政府が機密情報の管理を強化する法案をつくり始めた。来年の通常国会に提出するという。
ウィキリークスによる米国の外交公電の暴露に象徴されるように、ひとたび情報が流出すれば、瞬時に世界を駆けめぐる。政府が情報管理に万全を期すのは、あたり前のことだ。
しかしながら、私たちは新しい法案が大きな副作用をもたらすことを心配する。
たとえば、国民に知られては都合の悪い情報を、政府が隠す手段に使わないか。公務員の情報公開に対する姿勢を萎縮させてしまわないか。運用しだいで、国民の知る権利も、取材・報道の自由も侵しかねないことは明らかだ。
法案の下敷きは、尖閣諸島沖の中国漁船ビデオの流出事件を機に、政府が設けた有識者会議が8月にまとめた報告書だ。
それによると、国の安全、外交、治安の3分野で、国の存立に関わる重要情報を、担当大臣らが「特別秘密」に指定する。
特別秘密を扱えるのは、配偶者を含めて、犯罪歴や薬物の影響などを調べあげた上で、秘密を守れると認めた人物に限る。
国家公務員法の守秘義務違反の懲役は1年以下だが、特別秘密を漏らした場合は、5年か10年以下に強化する。
だが、そもそも「特別秘密」とは何か。その範囲が恣意(しい)的に広がらないか。公務員のプライバシーへの配慮は十分なのか。漏洩(ろうえい)をそそのかした者も罰することで、正当な取材活動が罪に問われないか……。
現時点では、詰めなければいけない点があまりも多い。
すでに防衛分野だけは、01年の自衛隊法改正で、特に重要な秘密を「防衛秘密」にして、漏らしたときの罰則を強化している。新聞記者に防衛秘密に当たる情報を提供した航空自衛隊幹部が懲戒免職になった事例もある。こうした運用の是非を、まず検証してみてはどうか。
国際テロ対策など、諸外国との情報共有が必要な場面が増えたことが、法案づくりの背景にあることは理解する。
だが、政府が新法を制定したいのならば、もっと本気で情報公開を進めることが不可欠だ。
まずは、国会でたなざらしにされている情報公開法改正案を早急に成立させるべきだ。知る権利の保障を明記し、情報開示をさらに進める内容に異論はないはずだ。さらに、懸案の官房機密費の将来の公開にも道筋をつけてほしい。
こうした情報公開を進化させる手立てを講じてから、管理強化の法案を検討すべきだ。
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