国家公務員給与 「8%削減」ほごにするな

朝日新聞 2011年10月02日

公務員宿舎 「官の論理」を押し返せ

これは、まずい。さすがに、野田首相もそう気づいたのだろう。埼玉県朝霞市での国家公務員宿舎の建設を、見直すことを示唆した。週明けに現地を見て、最終的に判断するという。

大震災の被災者、原発事故の被害者が住まいの確保に、いまも苦労している。復興のための増税をこれだけ議論しているときに、どうして?

多くの人々がこんな疑問を抱いていた。首相はきっぱりと、建設中止を決めるべきだ。

ことの発端は、おととしの事業仕分けにさかのぼる。格安の国家公務員宿舎について「宿舎が真に必要な公務員に限定し、原則として賃貸とすべきだ」との意見が出た。その結果、新築を凍結して、宿舎のあり方を検討することになった。

そこで財務省は5年間で21万8千戸を18万1千戸に減らす計画をつくった。朝霞などは建てるが、東京都心の幹部用は廃止する内容だ。昨年末、財務相だった野田首相がこれを認めた。

朝霞は13階建て2棟で850戸。75平方メートルの3LDKで、主に単身者用だという。総事業費は105億円にのぼる。自民党政権時代の09年春に工事契約が結ばれており、建設をやめれば違約金が生じるという。

先週の国会で、野田首相は「変更するつもりはない」と答弁した。安住財務相は「周辺の宿舎の売却で差し引き10億から20億円のプラスが生まれる。これを復興財源にあてる」と繰り返した。

これらの答弁に、問題の本質がくっきりと浮かんでいる。それは「官の論理」そのものだ、ということだ。

大震災があっても、「決まったことだから」と何ごともなかったかのように巨費を投じて計画を進める。億単位の違約金を払ってでも建設を取りやめ、残りのお金を復興費用にあてるべきだとは考えない。

その揚げ句、新築と売却の差額の話を持ち出して、復興に貢献していると胸を張る。事業仕分けでの「原則として賃貸に」という指摘など知らん顔だ。

およそ、「民の視点」は、どこにもない。

民主党政権は政治主導を掲げて、極端な官僚排除に走り、混迷を深めた。野田首相がそれを反省し、官僚の力を上手に引き出す路線をめざすのはいい。

だが「官の論理」に安易に乗って、操られていないか。朝霞宿舎はその象徴に見える。

この見直しを単なる公務員宿舎問題にとどめず、政権を覆う「官の論理」を押し返す第一歩にしてほしい。

毎日新聞 2011年10月04日

朝霞宿舎凍結 この「ぶれ」は評価したい

ささやかながら目に見える決断は就任後、初めてであろう。埼玉県朝霞市に建設予定の大型の国家公務員宿舎について野田佳彦首相は最低5年間にわたり計画を凍結するよう、安住淳財務相に指示した。

この問題への首相の一連の対応にさまざまな疑問がつきまとうのは事実だ。だが、中央官庁がいったん敷いたレールを柔軟に見直したことを今後の政権運営スタイルの足がかりとして、評価したい。

一度動いた事業を止めることはたとえ宿舎2棟でも難しい。首相も改めて実感したのではないか。

計画は米軍基地跡地に地上13階建て2棟(850戸)を建てるもので、建設費は105億円。09年の「事業仕分け」でいったん凍結されたものの首相が財務相当時の昨年末に解禁され、9月1日に着工した。

地元にもともと反対論があったが、さきの国会で野党側が「復興増税を国民に強いる中での公務員優遇のムダ遣い」と追及した。首相は国会で計画変更を否定したがその後一転、見直しを表明した。

ドタバタと言える首相の対応や「計画凍結」の結論にさまざまな議論や批判は避けられまい。そもそも長期的に考えた場合の経費削減効果がはっきりしない。「凍結」では仮に事業が再開されれば改めて出費がかさむし、着工後の中止による違約金発生を懸念する声もある。

また、東日本大震災の状況を重視して見直すというのなら、なぜ9月に一度は着工したのかも疑問だ。批判かわしのパフォーマンスに走った要素は否定できまい。

それでも復興増税導入を前に「官」もある程度の痛みを共有しようとする発想は理解できる。毎日新聞の世論調査では所得税などの復興増税に58%が反対している。政府が本格復興に最低限必要とする5年間、巨大宿舎建設を自重するというのは当然の節度ではないか。

野田内閣は官僚との協調路線を掲げている。それ自体は適切だがあくまで官僚は「使いこなす」ものであり、官庁の敷いたレールを走るだけでは政権は立ちゆかない。ひとつひとつの政策判断を通じ、この原点を確認していくことが大切だ。

朝霞宿舎凍結と同時に安住財務相は東京都心3区の宿舎の原則廃止を提案した。今回の判断を現実の「財源」につなげるためにも宿舎のあり方を幅広く議論すべきだ。

公務員人件費や政府保有株の売却、さらに国会議員自ら身を削る努力など宿舎問題以上に復興財源を左右しそうな課題は多い。今回の決断が復興増税の「目くらまし」と言われないためにも、より一層の税外財源確保の努力を首相に求めたい。

