沖縄返還に関わる「密約」の文書は、「秘密裏に廃棄された可能性が否定できない」。東京高裁はそう認定した。
密約関連文書の漏えいに関わったとして、有罪が確定した元毎日新聞記者の西山太吉氏らが起こした民事訴訟の判決だ。
訴訟自体は、「文書は存在しない」と主張した国の逆転勝訴となった。同時に、外務省などによる外交文書のずさんな管理を指摘した判決である。
西山氏らは、米軍用地の原状回復補償費400万ドルや、米短波放送中継局の国外移転費1600万ドルを日本側が肩代わり負担することを日米間で申し合わせた文書などの開示を国に請求した。
しかし、「不存在」を理由に開示されず、訴訟で不開示決定の取り消しなどを求めていた。
1審は、外務省などが文書を十分に探しておらず、「国民の知る権利をないがしろにしている」として、国に開示を命じた。
これに対し、高裁が重視したのは、政権交代後、外務省が実施した密約問題の調査だ。報告書は「密約」の存在を認めたが、文書そのものは見つからなかった。
判決はこの調査を「網羅的で徹底したもの」と評価し、国が文書を「保有していると認めるに足りる証拠はない」と結論付けた。
米側では、問題の文書が確認されている。交渉当事者だった外務省の元局長が、1審の法廷で、肩代わり負担に合意し、関連文書にサインしたと証言した。
それにもかかわらず、日本側に文書が存在しないのは、国の外交文書の管理に重大な落ち度があったことを意味する。元局長は、文書の写しについて「日本側の立場では必要はないので、処分したと思う」とも語っている。
この日の判決は、密約の存在自体は認めた。そのうえで、肩代わり負担を一貫して否定してきた日本政府の立場上、「関連文書を秘匿する意図が強く働いていたことがうかがわれる」との見方を示した。的を射た指摘といえる。
外交には秘密が付きものだ。やり取りの内容が漏れれば、相手国との信頼関係が崩れ、日本の国益を損なうこともある。
だが、一定の年月を経た後、機密文書も公開し、後世の人々が検証できるようにすることが、外交に対する国民の信頼を確保するうえではぜひとも必要である。
外務省は現在、作成から30年を経過した外交文書について、原則的に公開している。密約問題を教訓に、この徹底を求めたい。
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