復興増税協議 野党も責任意識を持て

朝日新聞 2011年09月29日

復興増税 自民も財源に向き合え

野田政権が、東日本大震災の復興策を盛り込む第3次補正予算の編成について、その財源案をまとめた。

増税額を11.2兆円としたうえで、歳出の見直しや政府資産の売却でまかなう金額を当初計画から2兆円増やし、増税を9.2兆円に抑えることを目指す。法人税の減税を12年度から3年間見送る一方、消費への影響を考えて所得税の増税は13年1月から、住民税増税は14年6月からに遅らせる。

「増税外」の2兆円上積みでは、日本たばこ産業(JT)の政府保有株をすべて売却することをかかげ、政府が持つ資源開発会社の株も売却候補とする方針だ。それぞれ国内葉タバコ農家の保護策やエネルギー政策に波及する問題である。所得税や住民税の増税開始を先に延ばす必要があるかどうかを含め、詰めるべき課題が少なくない。

ただ、財源の概要を固めないと補正予算の編成も遅れ、被災地の復興に影響が出かねない。与野党はすぐに協議を始めるべきだ。「震災復興に伴う負担増を将来の世代に先送りしない」という政府の方針に沿って、さらに工夫の余地はないか、知恵を出し合ってほしい。

気になるのは野党、とりわけ自民党の姿勢である。

石原伸晃幹事長は衆院予算委員会で、「現役世代だけで復興費用を負担するべきなのか」と疑問を呈した。再建する道路や港湾、防波堤などからは将来の世代も恩恵を受ける。60年かけて返済する通常の建設国債を発行して将来世代にも負担してもらえばよい、という考え方だ。

自民党からは同様の主張が相次いでいるが、日本の財政難を思い起こす必要がある。国債を含む債務残高は国内総生産の約2倍に達し、欧米各国より深刻だ。借金頼みの財政運営は限界に来ている。政府債務問題が世界経済の焦点となる中、日本の財政規律も問われている。

「復興のために発行する国債は従来の国債と区別して管理する」「復興債の償還(返済)の道筋については第3次補正予算の編成までに検討する」。民主、自民、公明3党はすでに、こうした内容を盛り込んだ合意文書をかわしている。その趣旨が「負担を将来につけ回さない」ことにある点は、石原氏もよくわかっているはずだ。

被災地の復興を最優先に、与野党が協力する。そのために財源にもきちんと向き合う。当然のことだ。石原氏の主張が、臨時増税への反対論が根強い民主党を揺さぶることを狙ったとすれば、あまりにさびしい。

毎日新聞 2011年09月29日

復興増税協議 野党も責任意識を持て

東日本大震災の復興費をまかなうための増税をめぐり、ようやく政府と民主党の合意案ができた。納税者の負担をできるだけ軽くする努力は当然必要だが、欧州の債務問題に端を発した昨今の世界的な市場の動揺など、財政をとりまく環境にも十分、注意する必要がある。スピード感も大事ということだ。焦点は野党との合意形成に移る。迅速で建設的な議論を与野党双方に求めたい。

増税の対象は、所得、法人、住民の各税にたばこ税を加え、所得税の上げ幅の圧縮を図った。開始時期は所得税を13年1月とする一方で、増税反対派に配慮し、住民税を政府案の13年6月から1年先送りした。

増税の開始時期はできるだけ早い方がよいというのが私たちの主張だ。「景気が回復してから」という意見がよく聞かれるが、いつその時期が来て、いつなら増税できるのかが分からないのでは、財源としてあてにすることはできない。

むしろ、復興需要による景気の押し上げ効果が大きいうちに増税した方が影響は小さくてすむだろう。復興作業と同時進行での増税ならば、目的がはっきりして納税する側としても納得しやすい。

所得税の増税期間を当初の「10年」から「10年を基本」に変更し、長期化に含みを持たせたことも心配だ。期間を長くすれば、その分、年度ごとの負担は軽くなるが、今の子どもたちが大人になっても増税が続いているというのでよいのだろうか。

高齢化と労働人口の減少により、将来世代の負担増はすでに避け難いものとなっている。可能な限り、追加をなくすことが今の政治を担う者たちの任務というものだ。

一方、増税額をさらに圧縮するため、政府が保有する株式などの売却を拡大し、税外収入を2兆円上積みすることも目指すという。

単年度の増税額を抑える策としては、復興債の償還期間を赤字国債なみに延ばす案も、野党内で根強い。

だが、ここで出発点に戻って考えてみたい。今回のような災害に対する歳出は、やむを得ない緊急事態ということで赤字国債や建設国債を発行してもよさそうなものだ。それができないのは、すでに震災前の時点で、国の借金がとてつもなく大きくなってしまったからである。

多額の財政支出を必要とする不測の事態は今後も起こりうる。それを考えれば、追加の借金は早期に完済することを原則とすべきだろう。

長期金利が1%近辺という歴史的低水準にとどまり続ける保証もない。財政・金融面においても、「想定外」を排除し、早め早めに手を打つのが責任ある政治だ。野党も当然、その一翼を担う。

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