読売新聞 2011年10月04日

朝霞公務員宿舎 説明不足が招いた建設凍結

東日本大震災の復興と被災者支援に取り組んでいるさなかである。建設を見合わせるのは、やむを得まい。

建設の是非が焦点になっていた埼玉県朝霞市の国家公務員宿舎「朝霞住宅」は、少なくとも集中復興期間の5年間凍結することで決着した。野田首相が、安住財務相に指示した。

先の臨時国会で自民、公明両党が建設見直しを求めていた。

ねじれ国会では、自公両党の協力が欠かせない。復興策を柱とする第3次補正予算編成に関して3党協議を呼びかけている以上、国会対策の上でも建設凍結が必要と首相は判断したのだろう。

先月着工した朝霞住宅は、13階建て2棟の計850戸で、建設費は約105億円に上る。

周辺の宿舎を廃止し、建設費を上回る売却益を得る計画だ。850戸のうち半数以上は単身者用で幹部官僚ではなく、自衛官や警察官らの入居を想定している。

老朽化した宿舎の建て替え自体は、おかしなことではない。

問題の発端は2009年11月、行政刷新会議の「事業仕分け」にある。朝霞住宅を含む国家公務員宿舎建設が問題になった。枝野経済産業相は当時、一部を除き公務員に宿舎を提供することに「合理性」はないと強く批判した。

政府は、賃貸住宅の借り上げや家賃補助など他の支援策もあることから、朝霞住宅を含む計画を凍結し、再検討することとした。

ところが、政府は昨年12月、5年間で国家公務員宿舎を15%削減する方針を示す一方で、朝霞住宅建設の凍結解除を決めた。

首相が財務相時代に財務省の政務三役を中心に検討した結果だが、建設する「合理性」を国民に十分説明してこなかった。

その後、震災が起き、被災者の住宅確保が優先課題となった。朝霞住宅については何事もなかったかのように計画を推進しようとしたことが、国民に不信感を抱かせ、混乱を招いたのではないか。

安住財務相は朝霞住宅の方針転換に合わせて、東京都中央、港、千代田3区の公務員宿舎は危機管理担当者用を除き、原則廃止、売却する意向を示した。幹部用宿舎は建設しないという。これで、野党側にも理解を得たい考えだ。

自民党には、今回のてんまつについて「ぶれる政治の一端」と冷ややかな見方がある。だが、状況に応じて従来の政策を柔軟に軌道修正するのは、大切なことだ。

それが、政権運営の“安全運転”も可能にするだろう。

朝日新聞 2011年10月01日

公務員給与 議員が範を示し削減を

震災からの復旧・復興財源を賄うため、公務員給与を2年余りで6千億円削る。そんな法案を政府が国会に提出している。

いずれ国民に復興増税を求めるのだから、身を削るのは避けられまい。

ただし、真っ先に身を削るべきは国会議員である。震災後の4月から月々の歳費を50万円減額してきたが、10月から満額の月129万円余に戻している。

自分たちは満額を受け取り、公務員給与は減らす。こんな理屈が通るはずがない。まずは議員歳費の減額を強く求める。

その次に、公務員給与をどれほど減らすのかという難しい問題がある。法案に沿えば、平均で7.8%減らすことになる。

ところが昨日、もう一つの削減案が示された。人事院が年間給与を0.23%減らすよう勧告したのだ。民間の動向を踏まえて勧告することを定めた法律に従って出してきた。

さて、法案通りに削るか、勧告に従うか。私たちは法案を成立させるべきだと考える。

勧告を採るだけでは、想定している復興財源が不足するからだ。さらに「官の身をろくに切らずに増税するのは許せない」と、国民が復興増税への反発を強めることも考えられる。

だが、法案成立のめどは立たない。6月に提出されたのに、まだ審議に入れない。

理由は「給与削減」と、公務員が制約を受けている労働基本権のうち「協約締結権」を回復する問題が密接に結びついているからだ。

基本権が制約されているため、人事院勧告に沿って給与などの労働条件を決めてきた。協約締結権を回復すれば、民間のように労使交渉で決められる。

だから連合系の労組は権利の回復を宿願としてきた。それがかなうならと、人事院勧告方式から踏み出して、削減法案をのんだ経緯がある。

なのに締結権回復の法案を先送りしたのでは、連合系との合意が崩れ、給与削減もおぼつかなくなる。政府は、両法案をあわせて成立させることを迫られている。

だが、国会では自民党などに、労組の立場が強まる締結権の回復に反対が根強い。

国会の外では、連合とほぼ拮抗(きっこう)する加入人員がいる全労連系が、勧告に基づかない賃下げは憲法違反だと主張している。

自民党と全労連の理解を、それぞれ得るのは容易ではない。だが、政府は誠意を尽くして打開策を探るしかない。

その出発点としても、国会議員の歳費削減が必要だ。

毎日新聞 2011年10月01日

国家公務員給与 「8%削減」ほごにするな

国家公務員の給与カット問題が混乱している。給与を平均で約8%削減する政府の法案は国会で宙づりになっている。その一方で人事院は11年度年間給与について約0・2%減にとどめる改定勧告を行った。

