衆院選挙制度 格差是正を第一歩に

朝日新聞 2011年10月16日

衆院選挙制度 格差是正を第一歩に

「一票の格差」は、もう放置できない。衆院は最高裁が違憲状態だと断じ、参院も高裁での違憲判決が相次いでいる。

これを解決するために、私たちは衆院と参院の役割を根幹から規定し直しつつ、両院の選挙制度を一体的に改める必要があると唱えてきた。

「一票の格差」をただすだけでは、両院の選挙制度の抱えるさまざまな問題を解決できない、と考えているからだ。

しかし、当事者である国会の動きは鈍い。一体改革のそぶりもない。それでもやっと、衆院の定数を是正する与野党協議が始まる。

急がねばならない。衆院議員の任期は再来年8月までだが、解散はいつでもありうるのだ。

各党がまず合意すべきことは、はっきりしている。あらかじめ各都道府県に1議席を割り振る「1人別枠方式」をやめる法案を、近く始まる臨時国会で成立させることだ。

これなしには、具体的な区割りの見直し作業に入れない。

別枠方式は、1994年に現行制度を導入した際に、地方の代表を急に減らさないように設けた。もはや歴史的な使命は終えたし、最高裁判決も廃止を求めている。

同時に議員定数も減らそう。復興増税で国民に負担を求め、国家公務員の給与も削らねばならない時だ。政治家が率先して身を切らなければ、世論の理解は得られまい。

ただ、抵抗の少ない比例の定数だけを減らすのは乱暴すぎる。まず小選挙区から削る努力を求める。

公明党やみんなの党は、さらに踏み込んで選挙制度そのものの見直しを訴えている。

確かに、小選挙区に軸足を置いた現行制度には、2大政党間の政争を激化させた、政治家の劣化を招いたといった批判がある。5回の総選挙を経て、そろそろ制度の功罪を客観的に検証すべき時だろう。

それでも抜本的な改革には、相当の手間と時間がかかる。ここはまず、違憲状態のまま次の総選挙をしないことを最優先に考え、「一票の格差」の是正を第一歩にするのが現実的だ。

もちろん、小手先の是正でお茶を濁すのは許されない。そうさせないために、選挙制度をめぐる根本的な議論をする仕組みをつくる必要がある。

衆参の選挙制度を一体的に議論する場として、約20年ぶりに首相の諮問機関の選挙制度審議会を設けるのだ。

議員生命がかかる話は、第三者機関に任せよう。

毎日新聞 2011年10月18日

衆院1票格差 1人別枠廃止が先決だ

違憲状態の一日も早い解消が責務である。今年3月の最高裁判決を受けて衆院選挙制度の「1票の格差」是正に向けた与野党協議がようやく始まる見通しとなった。

各党には格差是正と連動して現行の小選挙区比例代表並立制の抜本見直し論も浮上しているが、区割り変更をまず実施しないと違憲選挙に突入しかねない状態を十分認識すべきだ。次期臨時国会での法改正を必ず実現しなければならない。

最高裁は今年3月、最大格差が2・30倍だった09年衆院選について現行制度下で初の「違憲状態」判断を下した。特に47都道府県にまず定数1を割り振る「1人別枠方式」の廃止を求めた。

ところが、国会は何の手立ても講じず半年以上が経過した。仮に事態を放置して違憲状態で選挙に突入しても最高裁が無効判決を出せないとたかをくくっているとすれば、度し難い司法軽視である。

遅まきながら政党も重い腰を上げるわけだが、協議の行方は明確でない。具体的な区割り改定案をめぐり民主、自民両党案に開きがあるほか、公明党が小選挙区比例代表連用制の検討も含めた制度抜本改革を重視する姿勢を示すなど、足並みがそろっていないためだ。

最高裁判断を受け「1人別枠」を前提に区割りを見直す政府の審議会は作業を中断している。法改正後に区割り作業を再開し、さらに有権者への周知期間も考慮すれば次期衆院選で「違憲状態」が回避できるか、すでにぎりぎりのタイミングだ。

だからこそ、まずは与野党が現行制度の「1人別枠」廃止の区割り変更で合意し、区割り審議会設置法改正などの措置を次期国会で講じることが最低限の責任だ。制度自体の抜本改革を次期衆院選で導入することは時間的に困難だ。結果的に違憲状態を放置し続ければ、政党の職務放棄と取られかねない。

一方で、衆院定数削減の問題も国会は抱える。復興財源確保を迫られる中、国会議員自ら身を削る姿勢を示そうとする議論は理解できる。

だが、民主党が主張する比例定数を大幅削減する方法は少数政党への影響など問題がある。格差是正と一体で小選挙区定数も見直すのが筋だろう。

現行制度の「並立制」のさまざまな問題点が指摘され、その功罪について政党が真剣に検証すべき段階にあることは事実だ。

政党政治のあり方にかかわるこうした問題には衆参両院のあり方も含めた幅広い視点からの議論が欠かせない。こうした議論に政党が取り組む環境を整えるためにも、目の前の違憲状態をまずは解消することを与野党に強く求めたい。

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