九電報告書 こんな会社で大丈夫か

朝日新聞 2011年10月18日

九電報告書 こんな会社で大丈夫か

どうしてここまで世間の常識とかけはなれたことができるのか。多くの国民が、あぜんとしているに違いない。

佐賀県玄海町の玄海原発の再稼働をめぐる「やらせメール」問題で、九州電力が経済産業省に最終報告書を提出した。

ところが、九電が調査を委託した第三者委員会が問題の核心として指摘した古川康佐賀県知事の関与には一切触れず、真相究明の姿勢がまったく感じられない。枝野経産相が「理解不能」と怒ったのも当然だ。

問題となったのは6月26日の県民向け番組。第三者委はその5日前に九電幹部と懇談した古川知事が「再開容認の立場からもネットを通じて意見を出して欲しい」と発言したことが「やらせ」の発端と認定した。

九電の報告書はこれを黙殺したばかりでなく、玄海原発のプルサーマル計画をめぐる05年の佐賀県主催の討論会で、九電が仕込んだ「やらせ質問」への県側の関与も言及していない。

いったい何のための第三者委員会だったのか。

しかも、7月にいったん辞表を提出した真部利応(まなべ・としお)社長は「個人的な考えだけで辞めることはできかねる」という不可解な理由で、05年の討論会開催時に社長だった松尾新吾会長とともに続投するのだという。

第三者委の委員長を務めた元検事の郷原信郎弁護士は「経営体制を維持しようとする経営者の暴走」と批判する。

電力会社の場合、不祥事や問題が起きても、一般市民には他の企業を選ぶことができない。こうした地域独占にあぐらをかいてきた電力会社の体質が、企業統治の機能不全を招いたのではないか。

それにしても、古川知事に批判の矛先が向かないよう、ここまで気を使うのは異常だ。

第三者委の報告書は、玄海原発で全国初のプルサーマル導入をめぐって、九電にとって古川氏は「まさに『希望の灯』とも言えるものだったはずである」と指摘している。

九電が原発の再稼働のためには、真相究明や住民への地道な説明よりも、知事の政治力が優先されると考えたとしたら、本末転倒も甚だしい。

外部からの批判に耳を傾け、独善的な体質を改める。それが電力業界にとって福島第一原発事故の大きな教訓であり、再発防止への原点だったはずだ。

九電は、批判を受けて報告書を再提出するという。しかし、電力業界の経営のあり方を抜本的に見直さない限り、安定的な電力供給もおぼつかない。

毎日新聞 2011年10月19日

九電報告再提出 信頼回復を最優先に

九州電力が、玄海原子力発電所(佐賀県)の再稼働をめぐる「やらせメール」問題の最終報告書を経済産業省に再提出することになった。先週提出した報告書が、真相究明にはほど遠い内容だったのだから、再提出は当然のことといえる。九電は、再提出を「背水の陣」と覚悟し、信頼回復に努めるべきだ。

やらせ問題は、玄海原発の再稼働向け、経産省が制作した住民向けテレビ番組に対し、九電側が子会社などに再稼働を支持する電子メールの投稿を依頼していたものだ。

九電が委託した第三者委員会は、九電幹部と面会した古川康佐賀県知事が、再稼働容認の意見が増えることを期待するという趣旨の発言をしたことが、問題の発端になったと認定した。05年に実施された県主催のプルサーマル討論会に関しても、九電が仕込んだ「やらせ質問」への知事の関与を指摘した。

しかし、九電はこうした認定を受け入れず、報告書には知事に都合の悪い指摘は盛り込まなかった。

そもそも真相究明を第三者委に委ねたのは、中立性、公正性を確保するためではないか。その結果を無視したことについて、眞部利應(まなべとしお)社長は「見解の相違」「私の目で自信をもっている」と強弁したが、説得力は乏しい。結果的に、信用失墜に輪をかけた格好だ。

原発再稼働に向け、知事の意向が大きな意味を持つことは否定できない。しかし、電力の安定供給を目指し、知事をかばって幕引きしようとしたのなら本末転倒といえる。地元住民の意向を無視し、知事が再稼働を決断することはないはずだ。

住民の理解を得られない限り、原発再稼働はあり得ない。最優先すべきは住民の信頼回復であり、それには公正な調査と意を尽くした説明が不可欠だ。

東京電力福島第1原発の事故以降、電力会社に対する国民の視線は厳しさを増している。九電以外の電力会社も、原発関連のシンポジウムなどで「やらせ」を繰り返していたことが分かっている。行政に守られ、事実上競争のない地域独占の中で、利益を享受してきたことが、そうした消費者を顧みない独善的な体質につながったとの指摘もある。

電力会社は、行政本位になりがちな視線を国民本位に転換しなければならない。九電は、再提出する報告書をその第一歩にすべきだ。

国主催のシンポジウムに関わる「やらせ」には経産省原子力安全・保安院も関わっていた。電力会社と国、自治体との不透明な関係も解消を迫られている。その意味で、古川知事も今回の第三者委の指摘を重く受け止めるべきだろう。

読売新聞 2011年10月18日

九電やらせ問題 報告の再提出で説明尽くせ

信頼回復へのハードルを自ら上げる行為ではないか。これでは、原発再稼働に必要な地元自治体や住民の理解が得られるかどうか心配だ。

九州電力は先週、玄海原子力発電所の再稼働をめぐる「やらせメール問題」の最終報告を経済産業省に提出した。

これに先立ち、九電の第三者委員会は、古川康佐賀県知事が九電幹部と面談した際、国主催の説明会で原発の運転再開を求める意見が増えることに期待を示し、やらせの実行に「決定的な影響を与えた」などと認定していた。

しかし、最終報告では、第三者委報告の記述を簡単に紹介するにとどめ、知事の関与や責任について言及しなかった。

枝野経済産業相は、九電が都合のいい部分を「つまみ食い」したと批判した。17日の記者会見では「国民や地域の信頼を回復するためどうすべきか、九電自ら判断すべきだ」とも述べた。

九電は批判を真摯(しんし)に受け止め、より丁寧な説明を盛り込んだ報告書を再提出する必要があろう。

やらせ問題の影響で、玄海原発の再稼働は今もメドが立たない。九電が説明不足のまま問題の幕引きを急げば、再稼働に地域住民などの理解を得ることは、一段と難しくなりそうだ。

九電以外の電力会社や原子力安全・保安院による原発賛成派の動員、やらせ質問依頼などの事実も発覚し、原子力関係者の情報発信に対する信頼は傷ついた。

全国的にも、今冬から来年にかけて電力不足に陥りかねない状況にある。九電の混乱が長引くと、他に与える影響は大きい。

そもそも九電は、やらせの原因究明と再発防止を徹底する狙いで弁護士ら有識者をメンバーとした第三者委を設けた。社内調査では身内に甘くなり、信用されないと判断したためだ。

ところが、九電の真部利応社長は、結論の違いは「見解の相違」であり、第三者委に合わせる考えはないとしている。これでは外部に調査を依頼した意味がない。

真部社長は7月に国会で、やらせ問題に関連し、事実上の辞意を表明したが、最終報告の提出にあわせて辞意を撤回し、続投する考えを示した。

「個人的な考えだけで、社長はやめられない」との釈明は、分かりにくい。

何よりも原発の再稼働が急務である。地元の不信感を払拭し、事態を打開できるよう、九電は知恵を絞ってもらいたい。

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