待ったなしの財政健全化や社会保障制度改革を進める。日銀が追加の金融緩和策を決めたが、超低金利や円高を最大限生かす、企業の攻めの経営も不可欠である。

読売新聞 2011年10月25日

欧州首脳会議 危機対策に市場の目は厳しい

欧州が重い腰を上げ、金融危機の拡大を封じ込める包括策で大筋合意したのは一歩前進だ。

しかし、危機を克服し、市場の不安を払拭する道のりは険しい。欧州は積み残した課題を詰め、迅速に行動することが求められよう。

欧州連合(EU)とユーロ圏17か国の首脳会議は、発端となったギリシャ危機の収束と、波及防止策を協議し、難航した末、ひとまず処方箋をまとめた。

大筋合意した包括策は、銀行の資本増強、ギリシャ債務の大幅削減、欧州金融安定基金(EFSF)の強化が3本柱である。

ギリシャ国債を保有する銀行に総額1000億ユーロ(約10兆5000億円)超の資本増強を要請することになった。当面の措置としては妥当だろう。

その一方、ギリシャの債務削減では、国債元本の50~60%カットを軸に、銀行に追加負担を求める。返済能力を欠くギリシャの事実上のデフォルト(債務不履行)を容認するものと言える。

欧州当局が7月に公表した銀行のストレステスト(特別検査)は甘く、急落するギリシャ国債による資産劣化を十分にチェックしなかったのは問題だった。

これに対し、あらかじめ銀行資本を強化し、ギリシャの債務カットや国債下落に対応できるようにする今回の措置は、「管理されたデフォルト」に相当する。市場の混乱を防ぎ、金融システム安定に役立つことを期待したい。

欧州各首脳が、域内の財政赤字国を支援するEFSFをさらに強化すると合意した点や、欧州版の国際通貨基金(IMF)である「欧州安定メカニズム(ESM)」の設立前倒しも、市場へのメッセージとなろう。

だが、ギリシャ危機がイタリアやスペインなどの信用不安に広がる中、こうした包括策で十分に対応できるかは予断を許さない。

銀行の資本増強規模が少額すぎるとの懸念が市場でくすぶり、増強策の手順もあいまいだ。ギリシャ債務の大幅カットに銀行が応じるかどうかも不透明である。

欧州がEFSFを強化する方策として、IMFの支援を求めた場合、欧州の一層の自助努力を求める日米や新興国などからの反発が予想されよう。

危機対応が後手に回ってきた欧州に対し、市場の見方は厳しい。欧州は26日に改めて開く首脳会議で、包括策をより具体化させ、来月上旬の主要20か国・地域(G20)首脳会議に示すべきだ。

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