これでは、郵政民営化の原点である「官から民へ」の改革が進まなくなり、実態は「国営に逆戻り」とならないか。
政府は20日、小泉内閣で始まった郵政民営化路線を転換する「郵政改革の基本方針」を閣議決定した。
政府が保有する日本郵政株などの売却を凍結し、来年1月に召集される次期通常国会で、見直しの具体策を盛り込んだ郵政改革法(仮称)の成立を目指す。
郵便・貯金・保険の3事業を郵便局で一体的に利用できるようにするため、日本郵政の下に4事業会社を置く現行の「4分社化」を見直すことなどが柱だ。
利便性の向上は歓迎するが、民営化で動き始めた郵政グループの効率化や透明化の動きを逆回転させるようでは困る。
特に貯金と保険に、郵便と同じく「全国一律サービス」を法的に義務づけるとしたのは問題だ。
そうなれば、ゆうちょ、かんぽの2社の存続を、政府が保証するのと同じである。
日本郵政が持つ金融2社の全株式を売却する完全民営化も実施しない方向のようだ。
ゆうちょの貯金残高は、国営時代のピークより約80兆円減ったが、今も約180兆円と巨額だ。政府の後ろ盾のある官製のメガ銀行とメガ生保が温存されれば、民業圧迫が続くことになる。
亀井郵政改革相は「以前の(国営の)姿に戻すつもりはない」と言うが、巨額資金を吸い上げ、20万人超の巨大グループを支え続ければ、民営化は形骸化する。
個人金融資産を民間投資に流れるようにし、経済を活性化させるという民営化の目的も果たせない。金融2社は、完全民営化することが必要だ。
ただし、郵便配達に来た職員に貯金を頼めないなど民営化が招いた問題点も、利用者の声に応え、改善を急いで欲しい。過疎地で、簡単な決済機能を維持するための工夫も欠かせまい。
無理に切り分けた感のある郵便局会社と郵便事業会社の統合なども検討課題となるだろう。
かんぽの宿の売却問題などで経営責任を問われた西川善文・日本郵政社長は辞意を表明した。
貴重な資産を不透明な手続きで安売りしようとした西川氏の責任は重い。政権交代で民営化の基本方針が変わったこともあり、現経営陣の刷新は当然である。
経営に空白を生じさせないように、政府は後任の人選を急がねばならない。
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