ミャンマー 民主化を見極めたい

朝日新聞 2011年10月10日

ミャンマー 民主化を見極めたい

ミャンマー(ビルマ)政府が民主化勢力との対話やメディア規制の緩和など新機軸を矢継ぎ早に打ち出している。真の民主化への第一歩であればと願う。

20年ぶりの総選挙が昨年11月に実施され、「民政移管」が宣言された。しかし軍事政権が制定した憲法の規定もあり、国会議員の8割以上は軍人や軍出身者が占める。実質的には軍政の継続とみられていた。

ところがテイン・セイン大統領は8月に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんと面談。9月には中国の援助で建設中の水力発電ダムの工事凍結を指示した。環境問題などで少数民族が反発していた事業だ。

政府はさらに、亡命活動家らに帰国を促し、外国人記者に国会の取材を認めた。

出版物などの検閲を緩めた結果、スー・チーさんが表紙を飾る新聞や雑誌が街に出回り、外国報道機関や反政府団体のサイトが閲覧できるようになった。

政府は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を3年後に務めたい、と立候補した。

これをステップに国際社会への復帰を果たし、欧米の経済制裁を解除させて、最貧国から脱したいと考えているのだろう。

急な展開に欧米諸国はとまどいつつも歓迎している。だが民主化勢力は疑心暗鬼の様子だ。

02年にも軟化政策の時期があった。軍政トップがスー・チーさんと会談したものの、その後の揺り戻しでスー・チーさんは再び拘束され、対話を主導した首相が失脚した経緯がある。

今回も政府・軍内部で、改革派と守旧派の争いがあると推測されており、民主化が定着する保障はない。議長国が決まるまでのポーズだとの見方もある。

注目のスー・チーさんは「対話はまだ十分ではないが、変化が始まったところだ」と、政府の働きかけに応じる構えだ。民主化勢力には局面を打開する他の選択肢がない現実もある。

変革が本物と認められるにはまず、2千人とされる政治犯の釈放が求められる。対立が続く少数民族との対話も必要だ。総選挙への参加を拒否したスー・チーさんの国民民主連盟に改めて、政党登録と補欠選挙への参加を促してはどうか。

日本政府は早速、人道部門に限っていた途上国援助を人材育成などに広げた。日本企業の現地視察も始まった。

変化にあわせて援助を再開したり、経済交流を加速したりするのはいい。肝心なのは、改革が後戻りしないかを絶えず見極めながら、さらなる民主化を後押しする姿勢で臨むことだ。

毎日新聞 2011年10月14日

ミャンマー 改革路線の加速を望む

ミャンマー政府が約200人の政治囚を釈放した。これだけまとまった数の政治囚を一度に釈放するのは初めてで、改革姿勢の表れと一応は歓迎したい。ただし、多くの民主化活動家が依然として獄中に置かれ、民主化を求める国際社会の期待には程遠い。政府が進める改革路線がさらに加速するよう望む。

恩赦には、政府批判をとがめられて投獄されていた人気コメディアンのザガナー氏など著名な人物も含まれた。しかし、1988年の大規模デモ以来20年以上にわたって民主化闘争を続ける「88年世代グループ」と呼ばれる民主化活動家らは釈放されなかった。

民主化運動指導者のアウンサンスーチーさんは「政治囚の釈放には感謝する」と歓迎しながら「もっと多くの釈放を望む」とも述べ、全ての政治囚の釈放を求めた。国際社会でも一定の評価はしながら、ミャンマー政府の今後の行動を慎重に見極めたいという空気が強い。

ミャンマー政府は8月以来、テインセイン大統領がスーチーさんと会談したり、インターネットや出版物の規制や検閲を緩和するなど、軍事政権時代の独裁政治から転換する動きを見せている。今回の恩赦もそうした改革路線の一環だ。

その背景には、民主化努力を国際社会にアピールすることにより、欧米諸国から課されている経済制裁の解除につなげたい狙いがある。外国からの投資や企業誘致を進めて経済成長を目指し、「最貧国」を脱したいという思惑だ。

石油や天然ガスなど資源が豊富なミャンマーに対しては、中国が積極的に接近し、国際社会から孤立しがちなミャンマーの後ろ盾的な存在となってきた。ところが、ミャンマー政府は最近、北部カチン州で中国が建設を進め、地元住民らが反対している水力発電用ダムの開発中止を決めた。中国のみに依存する外交姿勢を軌道修正しつつある。

ミャンマー政府は、自国の天然資源を狙う周辺諸国などの思惑もにらみながら、段階的な政治囚の釈放を通じて、国際社会の反応をうかがおうとしているようだ。しかし、政治囚拘束は人権問題であり、今回の恩赦だけにとどまれば、欧米諸国が経済制裁の解除をためらうのも当然だ。改めて全ての政治囚の釈放を求めたい。

政権側が武力で封じ込めた88年のデモでは、数多くの学生らが海外に逃れ、国外から祖国の民主化を目指す運動を続けている。政府が民主化活動家の釈放に踏み切れば、海外に亡命している元学生らの帰国も可能となる。彼らが海外で蓄積した能力や知識を国づくりに役立てることにもつながるはずだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/852/