新聞週間 検証を次の災害報道に生かす

毎日新聞 2011年10月15日

新聞週間 震災と向き合い続ける

土ぼこりを巻き上げながら宮城県沿岸部を襲い、防風林を越えて住宅をのみ込んでいく大津波。本社ヘリに乗っていた毎日新聞東京写真部の手塚耕一郎記者は、無我夢中でシャッターを切り続けたという。

共同通信社を通じて配信された手塚記者の写真は、国内50紙、海外約400紙に掲載され、東日本大震災の衝撃を世界に伝えた。このスクープ写真は今年度の新聞協会賞に選ばれた。目撃者として、ありのままの現場を伝えることは、報道の原点と言っていいだろう。

未曽有の津波被害と、福島第1原発事故を引き起こした3月11日の大震災によって、新聞を含めた報道機関はその存在意義を問われた。

総力を挙げて大震災の現場に足を運んだ検証報道で、毎日新聞は日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞にも選出された。関係者をつぶさに取材し、多角的な視点で問題点を洗い出し、教訓を提示するのも報道に課せられた重要な使命である。

震災直後、電気の供給が止まり、通信機能がまひした。そのような中、避難所に届けられた新聞が被災者の重要な情報源として役に立ったのはうれしい。被災しながら新聞発行を続けた地元紙の奮闘に頭が下がる。河北新報や岩手日報、茨城新聞などは停電でコンピューターが作動しなくなり新聞製作に支障が出た。それぞれ災害協定を結ぶ他紙に紙面製作や印刷の代行をしてもらい、乗り切った。

宮城県石巻市の地元紙「石巻日日新聞」にも驚かされた。停電で輪転機が動かない中、手書きの壁新聞を作って避難所などに張り出した。この壁新聞は米ワシントンのニュース博物館に展示され、同紙は先月、国際新聞編集者協会年次総会で特別賞を受賞した。そのジャーナリズム魂を見習いたいと思う。

大災害に際して、きめ細かい安否情報や生活情報が大切であることも改めて認識した。被災地では何が不足し、どんな手助けが必要なのか。毎日新聞は、「希望新聞」を通じ、被災地と全国をつなぐマッチングを試みた。新聞やテレビなど既存メディアが、ネットやツイッターを利用し、そうした情報をより広く伝えようとした姿勢も目立った。いわゆるソーシャルメディアとの共存は、時代の流れだろう。

原発事故はいまだに収束しない。放射線被害一つとっても専門家によって解釈が異なる。どうかみくだいて分かりやすく報道するか。試行錯誤しながら考え続けるしかない。

「上を向く 力をくれた 記事がある」。15日から始まった新聞週間の代表標語だ。復興の力になる明るいニュースも発信を続けたい。

読売新聞 2011年10月15日

新聞週間 検証を次の災害報道に生かす

東日本大震災から7か月が過ぎた。多くの報道機関で、震災と原発事故をめぐる報道の検証作業が始まっている。

読売新聞は今週、社内の「報道と紙面を考える」懇談会で、本紙の一連の報道について外部有識者らから意見を聞いた。

国松孝次・元警察庁長官は「全般的に行き届いた報道だった」とする一方、「ただ情報を流すのではなく、専門記者が情報の中身を『こなして』、読者にどう行動すべきかの『選択肢』を与える記事が重要だ」と述べた。

東京・世田谷で12日、毎時2・71マイクロ・シーベルトの放射線量が検出されたとするテレビ、新聞報道を引き合いに、国松氏は「原因、数値の意味、安全性を知りたい。少しでもリスクがあれば『さあ大変』と大扱いするのは疑問だ」と言う。

報道側には事実を掘り下げ、冷静に伝える努力が欠かせない。

上田廣一・元東京高検検事長は「原発事故に関する記事は、読者にわかりやすく書いてほしい。風評被害の拡大を監視することも新聞の役目だ」と述べた。

長尾立子・元法相からも「防波堤や避難誘導などには地域差があった。津波対策の盲点を指摘し、新たな街づくりに生かせる報道を望む」との発言があった。

いずれももっともな指摘である。読者の理解を助ける解説記事や、復興を後押しするような論説、提言報道を続けていきたい。

報道各社の記者らを集めた先月のマスコミ倫理懇談会全国大会でも震災・原発報道を検証した。

ゲストの元原発設計技師は「記者側に専門知識が不足していた」と指摘した。専門記者の育成は各社に共通する課題だろう。

原発事故からしばらくは、政府や東京電力の出す膨大な情報を記事化するだけで精いっぱいだった、という反省もある。当時の取材状況を分析し、非常時の報道のあり方を考える必要がある。

読売新聞の世論調査では、新聞の震災・原発報道を「評価する」と答えた人は73%に上った。

一方で、新聞報道全般について「信頼できる」とした人は1年前から7ポイント下がり、80%だった。

この数字を真摯(しんし)に受け止めたい。日々の報道を点検し、課題や反省点を洗い出して紙面作りに反映させていくことが大事だ。

きょうから新聞週間。日本新聞協会が選んだ今年の代表標語は和歌山市の会社員、田中克則さんの「上を向く 力をくれた 記事がある」だ。そんな記事を一本でも多く、読者のもとへ届けたい。

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