瀬戸際のユーロ 時間稼ぎはもうできぬ

朝日新聞 2011年10月14日

欧州危機 十分な額の資本注入を

ギリシャに端を発した欧州の財政危機が、金融危機に拡大するのか。それとも瀬戸際で、欧州が政治的な結束と実行力を発揮できるのか。

ユーロ圏からギリシャへの資金支援がずるずると延びるなかで、仏・ベルギーの大手金融機関デクシアが破綻(はたん)した。保有するギリシャなど問題国の国債が重荷になった。

欧州諸国はこれまで「ギリシャ国債でも安全だから、銀行には資本不足の心配はない」と言い張ってきたが、その建前が吹き飛んだ。欧州連合(EU)委員会は財政危機から金融危機への連鎖を防ぐため、銀行に資本増強を強制する方策のとりまとめに入った。

注入する資本の原資のひとつとなる欧州金融安定化基金(EFSF)の拡充策は加盟17カ国のすべてで承認される見通しだ。基金の使用枠を4400億ユーロに広げ、資本注入のほか、問題国の国債を市場から買い上げることもできるようにする。

大事なのは、銀行の厳格な資産査定を前提に、「打ち止め」感が出るのに十分な規模の資本を迅速に注入できる態勢を整えることだ。原資が足りないならEFSFを拡大すべきだ。

欧州は23日の首脳会議で包括的な対策の合意を目指す。これが満足な中身になれば、11月のG20サミットで世界が欧州を支援する政策協調が動き出すことへの期待感も高まる。

ただ、欧州危機の根は深い。ギリシャ国債の元本の大幅な削減は不可避だろう。その現実を直視しなければならない。貸し渋りを防ぎつつ、銀行の不良資産の処理を進めるには巨額の資金が必要になる。

生じる損失を、銀行やその株主とユーロ圏の政府でどう分かち合うか。これは欧州の責任で決めなければならない。

ここがはっきりすれば、EFSFの抜本的な強化に向けて、資金繰りの支援などでG20や国際通貨基金(IMF)にできることは多いはずだ。

欧州危機をめぐる一連の混迷は、日本のバブル崩壊後の金融危機とうり二つだ。日本政府は危機が高じると弥縫(びほう)策でお茶を濁し、市場が静まると対策が滞り、再び危機を招くという事態を繰り返した。

最後は「日本発の世界恐慌は起こさない」と宣言して、巨額の公的資金で銀行の破綻と損失の処理に踏み切った。

政策決定が一元化されていない欧州だが、政治的求心力を確立して危機を克服しなければならない。これ以上、日本と同じ轍(てつ)を踏んではならない。

毎日新聞 2011年10月13日

瀬戸際のユーロ 時間稼ぎはもうできぬ

欧州の財政・金融不安は連鎖の危険水域に達した--。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁が強い口調で警告した。欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)がギリシャへの融資第6弾(80億ユーロ)にゴーサインを出し、同国の債務不履行は再び回避見通しとなったが、抜本的には何ら改善していない。信用不安は欧州の金融全体をのみ込もうとしており、ギリシャ支援の最終的な構図も見えないままだ。欧州はもう時間稼ぎが許されない地点に来ている。

EUなどがギリシャへの追加融資を発表した11日、スロバキアでは議会が欧州金融安定化基金(EFSF)の機能拡充策を否決した。追加融資80億ユーロは、昨年5月に決まった支援総額1100億ユーロの一部。一方、スロバキア議会が否決したのは、信用不安に陥ったユーロ加盟国やユーロ圏内の銀行を広く柔軟に支援するための対策だ。7月に首脳間で合意したが、加盟17カ国すべてで議会の承認を得ることが実施の前提となっていた。その承認手続きで17カ国最後となったスロバキアが、初の「ノー」の結論を下したのである。

