農業再生計画 具体化の道筋を早急に

朝日新聞 2011年10月23日

農業再生 もっと企業をいかそう

環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題をにらみながら、農林水産業をどう立て直し、競争力を高めていくか。

政府が「再生のための基本方針・行動計画」をまとめた。高関税に守られたコメ農業を念頭に置きつつ、今後5年間の取り組みが記されている。

ただ、具体策に乏しい。栽培から加工、販売まで手がける「6次産業化」を後押しする官民共同ファンドの設立を打ち出した程度で、長年の課題集といった趣だ。

真っ先にあげられたのは「ヒト」と「土地」の問題である。

仕事として主に農業をしている人は平均年齢が66.1歳に達し、70歳代後半~80歳代の昭和1ケタ生まれが4分の1強を占める。このままではあと数年で農家が大幅に減ってしまう。

農家の耕地面積は平均で2.2ヘクタール。欧州連合(EU)の2割弱、米国の1%程度だ。一方で、耕作放棄地は39万ヘクタール強と、埼玉県の面積に匹敵する。

若い世代を呼び込みながら規模を拡大するには、企業の力をいかすことが有力な解になる。

個人で農地や資金を確保するのは容易ではない。基本方針には、就農者への支援の充実に加え、法人に雇われる形での就農促進が盛り込まれた。

規模拡大では、「平地で20~30ヘクタール、中山間地域で10~20ヘクタール」と、今の10倍程度に広げることを掲げた。集落単位での経営を前提とした目標で、その担い手の一つが法人だ。

しかし、どうやって法人経営を広げるのか、具体策がない。

農業生産法人の設立や一般企業の農業参入は、09年の改正農地法で規制が緩和された。

生産法人では、小売りや食品加工など農業に関連する企業を対象に出資制限が緩められたが、それでも50%未満。生産法人の役員の過半は常に農業にかかわらなければならない。一般の企業には農地の所有が認められておらず、一定の条件を満たしながら賃借するしかない。

財政難の中、農業予算には限度がある。一般の企業が農業にかかわる際の制約を減らし、民間資本をもっと引き込みたい。農業関係者は「企業はもうからないとすぐに撤退する」と反対するが、農業で収益があがる仕組みを整えるのが第一だ。心配なら、農業経営を一定期間続けるよう義務づければよい。

大規模化を進めるには、バラマキ色が強い戸別所得補償制度を見直すことも欠かせない。

農業再生への取り組みは時間との戦いである。思い切った改革を急がねばならない。

毎日新聞 2011年10月21日

農業再生計画 具体化の道筋を早急に

政府の「食と農林漁業の再生実現会議」(議長・野田佳彦首相)が、農林漁業を再生・強化するための基本方針と行動計画をまとめた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの経済連携をにらみ、国内農林漁業の競争力を高めるのが狙いだ。高齢化や後継者不足に悩む農林漁業の活性化は、TPP参加の是非にかかわらず、緊急の課題といえる。政府は、計画具体化の道筋を早急に示す必要がある。

方針は、16年度までの5年間を行動計画期間とし、営農規模の拡大や若い世代や女性の参入促進、加工や流通まで含めた成長産業化などを打ち出した。競争力向上に直結する規模拡大では、農地の集約化により、平地での営農規模を現在の平均の10倍以上にあたる20~30ヘクタールに拡大するという目標を掲げた。

農水省は、農地を手放して集約に協力した農家や離農者への協力金を新設するなど規模拡大への具体策を打ち始めた。しかし、その一方で従来の戸別所得補償も残す。一律で支払われるため、零細農家による農地の抱え込みを助長し、集約化を妨げるとの指摘がある。これでは政策が一貫しない。農家や農業団体の反発を過度に心配することなく、改革の方針を明確にすべきだ。

6次産業化の推進にも期待したい。6次産業とは生産した農産物(1次産業)を用途に合わせて加工(2次産業)し、消費者や流通業者、飲食店へ販売(3次産業)する総合的な農業経営を指す。法人化で経営を効率化したり、新しい発想の新規参入者を呼び込める可能性がある。

基本方針は、そうした事業者へ資金を提供する官民出資のファンドを設立するため、今年度中に具体策を検討するとした。幅広い出資を集める魅力ある制度設計を求めたい。

今回の基本方針は、割安な輸入品に高率関税をかけて国内の農産物価格を維持する政策から、輸入品の増加による農産物の値下がり分を補助金として農家に直接支払う政策を中心に改める方向を打ち出した。関税引き下げを迫られる貿易自由化の流れに沿った方針として評価できる。

補助金の財源は自由化の恩恵を受ける企業や家計が負担する。当然、農家には価格引き下げの努力が求められる。コメの価格を維持している減反政策はこの方針と矛盾するため、見直しが課題になるはずだ。

政府は、直接支払いなどの具体的な方策は個別の経済連携ごとに検討するという。6兆円余りをつぎ込んだウルグアイ・ラウンド(前回の多角的貿易交渉)合意の時の反省を踏まえ、税金の無駄遣いにならないよう、十分な情報開示に基づく国民的な議論が必要だ。

読売新聞 2011年10月26日

農業再生計画 TPP参加を前提に改革急げ

政府の「食と農林漁業の再生推進本部」が、農業改革の基本方針と行動計画を決定した。

環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加をにらみ、農家の耕作面積拡大や新規就農促進などを打ち出した。

方向性は妥当だが、具体性に欠け、力不足だ。農業再生とTPP論議を切り離したい農業団体などへの配慮があったのだろう。

しかし、日本農業の地盤沈下を考えれば、これ以上、改革を先送りすることは許されない。

野田首相は指導力を発揮し、貿易自由化に負けない強い農業を実現する計画を示すべきだ。併せて、TPP参加への決断を急がなければならない。

行動計画は、今後5年間に取り組む課題として、農地面積を20~30ヘクタールへ拡大する目標を示した。生産、加工、販売を一体的に手がける農業の「6次産業化」の実現や資金面から後押しする官民ファンド創設にも言及している。

だが、掛け声だけで実現できるほど甘くはない。本格的な規模拡大には、農地法改正などが必要だ。民間の知恵と資金を生かすのであれば、企業の農業進出を容易にする方策が欠かせないだろう。

現在の農政は、高関税や国内の生産調整によって農産物価格を高く維持し、消費者が高い商品を買うことで間接的に農業を支える仕組みとなっている。

早急に取り組むべき重要課題の一つに「消費者負担」から「納税者負担」への移行を挙げたのは、農政転換策として理解できる。

納税者負担は、関税引き下げや生産調整の廃止で農産物が値下がりした場合、下落分を補助金で農家に直接、補償する政策だ。欧州や韓国などで導入され、市場開放とセットになっている。

国民の食を支える農業を税金で一定程度、支援することに異論はなかろう。ただ、財政難で予算を大盤振る舞いできる余裕はない。規模を抑えることが必要だ。

民主党政権が導入した農家の戸別所得補償制度も納税者負担方式だが、関税引き下げとは切り離されている。零細農家も対象とするなど、ばらまき色も強い。現行制度は抜本的に見直し、意欲的な農家に支援を絞るべきである。

コメ部分開放を決めたウルグアイ・ラウンド合意では、6兆円の対策費を投じながら、農業の活性化につながったとは言い難い。

腰砕けに終わった過去の農業改革の二の舞いを避けるには、農業の既得権に切り込む構造改革を徹底することが重要だ。

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