津波対策報告 震災の教訓を実践に生かそう

毎日新聞 2011年09月30日

津波対策報告書 「5分で避難」実現しよう

あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討すべきだ--。東日本大震災をきっかけに新たな地震・津波対策を議論してきた中央防災会議の専門調査会が最終報告をまとめるに当たって示した基本的な考え方だ。

3月の大震災では、避難の遅れから多数の津波被害者が出た。ところが、沿岸地域にある自治体の4割以上で、防災計画に津波対策が盛り込まれていない。津波に対する警戒が全国的に甘い現状が見える。

津波が発生した場合、原則として歩いて5分程度で安全な場所に避難できるまちづくりを目指すべきだと調査会は提言した。東海・東南海・南海地震など巨大地震が起きた場合、5分以内に津波の第1波が到達するとみられている。想定に沿った数値目標でもある。

調査会の提言に従い、国の防災基本計画、さらには各地域の防災計画が見直される予定だ。しっかり津波対策に取り組んでもらいたい。

徒歩避難を原則とする以上、津波避難ビルの指定や整備、高台への避難路の確保がまず急がれる。学校や公共施設は特に優先度が高い。

一方で、提言は地域の実態に合った対応も求めた。地形によっては徒歩での避難は現実的でないし、高齢者や障害者も難しい。自動車を使う場合、渋滞を招かないようにルール作りも必要だろう。各地域で、きめ細かい議論を進めてほしい。

5月から始まった調査会は、東日本大震災の被害が従来の想定結果とかけ離れていたことへの真摯(しんし)な反省からスタートした。

地震や津波の被害想定を見直すため、古文書の分析や海岸地形の調査など「過去にさかのぼって科学的知見に基づく調査を進める必要がある」と打ち出したのは当然だ。地震学や考古学など縦割り型の研究だけでは限界がある。専門家は、しっかりと受け止めてほしい。

津波対策を2段階のレベルで行うべきだとの考え方も理解できる。甚大な被害をもたらす巨大津波と、それより発生頻度が高い50~150年に1度の津波である。

巨大津波には、「逃げる」を軸に避難施設など総合的な対策を確立する。一方で、従来想定レベルの津波には、防波堤などの整備も必要だとする。防災教育などのソフト対策とハード整備を両立させ、地域の防災力を高めることが大切だ。

最終報告は、津波対策に重点を置いたが、特に首都直下地震については、関東大震災クラスを想定しての検討が新たに必要だとした。また、広域避難などに備えて災害対策基本法など関連法の見直しを政府に求めた。迅速に対応してもらいたい。

読売新聞 2011年09月29日

津波対策報告 震災の教訓を実践に生かそう

巨大津波の襲来になすすべのなかった手痛い経験を、教訓として生かさねばならない。

東日本大震災を受けて政府の津波対策を検討してきた中央防災会議の専門調査会が、報告書をまとめた。

政府や地方自治体に、「あらゆる可能性を考慮した最大級の巨大地震・津波」を前提として防災対策を取るよう求めている。

旧来の防災対策に、猛省を迫る内容と言えるだろう。

東日本大震災では、防潮堤が各地で無残に壊れた。津波警報は予測精度に問題があり、逃げ遅れた住民が津波に次々にのまれた。死者・行方不明者は2万人近い。

政府が、この地域で想定していた被害の10倍近くに及ぶ。

これまで政府は、「最大級」への対応に腰が引けていた。大規模な防災対策に巨額の予算がかかるためだ。「社会的合意を得るのは容易でなく、過大な対策となる可能性があった」としている。

津波想定に対する考え方を根底から変えねばならない。

報告書は、防潮堤などの施設を強化するハード面と、避難などソフト面の両方を組み合わせた対策が大切、としている。

もっともな指摘だ。海岸線に防潮堤を築くには限界がある。

防潮堤で、まずは津波を食い止める。巨大津波が乗り越えてくる場合に備え、迅速かつ確実に住民たちが避難する。それによって被害を最小限にする。

難しいのは、「最大級」をどう定めるかだ。

政府は、数千年単位の過去まで遡って地質などを調べ、どんな地震が起きるかをまず検討するという。これに海岸地形を加味し最大津波を決める。膨大な作業となるが、急いでもらいたい。

当面は、来夏までに、関東から九州まで広い範囲で津波被害が懸念されている東海、東南海、南海の三連動地震で結論を出す。

しかし、それを、ただ待っているわけにはいかない。政府や自治体は、現行の対策の不備を抜本的に見直すべきだろう。

内閣府によれば、国内の海岸に面した653市町村のうち、津波の被害予測を記述した「ハザードマップ」を作成しているのは約半数にとどまる。避難場所の確保も同様で、対応が遅れている。

役場や警察、消防署など、重要な防災拠点が、津波の襲来予想地域に集中した自治体もある。

予算も人員も限られた中で何に優先的に取り組むか、政府も自治体も知恵を絞らねばならない。

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