毎日新聞 2009年10月19日
長妻厚労相 得意分野で状況突破を
子ども手当の財源確保に四苦八苦し、後期高齢者医療制度廃止を3年棚上げにするなど、期待値が高いだけに苦戦を強いられている印象が強いのが長妻昭厚生労働相である。反対していた日本年金機構も一転して来年1月に発足することになった。自公政権時代の施策が足かせとなっている面はあるが、得意分野で状況を突破し、課題山積の社会保障改革に取り組んでもらいたい。
民主党の公約は社会保険庁と国税庁を統合して「歳入庁」を新設することで、年金機構には当初から反対だった。しかし、政権が発足した時点で、すでに民間からの採用内定者が1078人もおり、移転先のオフィスも決まっていることから、苦渋の選択をせざるを得なかった。
社保庁は全国に300以上の出先機関があり、職員の大半が労働組合に加入している。過去に年金記録を紙台帳からオンラインに切り替える際、職員が反発し「コンピューター入力は1日5000タッチまで」「45分働いたら15分休憩」などの覚書を交わしてきたという。そうしたツケが噴出したのが年金記録問題とも言われる。長妻厚労相は10年度予算に約1800億円を投じて「年金記録対応チーム」を発足させ、膨大な全件記録の照合作業に当たらせるという。たしかに国民の信頼がなければ年金制度は成り立たず、「消えた年金」などの解明は不可欠だ。しかし、負の遺産の清算にかける時間と労力(予算)に余裕がないことも国民に理解を求めるべきではないか。
一方、新組織移行のトゲとなっているのが、懲戒処分歴のある職員の扱いである。対象となる約790人は厚労省や他省庁への配属を進めているが、それでも数百人規模の分限免職(解雇)を出す可能性がある。完全失業者数360万人という厳しい雇用状況からすればまだ公務員は恵まれているようにも思えるが、対象者には業務に精通したベテランが多く、年金問題とは関係ない交通違反などで処分された人も含まれている。歴代社保庁幹部の監督責任は問われたことがないのにである。
年金機構は歳入庁創設までの「つなぎ」と長妻厚労相は言うが、1000人以上の民間の血を入れる改革には期待すべきことも少なくない。民間の経営センスを活用し、業務の外部委託や記録管理システムの電子化などを進めれば、合理化や利便性の向上を図ることができるだろう。民間から採用される職員のうち350人は管理職である。企業の人事・労務部門の管理職だった人が多く、不祥事が続いた社保庁職員を使いこなして長年積もったあかをふるい落とすことが期待される。年金への信頼回復の第一歩にしたい。
|
読売新聞 2009年10月20日
年金機構発足 制度の抜本改革も忘れるな
長妻厚生労働相が年金問題に取り組み始めた。手腕が期待される分野だが、課題が山積しており前途は多難だ。
まず長妻厚労相は、社会保険庁の後継組織「日本年金機構」を前政権の方針通り、来年1月に発足させることにした。
民主党は社保庁と国税庁を統合する「歳入庁」設立構想を掲げており、新機構の凍結や白紙化も検討したようだが軌道修正した。
妥当な選択と言えよう。
すでに民間から約1000人の採用も内定し、準備が相当に進んでいるという事情もある。だがそれ以上に、社保庁の数々の不祥事の根源を顧みれば、年金機構はきちんと発足させるべきものだ。
年金機構は非公務員型の公法人である。能力不足の職員でも身分が保障されてきた公務員組織ではなくなる。社保庁のような仕事ぶりは許されない。
幹部ポストにも多数の民間経験者が加わり、組織運営に第三者の目が入る。活力をもって国の業務を担うという、新形態の組織を機能させる意義は大きい。
予定通りの発足を決めたことで長妻厚労相は問題ある社保庁職員の処遇という難問に直面する。
年金機構は懲戒歴のある約800人は採用しない方針だ。民間企業の解雇にあたる分限免職が適用される可能性が高い。その際に甘い対応をすれば、民主党の支持母体である連合傘下の職員労組に配慮したと見られよう。
長妻厚労相は有識者による「年金記録回復委員会」も発足させ、2年間で集中的に年金記録の徹底調査を行うと表明した。来年度予算の概算要求に1779億円を盛り込んだ。
ずさんな年金記録の回復作業に力を注ぐことは重要だ。ただし、巨額の予算を投じるだけの効果的な記録確認ができるかどうか疑問の声もある。確認作業の限界について、いずれは見極めが必要になるだろう。
また、2年間を記録確認のみに費やされては困る。民主党は、年金制度の改革論議を政権3年目以降の課題としているが、あまりに悠長ではないか。
消費税率の引き上げと不可分である年金抜本改革の議論に着手することはもちろん、現に直面している無年金者対策のために最低加入期間を10年に短縮するなど、現行制度の手直しも急がなくてはならない。
年金制度の信頼回復には、組織再生、記録の確認、制度改革のいずれも不可欠である。
|
この記事へのコメントはありません。