東日本大震災の復興財源対策でもある給与削減がこのまま放置されれば結局は人勧が実施され、法案はほごになるおそれがある。野田佳彦首相が復興増税に国民の理解を求めるのであれば、法案の早期成立に指導力を発揮しなければならない。

政府が6月に提出した給与削減法案は13年度まで月給を役職に応じ5~10%、ボーナスを一律10%カットするものだ。年間約2900億円の財源を捻出し復興財源にあてるとしていたが、今国会でも審議は先送りされた。

こうした中、人事院は従来の民間給与実態に準拠した方式で算定し、月給を0・23%引き下げ、ボーナスについては据え置く勧告を行った。削減額は120億円にとどまる。もともと人事院は給与削減法案が勧告の頭越しに提出された際、これを遺憾とする見解を公表していた。

給与削減法案が成立していない以上、人事院がその職分に基づき勧告を出すこと自体は否定できない。だが、民主党政権はかねて国家公務員総人件費2割削減を掲げ、しかも「官」がまず復興財源確保に努める姿勢を打ち出すことが求められる局面だ。野田内閣はあくまで大幅削減を優先し、法案の成立を追求しなければならない。

その一方で、公務員の労働基本権が制約される中で人勧を経ずに給与が削減されることがあくまで特例であることも、制度的に裏付ける必要がある。

政府は給与削減法案と同時に、国家公務員に労働協約締結権を認める公務員制度改革関連法案も提出している。同法が成立すると現行の人勧制度は廃止され、人事院に代わり新設される「公務員庁」が労使交渉にあたる。

人勧制度は公務員の労働基本権を制約する代償措置だが今回の勧告に見られるように弾力的な給与見直しには限界があり、制度は硬直化している。減額法案を成立させると同時に協約締結権も回復させ、新制度移行の道筋をつけるべきだ。

本格復興予算となる第3次補正予算案が審議される次期国会で政府は8%削減か人勧に沿った見直しのいずれかの選択を事実上、迫られる。

首相は削減法案と公務員制度改革法案の決着に向け、与野党合意に真剣に取り組むべきだ。給与カットが実現しない責任を与野党がなすりつけあう中で、復興増税だけが着々と進むような事態は願い下げである。

読売新聞 2011年10月01日

国家公務員給与 人勧だけの削減では不十分だ

国民に復興増税を求める以上、政府が公務員の人件費削減に最大限努力するのは当然だろう。

人事院が2011年度国家公務員一般職給与について月給を平均0・23%引き下げ、ボーナスは据え置くよう内閣と国会に勧告した。この通り実施されれば、国の人件費は120億円程度削減できる。

人事院勧告(人勧)は、国家公務員が労働基本権を制約されていることへの代償措置である。歴代内閣は勧告を尊重してきた。勧告を実施するには、11月中の給与法改正が必要となる。

ただ、今回は例年と事情が全く異なる。政府が、民主党の政権公約(マニフェスト)に掲げた国家公務員人件費2割削減を実現するために、国家公務員給与削減法案を国会に提出しているからだ。

給与削減法案は13年度末までに限って、一般職の給与を5~10%、ボーナスは一律10%削減する。民主党の支持団体である連合系労組との交渉で内容を妥結し、6月に法案を提出した。

人勧よりはるかに削減幅が大きい。年に人件費約2900億円を削減できるという。

政府・民主党が決定した、震災復興費を賄う臨時増税案の歳出削減策には、公務員人件費の見直しとして、2年間で6000億円が既に見積もられている。

国民が増税で復興に協力しようという時に、公務員の人件費削減は避けられまい。給与削減法案の成立は、復興財源を確保する観点からも望ましいのである。

だが、10月に召集される次期臨時国会で、法案が成立するメドは立っていない。問題は、政府が給与削減法案を労働組合側と交渉した際、国家公務員制度改革関連法案との同時成立を目指すと合意したことにある。

制度改革関連法案は、国家公務員に労働基本権の一部を付与し、労使交渉で給与など勤務条件を決定することを可能にする。労組側が長年望んできた法案だ。

これには、自民党などに反対論が根強い。民間企業なら労組の要求も(おの)ずと会社の経営状況を踏まえた範囲内となるが、倒産しない政府の場合、要求に歯止めが利かないという懸念が強いからだ。

給与削減法案の成立を先行させれば、労組側の反発は必至だ。人勧を無視すると、憲法上の問題が生じるとの指摘もある。

人勧を尊重するのが原則の現行法制度の中で、大幅な人件費削減を実現しなければならない。野田首相の調整力が試される。

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