東電合理化策 着実な被害救済に役立てよ

朝日新聞 2011年10月04日

東電財務調査 電力産業全体の改革を

東京電力の財務内容やリストラすべき資産などを査定する政府の委員会が報告書をまとめ、野田首相に提出した。

委員会は、人員削減や給与・年金のカット、福利厚生の圧縮などで合計2兆5千億円強のリストラが可能と見積もった。

東電が当初想定した倍以上の額である。地域独占のなかで長年培われてきた甘い経営感覚が、甚大な被害を引き起こし倒産の危機を迎えるに至ってもなお、ぬぐいきれないことを浮き彫りにした。

報告書は、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働が見込めず、電気料金の値上げもしない場合、東電は最大で8兆円規模の資金不足に陥り、債務超過に転落するとの見通しを示した。

こうした試算が、安易な原発の再稼働や値上げ容認論へとつながらないよう、注意しなければならない。

福島第一原発の廃炉や除染、損害賠償の費用は、試算以上に増大するおそれがあり、東電に重くのしかかる。報告書に基づいて厳しいリストラを課したとしても経営環境はきわめて厳しく、いずれ抜本的な整理は避けられないだろう。

むしろ今回の報告書の内容は、電力業界全体の改革に生かしたい。

例えば報告書は、現在の電気料金の決め方である「総括原価方式」に疑問を呈している。

発電所や送電線などの資産に一定比率をかけた「報酬」を、料金に含めて回収できる制度だ。

もともとは、事業者が設備投資を渋って電力の安定供給が妨げられることのないようにと戦後導入された仕組みだった。経済成長に一定の歴史的役割を果たした面はある。

しかし、経費や資産額が大きいほど利益が出るため、事業者側にコスト削減や効率化への意欲が働かない、と以前から指摘されていた。

今回の査定では、過去10年間の料金算定が、実際にかかった費用よりも約6千億円過剰に見積もられていたと判断した。

オール電化の宣伝費や寄付金、各種団体への拠出金などが「経費」に計上され、料金に含まれていることなどの問題点も、具体的に示された。

こうした収益構造は、規模の違いはあってもほかの電力会社にも共通する。すでに枝野経産相は総括原価方式の見直しに言及している。

今後、政府内のエネルギー政策見直しの過程で、電力業界の高コスト体質にもしっかりとメスを入れる必要がある。

毎日新聞 2011年10月04日

東電調査委報告 合理化後退許されない

東京電力の経営状況を調べている政府の経営・財務調査委員会が、査定結果をまとめた報告書を野田佳彦首相に提出した。

福島第1原発事故の損害賠償に伴う国民の負担を軽くするには、東電自身による最大限の合理化、効率化努力が不可欠だ。調査委は、賠償額を初年度約3兆6000億円、その後年間約9000億円と想定する一方、東電について今後10年間で約2兆5000億円の経費節減、約7000億円の資産売却が可能だと指摘した。東電は、その合理化の確実な実行にとどまらず、不断の合理化努力が求められていることを忘れてはなるまい。

節減可能額は、東電が当初想定した約1兆2000億円の2倍強に当たる。具体策として、13年までにグループの従業員を全体の14%に当たる7400人削減することや、企業年金の切り下げ、役員の辞任・退職金放棄などを挙げた。

東電は賠償への国の支援を得るため、報告書の内容を基に、原発損害賠償支援機構と共同で今月中をめどに、特別事業計画を策定し、枝野幸男経済産業相の認定を得る必要がある。人員削減や企業年金の切り下げなどをめぐって、強い抵抗も予想されるが、国の支援に関する国民の理解を得るには、合理化の後退は許されない。経産相が、役員報酬や従業員の給与に関し「東電は利益が確実に確保される。公務員や独立行政法人と横並びで決まって当たり前」と述べている通り、一段の人件費削減も必要になる。

電気料金制度のあり方についても注文が付いた。現行の「総括原価方式」は、コストに一定の利益を上乗せして料金を算出する。コストの中には寄付金や業界団体への拠出金、出向者の人件費なども含まれていたため、報告書は「原価主義の原則が維持されているか疑義がある」と指摘し、原価の対象は「電気の安定供給に真に必要な費用に限定」するよう見直しの方向性を示した。

報告書は、原発を再稼働しても、電気料金を値上げしないと東電が資金不足になるとの試算も示した。値上げには、料金制度の見直しが前提になるはずだ。報告書を受け取った野田首相は、「電気料金制度のあり方を検討していきたい」と述べた。料金制度は国内全電力会社に共通する問題だ。余計な費用を盛り込まず、料金を適正にするための見直しを急ぐ必要がある。

今回の報告書では、電力会社の地域独占の是非や発送電分離など先送りされた課題も多い。重要な課題であり、政府には、賠償の確実な実施と電力の安定供給に影響が出ることのないよう十分な検討を求めたい。

読売新聞 2011年10月04日

東電合理化策 着実な被害救済に役立てよ

東京電力を、リストラで追い込むだけでは済まない。福島第一原子力発電所事故による被害の着実な救済が重要だ。

東電の資産内容や経営状況を調べる政府の「経営・財務調査委員会」は3日、資産売却や今後10年間の経費節減など、3兆円を超えるリストラを東電に求める報告書をまとめた。

グループ全体で7400人にのぼる人員削減や企業年金の一部カットを示し、役員の退任など経営責任の明確化も迫った。

東電が自らまとめたコスト削減策より厳しい内容だ。損害賠償の支払いで原子力損害賠償支援機構の公的援助を受ける以上、徹底した合理化努力は当然である。

とはいえ、民間企業である東電の財務体力には限界がある。

調査委は当面必要な賠償額について約4・5兆円と見積もった。事故収束や原子炉の廃炉などの追加費用も見込まれる。自助努力だけで賄えないことは明らかだ。

東電への公的資本注入などを含む、抜本的な経営強化策を検討する必要があろう。

差し迫った課題は、政府が支援機構の援助開始を予定通り月内に決めることだ。

それには、報告書をたたき台に東電と機構が策定する「特別事業計画」の扱いが焦点となる。枝野経済産業相らによる計画の認定が援助開始に必要だからだ。

経産相は東電の取引銀行に債権放棄を求めるなど、厳しい姿勢が目立つ。認定の可否は厳正に判断すべきだが、賠償金の支払いに支障が出ないよう、十分留意してもらいたい。

調査委は原発が再稼働せず、電力料金を据え置くと、東電が約2兆円の債務超過に陥るという試算も示した。東電に賠償を続けさせるためにも、安全性を確認できた原発の再稼働を急ぐべきだ。

報告書では、電力料金制度の問題点も取り上げた。東電が料金算出の根拠とする「総原価」は、必要経費に一定の利益を乗せて決められており、実態より割高に設定されてきたと指摘した。

他の電力会社も基本的に東電と同じ料金体系だ。透明性を向上させる論議が必要となろう。

東電は電力の安定供給という社会的な責務がある。先行きを懸念した社員の人材流出が加速し、電力インフラの維持・管理や、福島原発の廃炉に至る中長期の対応がおろそかになっては大変だ。

政府は、東電の経営安定に道筋をつけ、将来不安を払拭することが求められる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/843/