暴力団排除条例 包囲網を生かしたい

朝日新聞 2011年10月05日

暴力団の排除 警察こそ前面に立て

公共工事の下請け、孫請けから排除され、組事務所を新たに開くことも事実上できない。

組の名前が入った名刺の印刷はお断り。ホテルで宴会を開こうにも、暴力団とわかればキャンセルされる。組員は銀行口座を開けず、子どもの給食代も引き落とせない――。

となれば、ヤクザなんかやってられねぇ、となるだろう。

社会・経済のあらゆる場から暴力団を締め出し、資金源を断つ。そのため市民や企業に決別を求める。威力を借りたり、活動を助長したりする目的で暴力団に利益を与えた場合は、指導や摘発の対象にする。その態勢が整いつつある。

東京都と沖縄県で今月、暴力団排除条例が施行され、同様の条例が全国で出そろった。組員とわかれば契約を解除できる条項を設ける動きも広がる。

この包囲網を、いかに強く丈夫なものにするか。

「どんなケースが利益供与に当たるか」「暴力団関係者だとどうやって判断するのか」と、戸惑いの声は大きい。警察は実例を示して説明を重ね、恣意(しい)的な運用は戒めるべきだろう。善意の市民を不安にさせるのが目的ではないはずだ。

他方、様々な利害やしがらみで暴力団と腐れ縁を続けてきた世界もある。そうした人はこれまでの「セーフ」は「アウト」になると覚悟した方がいい。

ビートたけしさんは、週刊誌で芸能界と暴力団とのつきあいの一端を明かし、「これからは条例を盾に断れるんだから、ありがたい」と語っていた。

芸能界以上に正念場を迎えるのは、実は警察だ。

1992年の暴力団対策法の施行以降、「壊滅を」とかけ声を続けてきたにもかかわらず、暴力団の勢力は衰えていない。関係者と接触して情報をとる捜査手法も難しくなった。

取り締まりがどうにも行き詰まる中、市民社会の側に責任を課した面がある。だが、暴力団対策の最前線に立つのは、やはり警察をおいてない。

関係を絶とうとする市民を、脅しから守り抜く。福岡県では暴力団排除を進めてきた企業などを狙った発砲事件の犯人が、捕まらないままだ。事件解決にも全力を注がねばならない。どうせ警察は何もしてくれないと不信がぬぐえぬようでは、この作戦は失敗に終わる。

追いつめられた暴力団が、闇に潜る恐れもある。居場所がなくなる者たちの受け皿をどうするかも、今後の課題だ。そうした動向を見すえつつ、対策を強めてゆかねばなるまい。

毎日新聞 2011年10月02日

暴力団排除条例 包囲網を生かしたい

暴力団を市民生活から排除する仕組みが出そろった。暴力団排除条例が1日の東京都と沖縄県を最後に全都道府県で施行された。

人気タレントの島田紳助さんが暴力団関係者との交際を理由に芸能界を引退したことは、社会に少なからず衝撃を与えた。

暴力団は社会の隅々に根を張る。祭礼や興行など市民生活に近い場所で接する機会もあるだろう。条例は、社会全体で闇勢力の力をそぐことを目指し、事業者や市民の「黒い交際」にも目を光らす。

公共工事からの排除、学校周辺での事務所開設の禁止、利益供与の禁止などが、各地の条例に共通する内容だ。違反者には勧告や、「密接交際者」として名前を公表される措置が規定され、罰則もある。

東京都の条例では、祭礼などの主催者が行事の運営に暴力団を関与させないよう努めたり、事業者が契約時に暴力団関係者でないことを確認するよう努める規定も設けられた。

条例は、暴力団への毅然(きぜん)とした態度を市民に求める内容だ。暴力団関係者からの嫌がらせや報復行為も十分に予想される。警察は、断固として取り締まり、必要に応じて市民を保護するための措置も取るべきだ。昨年、北九州市で指定暴力団の追放運動をしていた自治会の役員宅が銃撃された。市民を守れなければ、協力にもブレーキがかかるだろう。

一方、条例の運用に不安の声もある。どういう場合が暴力団への利益供与に当たるのかは警察が判断する。警察は情報提供を含め、市民との意思疎通を密にしてもらいたい。

近年、暴力団は資金獲得のため、経済活動に積極的に介入している。建設や不動産、金融や証券など進出分野は幅広い。

政府の犯罪対策閣僚会議が06年に「暴力団や関係業者の公共工事からの排除」の推進を決めて以後、各自治体で「暴力団排除条項」が整備された。銀行や証券など業界単位でも取引の解約などを含めた排除施策に取り組んでいる。

大企業や官公庁がまずは率先して取り組むことが欠かせない。

また昨年、大相撲と暴力団の関係が明るみに出た。特にスポーツ界や芸能界は、子供への影響が大きいことを肝に銘じてほしい。

暴力団の排除では、地域の業界ぐるみで取り組む「縁切り同盟」の試みも参考になる。高知県内の飲食業界で「みかじめ料」支払い拒否業者らが、弁護士会の手助けも受けて4年前に結成したのが始まりだ。

警察庁によると、他県、他業者へこの動きが広がりつつあるという。暴力団排除の行動が孤立化しないことが大切だ。

読売新聞 2011年10月06日

暴力団排除条例 関係遮断への報復を阻止せよ

暴力団排除条例が東京都と沖縄県で施行され、同様の条例が全都道府県で出そろった。

一般の企業や個人に対し、暴力団への利益供与を禁じた点が条例の最大の特徴だ。組織を規制対象とした暴力団対策法(暴対法)と併せ、暴力団に“包囲網”を敷く好機とすべきだ。警察は暴対法と条例を積極的に活用してもらいたい。

条例は、企業や個人が暴力団の威力を利用したり、活動を助長したりすると、公安委員会から勧告を受けると規定している。飲食業者が「みかじめ料」を払ったり、ホテルが組員に宴会場を貸したりする行為がこれに当たる。

要求した組員も処罰対象だ。

勧告に従わないと「密接交際者」として企業名が公表される。新たな銀行融資は受けられなくなる。社会的信用を失い、事業の存続も危うくなる。企業にとっては、重い義務が加わったことになる。

暴力団の資金源を断つことが条例の最大の狙いだ。企業側の協力があってこそ効果が発揮されるのは言うまでもない。

問題は、組織に毅然(きぜん)とした対応を取ろうとした企業や国民に対して、警察がどこまで安全を保障できるかだろう。

一般人に、相手が暴力団関係者かどうかを見抜くのは容易ではない。表面上は組織と無関係を装った「フロント企業」などで活動を続ける組関係者は少なくない。

気がつけば深い関係に陥っていて、断ち切ろうとすると脅されたり、嫌がらせされたりする。

実際、今年全国で起きた暴力団の発砲事件の多くは、関係を遮断しようとした企業に対するものだった。暴力団排除の動きを暴力で封じようとする卑劣な行為だ。

警察は、取り締まりを徹底しなければならない。

組織がこうした報復行為に出られないような仕組みを作ることも大切である。警察庁は、報復の防止につながるような暴対法の改正を検討している。

企業や国民の協力を得るためには、警察が国民の生命・財産を暴力団から守り通すという強い姿勢を示すことが重要だ。

どんな行為が利益供与に当たるのか、条例の規定にあいまいな部分があるのは気がかりだ。相談態勢を拡充し、具体例を挙げるなどして丁寧に説明すべきだろう。

暴力団に関する情報照会についても、警察は迅速かつ積極的に応じてもらいたい。

警察、企業、国民が連携し、反社会的勢力の根絶を図りたい。

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