秘密保全法制 「取材の自由」の制約が心配だ

朝日新聞 2011年10月12日

秘密保全法制 「知る権利」守れるのか

政府が機密情報の管理を強化する法案をつくり始めた。来年の通常国会に提出するという。

ウィキリークスによる米国の外交公電の暴露に象徴されるように、ひとたび情報が流出すれば、瞬時に世界を駆けめぐる。政府が情報管理に万全を期すのは、あたり前のことだ。

しかしながら、私たちは新しい法案が大きな副作用をもたらすことを心配する。

たとえば、国民に知られては都合の悪い情報を、政府が隠す手段に使わないか。公務員の情報公開に対する姿勢を萎縮させてしまわないか。運用しだいで、国民の知る権利も、取材・報道の自由も侵しかねないことは明らかだ。

法案の下敷きは、尖閣諸島沖の中国漁船ビデオの流出事件を機に、政府が設けた有識者会議が8月にまとめた報告書だ。

それによると、国の安全、外交、治安の3分野で、国の存立に関わる重要情報を、担当大臣らが「特別秘密」に指定する。

特別秘密を扱えるのは、配偶者を含めて、犯罪歴や薬物の影響などを調べあげた上で、秘密を守れると認めた人物に限る。

国家公務員法の守秘義務違反の懲役は1年以下だが、特別秘密を漏らした場合は、5年か10年以下に強化する。

だが、そもそも「特別秘密」とは何か。その範囲が恣意(しい)的に広がらないか。公務員のプライバシーへの配慮は十分なのか。漏洩(ろうえい)をそそのかした者も罰することで、正当な取材活動が罪に問われないか……。

現時点では、詰めなければいけない点があまりも多い。

すでに防衛分野だけは、01年の自衛隊法改正で、特に重要な秘密を「防衛秘密」にして、漏らしたときの罰則を強化している。新聞記者に防衛秘密に当たる情報を提供した航空自衛隊幹部が懲戒免職になった事例もある。こうした運用の是非を、まず検証してみてはどうか。

国際テロ対策など、諸外国との情報共有が必要な場面が増えたことが、法案づくりの背景にあることは理解する。

だが、政府が新法を制定したいのならば、もっと本気で情報公開を進めることが不可欠だ。

まずは、国会でたなざらしにされている情報公開法改正案を早急に成立させるべきだ。知る権利の保障を明記し、情報開示をさらに進める内容に異論はないはずだ。さらに、懸案の官房機密費の将来の公開にも道筋をつけてほしい。

こうした情報公開を進化させる手立てを講じてから、管理強化の法案を検討すべきだ。

読売新聞 2011年10月08日

秘密保全法制 「取材の自由」の制約が心配だ

政府は、国の存立にかかわる重要情報を「特別秘密」に指定し、漏洩(ろうえい)させた国家公務員らに厳罰を科す「秘密保全」法制化の作業に着手した。

次期通常国会に、新法として法案提出をめざすという。

もとより国家の秘密情報は厳重に管理しなければならない。一方で、秘密指定の範囲や処罰対象を広げすぎると、国家による情報統制の恐れが出てくる。

国民の知る権利や報道機関の取材の自由にも配慮した、慎重な議論が求められよう。

日本では、外国情報機関などが関与した情報漏洩事件がたびたび起きている。最近では尖閣ビデオや、警視庁の国際テロ情報の流出など、政府の内部情報がネット上に漏れ出て短時間で拡散するケースも相次いでいる。

これほど重要情報の管理がずさんでは、日本の国際的信用は失墜し、防衛、テロ関連などの情報共有にも支障が出かねない。

政府の「情報保全に関する検討委員会」の下、有識者会議がまとめた報告書によると、特別秘密の対象とするのは、「国の安全」「外交」「公共の安全と秩序維持」の3分野の情報だ。

新法の別表に具体的事項を列挙しておき、これに該当する情報を、所管大臣が個別に特別秘密として指定するという。

特別秘密を管理する公務員、委託業者らは、事前に行政機関の長による適性評価を受ける。秘密保全の実効性を高めるため、人的管理を徹底するのが狙いだ。

問題は、対象3分野の範囲と、どういう情報が秘密指定対象になるのかが、あいまいなことだ。

「国家のあらゆる情報を秘密指定して、国民に必要な情報まで隠そうとしている」という批判も出ている。秘密指定を限定的にし、かつ明確化することが肝要だ。

厳罰化の影響も懸念される。国家公務員法の守秘義務違反の懲役は「1年以下」だが、特別秘密の漏洩には「5年以下」や「10年以下」の適用が検討されている。

厳罰を恐れ、公務員らが報道機関の取材に応じなくなるのではないか。処罰規定が恣意(しい)的に運用されて、報道機関の通常の取材までが漏洩の「そそのかし」「教唆」などに問われる事態は生じないか。なお疑念が残る。

取材の自由の制約は、国民の知る権利の侵害につながる。

今後、関係省庁間の協議や与党との調整などが行われる。取材の自由について、明文規定を盛り込むことも検討されるべきだ。

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