原発事故調法案 国会の調査能力が試される

朝日新聞 2011年10月01日

原発事故調 新しい国会の試金石に

国会に東電福島第一原発事故の調査委員会を設ける法律が、きのう成立した。民間の有識者による調査機関が国会にできるのは憲政史上初めてだ。

三権分立のもと、行政府をチェックするのは立法府本来の仕事であり、その機能を果たすべき舞台をしつらえた格好だ。

政府には、「失敗学」を提唱する畑村洋太郎東大名誉教授をトップとする調査・検証委員会がある。12月に中間報告を予定している。

ただ、法律で権限が保障されているわけではない。相手方の協力を得るため、これまで延べ275人からのヒアリングも非公開でやっている。

自民党など野党からは「政府がつくった委員会が、本当に政府の失態に踏み込み、追及しきれるのか」という懸念が示されていた。私たちも同意見だ。

これに対し、国会の事故調は上部機関として設ける国会議員20人による協議会を通じて強制的に証人喚問ができる。国政調査権に基づき、うそを言えば偽証罪での告発もできる。議事は原則公開される。

強力な権限と透明性を武器に、政府の調査・検証委の成果を踏まえつつ、真相に迫ることが期待される。

だが、大きな懸念がある。

野党の設置要求に、民主党が応じてこなかったのは、菅前首相らの初動対応などに絡めて、政権批判を展開されることを警戒したからだ。

一方で、与党は大津波や全電源喪失に十分備えてこなかった自民党政権下の原発行政の問題点に矛先を向けたい。

こんな与野党の思惑が、ねじれ国会で激突すれば、責任の押しつけ合いや非難合戦になってしまう可能性がある。

ここは明確にしておこう。

事故調が最優先で取り組むべきは、誰が悪いのかという犯人捜しではない。綿密にデータを検証し、二度と今回のような惨事を起こさないための教訓をくみ取ることだ。

それは、国際社会に対する重い責任でもある。

まず、この認識を与野党が共有し、視野の広い学識経験者10人の委員選びから協調すべきだ。各党は「党派的な立場から委員会を政治的に利用してはならない」という申し合わせを守らねばならない。

事故調が、後世の歴史家の検証に堪える成果を残せるかどうか。国会の実力が試される。

うまく行けば、国民の政治不信を和らげるだけでなく、新しい国会の役割を切り開く貴重な先例になる。

読売新聞 2011年09月30日

原発事故調法案 国会の調査能力が試される

東京電力福島第一原子力発電所事故の原因などを、国会が独自に調査することになった。

政府とは違う観点から事実を究明し、教訓を引き出すことができるか。国会の調査能力が試される。

与野党合意に基づく「福島原発事故調査委員会」の国会設置法案が、衆院を通過した。30日に参院で可決、成立する。

調査委は、次の臨時国会で設置される予定だ。メンバーには、与野党の推薦により、民間の有識者10人が充てられる。参考人招致や、政府と東電の資料分析を踏まえ、半年以内に報告書をまとめる。

国会が専門家を起用し、事故を調査することには意義がある。

政府も畑村洋太郎東大名誉教授を長とする事故調査・検証委員会を設け、調査を進めているが、その調査権限は明確ではない。

国会の調査委の場合は、必要に応じ、上部機関の「両院合同協議会」が議院証言法に基づいて書類の提出を求めることができる。政府や東電は正当な理由がないと、提出を拒むことができない。

設置を求めていた自民党が言うように「政府から独立し、強い権限を持つ組織」となるわけだ。

解明すべき点は多い。

事故直後、原子炉からの排気(ベント)が遅れたのはなぜか。菅前首相の原発視察が、東電の事故対応に影響したかどうか。菅氏による判断や東電や経済産業省への指示の是非が問われよう。

菅氏は事故の早期収束に失敗した理由として、東電の不手際を強調してきたが、政権による「人災」の側面はなかったのかどうか、突き止める必要がある。

放射能拡散の情報開示が遅れた経緯も依然、不明瞭だ。米国などが申し出ていた機材、人材提供を政府はどこまで生かせたのか。

事故を防止できなかった東電や経産省、原子力安全委員会の責任についても、自公政権にさかのぼって点検しなければならない。

国会が、民間人による調査機関を法律に基づいて設置するのは過去に例がない。与野党は調査委の運営の在り方について十分に意思疎通を図り、連携して、調査委を支えることが肝要だ。

与野党は法案提出に当たって、「調査委を政治的に利用し、これに政治的影響を与えてはならない」などと申し合わせた。「政治ショー」に陥らないよう、客観的な調査・検証であるべきだ。

与野党の協調で、調査委が成果を上げることが、国会の信頼回復にもつながるはずだ。

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