国内の政治対立も複雑にからんでいるようで、再採決により近く承認されるというが、今回の否決は、一加盟国の放漫財政のツケを払わされる他国の国民感情を端的に象徴している。

問題は、基金の機能が予定通りに拡充されても、まだ不十分であることだ。貸し出し能力などの大幅な増強なしに市場は安心しないだろう。

相当な困難を伴うとしても、ユーロ圏の政治指導者らは、複数の任務に全力であたらねばならない。市場における信用の回復と各国の国民の説得である。市場の信用回復では、金融システム全体が揺らぐ前に、早急に弱い銀行の資本増強や再編の後押しを政府主導で進めることだ。一方、ギリシャの危機がイタリア、スペインなど規模の大きな国へ本格的に連鎖するのを食い止めるのも極めて重要である。ギリシャ国債を保有する銀行に追加負担を求める案が検討されているようだが、危機の連鎖を招く結果にならないだろうか。

一方、国民の不満はユーロ圏全域でますます高まっている。なぜ通貨統合の道を選択したのか、これが崩壊すればどういう事態を招くのか、国民に分かりやすく説明する努力を強化しなければならない。

欧州は今月末までにユーロ安定化のための包括策をまとめるという。また期待外れに終われば、市場の混乱は一気に加速するだろう。世界経済を再び金融危機に巻き込みかねない瀬戸際だ。欧州統合を主導してきた独仏の首脳の力量が今ほど試されている時はない。

読売新聞 2011年10月12日

欧金融大手解体 独仏の主導で連鎖危機を防げ

ギリシャの財政危機が波及し、資金繰りに行き詰まった欧州の金融大手が、公的支援下で、解体されることになった。

2年前にギリシャ債務問題が表面化して以来、金融大手の処理は初めてだ。新たな局面に入ったと言えよう。

金融危機の拡大と、世界経済への悪影響を食い止めなければならない。金融システム安定に向け、独仏両国が主導して、欧州の結束を強化すべきである。

問題の金融機関は、フランスとベルギーに拠点を持つデクシアだ。大量保有のギリシャ国債が値下がりし、経営危機に陥った。

フランス、ベルギー、ルクセンブルクの3か国政府が決めた処理策は、デクシアを解体し、このうちベルギーの銀行部門に公的資金を投入して一時国有化する。不良債権は切り離し、巨額の政府保証で資金繰りを支援する内容だ。

欧米や日本など世界の株式市場の株価は上昇している。ひとまず安心感が広がったようだ。

しかし、懸念されるのは、ギリシャのほか、イタリア、スペインなどの財政赤字国の国債を大量に保有している欧州の銀行は、デクシアに限らないことだ。

ギリシャに続き、イタリアやスペイン国債の格付けが引き下げられた。欧州当局が対応を誤れば、「デクシアの次はどこか」という疑心暗鬼が広がりかねない。

国際通貨基金(IMF)の推計によると、欧州財政赤字国の国債保有に伴う損失に必要な資本増強額は、2000億ユーロ(約20兆円)規模にも上る。

欧州連合(EU)は主要銀行のストレステスト(特別検査)の結果を7月に公表した。だが、デクシアが「合格」していたように、検査の甘さは否定できまい。

EUは、各銀行の財務内容を厳しく再査定すべきだ。たとえ保有国債に損失が発生しても対応できるよう、各行があらかじめ資本増強を急ぐことが求められる。

メルケル独首相とサルコジ仏大統領が会談し、銀行の資本増強で一致した。デクシアに危機感を強めた結果で、当然の判断だ。

焦点は、両首脳が月内にまとめると表明した銀行の資本増強策を含む包括的な安定策である。

今週末にパリで主要20か国・地域財務相・中央銀行総裁会議(G20)が開かれ、23日にEUとユーロ圏の首脳会議が予定される。

欧州金融安定基金(EFSF)の一層の拡充や、公的資金の大胆な投入など、欧州は明確な方策を打ち出さねばならない。

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