朝日新聞 2011年10月19日
普天間アセス 展望なき一手の愚かさ
膠着(こうちゃく)状態が続く沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題で、野田政権が動いた。
名護市辺野古沖を埋め立てて新滑走路をつくるための環境影響評価(アセスメント)の最終手続きに入る方針を決め、沖縄を訪れた一川保夫防衛相が仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事に伝えたのだ。
野田政権にすれば、日米合意の実現に向けた一歩という位置づけだろうが、事態を打開する糸口にはならない。むしろ混迷を深めてしまう「見切り発車」というしかない。
「最低でも県外」という公約を守れなかった民主党政権と沖縄との信頼関係は傷ついたままだ。辺野古案に反対し、県外への移設を求める沖縄側の姿勢は変わっていない。
それなのに、政府は来年前半にアセスの手続きを終えて、6月にも知事に埋め立て許可を申請する日程を描く。知事がかつては、条件つき容認論だったため、振興策なども絡めて説得すれば折れてくれるという期待感もあるようだ。
しかし、これは甘すぎる。地元の名護市に反対派の市長が生まれ、いまや県議会も一致して県外・国外移設を求めている。知事がゴーサインを出せる政治環境にないことは明らかだ。
成算もなく、アリバイづくりのように手続きを進めるべきではない。私たちはこう訴えてきたが、政府はまたも展望なき一手を打った。
一方で、私たちは野田政権の苦しい立場もわかる。米国から「目に見える進展」を求められている。来週には、パネッタ国防長官が来日するし、来月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)では日米首脳会談も予定される。
その前に、日本政府として努力を形にしておこう。そう考えて、関係閣僚が相次いで沖縄に足を運んでいるのだろう。
しかし、めざす方向性が違っていないか。
すでに辺野古への移設は事実上、無理だ。それでも、手続きを踏んでいくやり方は、沖縄県民だけでなく、米国政府に対しても不誠実だ。
来年、沖縄では県議選、米国では大統領選がある。政治的にも慎重な運びが求められる。
ここは、厳しい現実を率直に米国に伝え、日米が協調して、仕切り直すしかあるまい。
それは絶対に普天間を固定化させず、辺野古への移設でもない、「第三の道」を探るということだ。
一基地の問題が、日米関係を揺るがせた鳩山政権時代の愚を繰り返してはならない。
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毎日新聞 2011年10月17日
普天間移設 辺野古案は実現困難だ
野田内閣の閣僚による「沖縄訪問ラッシュ」である。先週の川端達夫沖縄担当相に続き、16日には一川保夫防衛相が沖縄入りし、17日に仲井真弘多知事と会談する。玄葉光一郎外相も19、20両日、訪沖する。
米軍普天間飛行場を名護市辺野古に「県内移設」するとした日米合意の履行に向けて、米政府に真剣に取り組む姿勢をアピールする狙いがあるのだろう。野田佳彦首相の年内訪沖の地ならしの意味もある。
しかし、「県外移設」を求める沖縄が政府に歩み寄る展望はない。実現の道が見いだせない辺野古への移設にしがみつくのは、もう限界である。野田政権は、日米合意を見直して、米国、沖縄双方が合意できる方策を検討すべきである。
野田政権は、沖縄・米空軍嘉手納基地の戦闘機訓練をグアムに一部移転することで米政府と合意し、沖縄側が要望する使途を限定しない一括交付金制度創設を打ち出した。
沖縄との関係改善を図りつつ、辺野古への移設に向けた突破口を開きたい、というのが野田政権の考えなのだろう。が、沖縄側は一連の施策が辺野古移設の「取引材料」となるのを強く警戒している。
一方で、政府は、辺野古移設に向けた環境影響評価の評価書を年内にも沖縄県に提出する考えだ。辺野古に新たな滑走路を建設するのに必要な埋め立てを知事に申請する作業の一環である。「具体的な進展」を求める米側の意向を踏まえた動きでもある。だが、このまま辺野古移設への手続きを進めれば、沖縄側の態度を一層硬化させかねない。
沖縄に米軍基地が集中する現状が本土による「差別」ととらえられ、強い不満と不信が渦巻いている現状では、新たに県内に基地を建設するのは容易でない。日米合意の見直しなしに、民主党政権下でこじれきった沖縄との関係を修復し、普天間問題を解決するのは困難だ。
米議会は、普天間移設と連動する在沖縄海兵隊のグアム移転費に対する削減圧力を強めている。議会内には、普天間の嘉手納基地への統合を模索する動きもある。嘉手納に限らず、現存する米軍基地に統合するのも一つの方策かもしれない。地元住民に危険性や生活被害が増大することに強い懸念があることを考慮すれば、現存基地への統合は、騒音など住民の負担が現在より軽減されることが前提になるのは言うまでもない。
普天間移設の原点は周辺住民の危険性除去である。辺野古への移設か普天間の継続使用(固定化)か、と二者択一を沖縄に迫り、辺野古移設に同意を求める手法では展望は開けない。野田首相は、現実を見据えて取り組んでもらいたい。
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