年金支給開始年齢 雇用の確保が前提だ

朝日新聞 2011年10月13日

年金支給年齢 引き上げ論議は丁寧に

年金を支給し始める年齢を引き上げるかどうか。その議論が、厚生労働省の審議会で始まった。

厚生年金の支給開始年齢は現在、引き上げの最中だ。男性は2025年、女性は30年までかけて、段階的に65歳にする。

これを68歳まで引き上げたり、引き上げのペースを速めたりする案が示された。

いずれも、政府が「税と社会保障の一体改革案」論議で、5月末に公表していた内容だ。

高齢化・少子化が進むなか、なるべく多くの人が働き、社会を支えるようになるのは望ましい。その意味で、引き上げは選択肢になりうる。

だが、高齢者が働ける場を確保できないと、生活に困る人を増やすことになりかねない。

しかも、年齢引き上げは、いま制度を支えている世代にだけ影響することに注意したい。すでに年金を受け取っている高齢者はもちろん、現在61~64歳の「団塊の世代」も対象外だ。

支え手世代は「なぜ自分たちだけが割を食うのか」と受け止めるだろう。逃げ水のように支給が遅くなる分、受け取る金額が減ると感じるのが自然だ。

ただ、受け取る期間が短くなれば、それだけ損をするという単純な話ではない。引き上げによって年金財政が楽になる分、現役世代が将来、受け取る年金が増える可能性も出てくる。

というのは、いま段階的に上がっている年金の保険料は17年度には上限で固定され、あとは積立金を含めた一定の枠内のお金を誰にどう配るかという判断になるからだ。

年齢引き上げが、年金財政や将来の年金にどのような影響を及ぼすのか。具体的な制度設計をもとに試算をして、議論を深める必要がある。そして、実施するなら、世代間で不公平が生じないよう、できるだけ早く進めるほうが望ましいだろう。

ただし、引き上げで影響を受ける世代の不満を和らげるためにも、すでに支払われている年金について、物価や賃金の下落に応じて支給額を引き下げることが先決だ。

支給額の大幅な減額は高齢者の反発を招くため、必要な額の引き下げが行われず、年金が高止まりしている実態は看過できない。

このままだと、賃金が下がって保険料収入が少なくなる分、財政が悪化し、将来世代が受け取る額が下がってしまう。

年金を受け取る側と支え手とのバランス、高齢者が働く場の確保などに目配りした包括的な議論を期待したい。

毎日新聞 2011年10月13日

年金支給開始年齢 雇用の確保が前提だ

厚生労働省は厚生年金の支給開始年齢を引き上げる案を社会保障審議会年金部会に示した。年金財政の悪化や少子高齢化の進展を見れば、年金支出の抑制措置は避けられまい。ただ、高齢者の雇用の場が確保されなければ生活困窮者があふれ出る可能性がある。雇用政策とセットでの議論が必要だ。

国民皆年金が始まった1961年当時、男性の平均寿命は66歳、女性70歳、サラリーマンの定年は55歳が普通で年金も55歳から支給されていた。現在、女性は世界一の長寿で86歳、男性も79歳。今後も延び続け、高齢化のピーク時には女性は90歳を超える。雇用や年金を長命社会に見合ったものにするのは当然だ。

厚生年金の報酬比例部分は男性は13年度から、女性は18年度から3年に1歳ずつ引き上げられることになっている。今回、厚労省は(1)引き上げを2年に1歳ずつにする(2)現行スケジュールで65歳まで引き上げた後、基礎年金と併せて68歳に引き上げる(3)2年に1歳ずつ引き上げた上、さらに68歳まで引き上げる--の3案を示した。1歳の引き上げで年間約1兆円支出が減る見通しだ。

ただ、支給開始年齢を引き上げただけでは、定年後に収入のない人が続出する恐れがある。高年齢者雇用安定法では企業に対して、(1)定年の引き上げ(2)継続雇用制度の導入(3)定年制度の廃止--のいずれかの措置を取ることを義務付けている。ほとんどの企業が年金をもらえる年齢まで雇用確保措置を実施しているが、希望者全員が65歳まで働ける企業は46%、70歳まで働ける企業は17%にとどまっている。年金支給開始年齢引き上げを実施するためには、高齢者雇用のさらなる拡充が不可避だ。

また、現在60歳以降も働いている人は、賃金と年金の合計額が月28万円を超えると年金が削減されるが、これでは老後も働き続ける意欲がわかないだろう。このため厚労省はこの「在職老齢年金制度」に関して60~64歳の減額基準を緩める案を示した。我が国の高齢者は勤労意欲が高く、「70歳を超えても働きたい」「働けるうちはいつまでも働きたい」という人が全体の6割にも上る。こうした意欲に応え、年金受給から労働の継続へと老後の生活を変えていくためにも必要な措置だ。

一方、若い世代にとっては保険料を払う年月が延び、年金をもらえるのがさらに遠のくことに不公平感を抱く人も多いに違いない。支給開始年齢の引き上げとともに、現在年金を受給している世代が痛みを分かち合うことも避けられまい。高所得者の年金減額や課税の強化、デフレ下では物価に連動して引き下げる措置も検討すべきだ。

読売新聞 2011年10月14日

年金支給年齢 引き上げは雇用確保と一体で

少子高齢化の進行を考えれば、避けられない議論だろう。

厚生労働省は、会社員が加入する厚生年金について、支給開始年齢の引き上げに関する3通りの案を社会保障審議会年金部会に示した。

厚生年金の支給開始年齢は、すでに、現在の60歳から「3年ごとに1歳」のペースで遅らせ、段階的に、基礎年金(国民年金)と同じ65歳にまで引き上げることが決まっている。

厚労省が示したのは、〈1〉65歳への引き上げペースを「2年ごとに1歳」に速める〈2〉ペースは現状通り維持しながら、支給開始年齢をさらに68歳まで遅らせる〈3〉ペースを速めるとともに支給開始年齢も68歳にする――の3案だ。

「支給開始年齢の引き上げの検討」は、政府・与党が6月にまとめた社会保障と税の一体改革案の中で、年金改革の柱の一つに掲げられていた。

高齢化により年金の受給者は増え、受け取る期間も延び続けている。一方で、少子化によって支える側の人数は減少していく。年金制度を安定的に運営するため、支給開始年齢の引き上げを目指すのはやむを得ない。

ただし、引き上げるには、その年齢まできちんと雇用が確保されることが大前提だ。

現在、支給開始を65歳へと段階的に引き上げている途中だが、一方で高年齢者雇用安定法が定められ、企業は定年延長や再雇用などで65歳までの雇用確保を義務づけられた。両者はセットである。

しかし、現行の雇用確保義務には労使協定で柔軟に運用できる面があり、希望者全員が65歳まで働ける企業は約48%にとどまる。このままでは、退職してから年金をもらえるまで、多くの人に空白期間が生じてしまう。

65歳までの雇用が定着したとは言えない状況下で、さらに年金支給年齢を68歳まで引き上げるという案だけを示されても、国民の多くは容易には受け入れまい。

厚労省とすれば、それほど年金財政は深刻だとアピールする意図もあったのだろう。だが、今回の提案は、雇用対策を置き去りにしたまま、年金支給年齢の引き上げだけを急ぐ印象を与えている。

後期高齢者医療の例を引くまでもなく、社会保障改革は理解を得る努力を怠ると、感情的な反発が先行してしまう。

いくら必要な改革でも、議論を拙速に進めることはできない。高齢者雇用の充実策を練り上げ、セットで国民に示すべきである。

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