朝日新聞 2011年10月03日
原発政策 まず首相が大方針を
原発・エネルギー政策をめぐって、中長期の計画を見直す作業が動き出した。
内閣府の原子力委員会が9月末、原子力政策大綱の改定作業を再開。3日には、関係閣僚らで構成するエネルギー・環境会議が野田政権下で最初の会合を開き、経済産業省が事務局を務める総合資源エネルギー調査会もエネルギー基本計画の見直しに向けた議論を始める。
野田首相は就任時、菅前政権の「脱・原発依存」を踏襲すると述べた。だが、9月の国連での演説などでは原発の輸出や定期検査後の再稼働について積極的と取れる発言をし、首相がどの方向を向いているのか、分からなくなった。
政権発足後初めての国会論戦でも、原発やエネルギー政策の根幹についての議論は深まらないままだった。
これまで原発推進を担ってきた原子力委員会やエネルギー調査会は、今回の見直しにあたって、従来の政策に批判的な委員を増やしたりしてはいる。
しかし、議論の方向性やそれぞれの役割がきちんと位置づけられているとはいえない。このままだとエネルギー政策の立案が拡散・混乱しかねない。
まずは、野田首相が自ら進めようとする脱・原発依存の全体像をしっかりと語るべきだ。
その際、基本となるのはエネルギー・環境会議が7月末にまとめた「中間整理」だ。同会議は、当時の菅首相が経産省への不信から設けた組織だが、中間整理には原発依存度の低減に向けた課題が網羅されている。
野田首相は同会議をエネルギー政策立案の最高機関として位置づけ、中間整理からの「次の一歩」を踏み出してほしい。
例えば、古い原発の存廃。首相は「老朽化したものは廃炉にする」と語るが、通常40年とされる原発の寿命について現行規定では60年までの延長を認めている。早く、「40年まで」と明示すべきだ。
自然エネルギーの普及では、菅前首相が「2020年代のできるだけ早い時期に発電量の20%に」という目標を掲げた。野田首相も、その方針の堅持を明言してはどうか。
そうした包括的な「野田ビジョン」を示したうえで、脱原発に向けた工程表やコスト試算、法整備の進め方などの検討を調査会や委員会に指示するのが、政治主導というものだろう。
この冬の電力不足対策をにらんで、電力会社にきちんとデータを開示させるといった短期的な課題もある。首相の明確なメッセージを求める。
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毎日新聞 2011年10月03日
原子力政策大綱 議論の土台を明確に
中断していた「原子力政策大綱」の見直し作業を原子力委員会が再開した。「3・11」以降、原発の現実的なリスクがはっきりした以上、もはや以前の延長線上で議論を進めるわけにはいかない。
日本が政策の要としてきた核燃料サイクルをどうするのか。原発増設の基本方針をどう転換するのか。原子力政策のあり方を一から見なおす必要があるのは明らかだ。
しかし、再開後の初会合では、そうした方向性は明確にされなかった。脱原発を念頭にゼロからの議論を主張する委員がいる一方、原発立地自治体や原子力業界の委員からはこれまで通り原発推進を求める声が聞かれた。
このままでは、目的も道筋もあいまいなまま、議論が進むことになるのではないか。それを避けるために、政府はめざす政策の方向性を議論の土台として示しておく必要がある。
野田佳彦首相は就任当初、「原発の新設は現実的に困難。寿命がきたものは廃炉に」と発言し、「減原発」路線の踏襲を明らかにした。
ところが、その後の発言は、必ずしも一貫していない。米国での国連演説では、従来の原発輸出を継続する姿勢を示した。事故の検証や各原発の安全評価が終わっていないのに、定期検査中の原発の再稼働に積極的な姿勢も見せている。
首相の意思がはっきりしないようでは、大綱の議論も迷走する。
政府は原発事故後、国家戦略室に「エネルギー・環境会議」を設置している。7月には「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間まとめを公表している。
この中では、「減原発」を基本理念に掲げた。原子力政策がエネルギー政策の一環である以上、大綱もこの基本理念に沿って議論を進めるのが筋だろう。野田首相にはその点を明確にしてもらいたい。
経済産業省の総合資源エネルギー調査会も「エネルギー基本計画」の見直しを今月から開始する。議論の無駄な重複や混乱を避けるため、それぞれの組織の関係を明確にしておくことも欠かせない。その中で大綱の位置づけもはっきりさせておきたい。
細野豪志原発事故担当相は、原子力委に、まずコストの検証を求めた。「原発は発電コストが安い」という推進側の言い分には疑問符がついており、中立的な立場で検証してもらいたい。
現行の原子力政策大綱を策定する過去の会議では、電力会社や立地自治体などの関係者が利益代表として陳情とも受け取れる発言を繰り返した。今回は、そうした発言を廃し、本質的な議論を促す議事運営を望みたい。
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