ジョブズ氏死去 ワクワクをありがとう

朝日新聞 2011年10月08日

ジョブズ氏逝く 世界を2度変えた男

かつて、これほど世界中の人々から、死を惜しまれた企業経営者がいただろうか。

アップルの共同創業者で、前最高経営責任者(CEO)のスティーブ・ジョブズ氏が、56歳で死去した。

「Think different」(発想を変える)

ジョブズ氏がアップルに復帰し、97年から展開したキャンペーンのコピーである。アインシュタインやガンジーらの映像を使ったCMのナレーションは、こう締めくくられる。「自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えているのだから」

それは、まさにジョブズ氏の歩みでもあった。

ジョブズ氏は創業翌年の77年にアップル2を、84年にはマッキントッシュを発売し、世界的ヒットを飛ばす。そこには、大企業のものだったコンピューターの世界を個人の手にもたらすというカウンターカルチャーの気風が色濃く投影されていた。

85年に会社を追放された。

10年余りを経て復帰した後はiMac、iPod、iPhone、iPadと、新たなコンセプトを持つ製品を送り出し、アップルを復活させただけでなく、人々の暮らしに多大な変化をもたらした。ジョブズ氏は少なくとも世界を2度変えた。

特筆すべきは、そのビジネスモデルだ。「ものづくりではもうからない」と言われる時代にアップルは一貫してソフトとハードを統合した事業を続けた。ジョブズ氏はあらゆる製品で、デザインや使いやすさに徹底的にこだわった。

そのうえで、自社では工場を持たない。少品種の製品に絞り込みつつ、日本を含む世界中の企業から最適な部材を調達することで、メーカーとして極めて高い収益率を維持した。

ものづくりを得意としながら収益悪化に苦しむ日本企業は、改めて商品コンセプトの革新性とデザインへの審美眼を学ぶしかあるまい。

アップルはアップストアのようにソフトを配信する独自のサイトを設け、自社の端末で楽しんでもらう囲い込み型ビジネスで商品の価値を高めてきた。

今後、テレビをはじめとした家電や自動車、オフィス用品など様々な機器がオープンな形でインターネットに接続する時代が到来する。そのとき、アップルは囲い込み型ビジネスモデルからどう発展していくのか。

新しい製品を紹介する際の決まり文句だった「それから、もうひとつ」をもはや聞けないのが、残念でならない。

毎日新聞 2011年10月07日

ジョブズ氏死去 ワクワクをありがとう

アップルの創業者のスティーブ・ジョブズ氏が死去した。スマートフォン(多機能携帯電話)の「iPhone(アイフォーン)」の新機種「4S」が発表され、話題を集めているさなかでの突然の訃報だった。

自宅のガレージでアップルを創業したのは20歳の時だった。組み立て型ではなく完成品として1977年に世界で初めて売り出されたホームコンピューターの「アップル2」が大ヒットしたことを受け、IBMなども参入してパソコン(PC)は職場や家庭に広がっていった。

経営をめぐる路線対立からジョブズ氏は85年にアップルから離れ、アニメーション会社ピクサー・アニメーション・スタジオを買収して映画「トイ・ストーリー」などの製作を手がけた。そして97年に経営が傾いたアップルに復帰する。

パソコンの基本ソフト(OS)を一新し、動画や音楽の再生・管理ソフトの「iTunes(アイチューンズ)」と携帯プレーヤーの「iPod(アイポッド)」によりコンテンツビジネスに参入してパソコンと並ぶ事業の柱にした。

さらに07年に発表したiPhoneはスマートフォンブームを起こし、現在進行している携帯電話の大変革につながった。「iPad(アイパッド)」もタブレットPCブームを引き起こしている。

アップルを再生させ、株式の時価総額で世界最大の企業に押し上げたわけだが、iPhoneに使われているタッチパネルなど主要部品はアップルが開発したものではなく、他の企業から調達したものだ。

しかし、徹底的にこだわった機能や使いやすさ、デザインは支持され、アップルの製品への高い評価とイメージにつながった。

パソコンや音楽プレーヤーなどデジタル製品は、汎用(はんよう)の部品を調達すれば、同等の性能の製品を容易につくることができる。

そのため、ソフトや部品を別々に調達して製品化する水平分業の方が、主要な部品から完成品までを一貫して生産する垂直統合より価格競争力に優れるとされてきた。しかし、それは利益なき繁忙とも呼ばれる状況を生み出した。

スマートフォンやタブレットPCでは、アップル以外のほとんどの企業が、グーグルのOSの「アンドロイド」を採用している。そのため差別化が難しい。

ソフトとハードを一体で提供し、他との違いを鮮明にすることでジョブズ氏は大成功した。

ジョブズ氏亡き後のアップルの将来は定かではない。しかし、ライフスタイルを変えるワクワクするような製品を生み出す次のクリエーターの登場を期待したい。

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