プーチン氏 権力継承が強引すぎる

朝日新聞 2011年09月27日

プーチン氏 権力継承が強引すぎる

ロシアのプーチン首相が、来年3月の大統領選に立候補し、返り咲きをめざす。

想定されていたとはいえ、あまりに強引な権力継承であり、ロシアの民主主義の行く末を危惧せざるを得ない。

プーチン氏は2008年まで2期8年、大統領を務めた。憲法が連続3選を禁じているため、前回選挙では腹心のメドベージェフ氏に譲った。そして自身は首相になり、「双頭政権」で実権を振るってきた。

その2人が来春、入れ替わるという算段だ。次期大統領から任期は6年に延びるため、24年間、権力の座にあり続ける可能性さえささやかれている。

確かに、プーチン氏はソ連崩壊後の社会の混乱を安定に導いた。主要産業の石油や天然ガスなどの高値で、経済を急成長させた実績もある。

だが、ロシアはいま転換期にあり、これまでの統治モデルは時代遅れになっている。

たとえば、安定のために経済への国家関与を強め、出身母体の治安機関などで野党やメディアを厳しく締めつけたことは、汚職や腐敗を深刻化させた。資源に過度に依存する経済も、世界の景気動向に左右され、国民生活を不安定にしている。

こうした事情を反映して、12月の下院選に向けて、プーチン氏が率いる与党「統一ロシア」の支持は伸び悩む。

なのに、プーチン氏は「双頭政権」を微調整して乗り切りを図ろうとしている。

そのために用いる手法は、どうしても強権的にならざるを得ない。与党を脅かしそうな政党は、書類の不備などを理由に下院選から締め出す。御用政党をつくって、野党勢力に流れそうな批判票を取り込む。過去の選挙でさんざん使われた策が、またも繰り返される。

選挙戦本番でも野党陣営には、ほとんど運動の機会を与えない。そして、いつものように政府機関やメディアが与党を強力に後押しするパターンで勝利を狙うのだろう。

こんな政権では、十分な正統性を得られない。逆に国民の不信はつのり、いまロシアに必要な「経済の現代化」や「法治国家の確立」、「司法の独立」といった改革の実現を、一段と困難にしてしまう。

ロシアがソ連共産党の支配を終わらせ、民主国家として再出発してもう20年になる。

「プーチン流選挙」が通じるようでは、民主主義が大前提の主要国首脳会議(G8)に、ロシアが入っていることへの異議がさらに強まるに違いない。

毎日新聞 2011年09月28日

プーチン返り咲き 権力のたらい回しだ

ロシアのプーチン首相が、来年5月から大統領に返り咲くことが確実になった。08年の憲法改正で大統領任期が現行の4年から6年に延長され、最長で2期12年の長期政権となる可能性がある。

24日の政権与党「統一ロシア」の党大会で、メドベージェフ大統領はプーチン首相を党の次期大統領候補に提案。プーチン氏もこれを受け入れ、来年3月の次期大統領選で当選すれば、5月の就任後、メドベージェフ氏を首相に指名する方針を明言した。反政権勢力に有力な大統領候補はおらず、政権側の筋書きが覆る可能性は今のところないといってよいだろう。

これが可能なのは、前回00~08年の大統領時代、プーチン氏が政権に盾突く政治勢力をメディアや行政を使って封じ込めてきたからだ。プーチン氏が言うように「数年前から2人で合意していた」路線だとすれば、メドベージェフ大統領、プーチン首相の「双頭体制」の4年間は、プーチン氏が憲法の大統領連続3選禁止規定に触れないための方便に過ぎなかったことになる。大統領と首相の「交代」は権力の「たらい回し」ともいえ、批判は避けられない。

プーチン氏は前回の大統領時代、隣国ウクライナとの対立から天然ガス供給を止めるなど、資源を武器にした「恫喝(どうかつ)外交」と批判された。また米国の一方的外交を批判して激しく対立した。メドベージェフ政権になって米露関係が「リセット」されるなど軟化もみられたが、一方で08年のグルジアへの軍事介入など強硬な側面も消えてはいない。次期プーチン政権には、国際社会の責任ある「大国」として、節度ある建設的な外交姿勢を望みたい。

来年9月、ロシア極東のウラジオストクで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、プーチン氏が前回の大統領時代に提起したものだ。極東経済や北極海航路の開発を視野に、アジア太平洋地域へのロシアの本格的参入に向けた戦略の重要な節目を、再び大統領となって主宰することになる。

北方領土問題では、色丹島、歯舞群島の2島返還を明記した56年日ソ共同宣言の有効性を、00年にロシアの指導者として初めて公式に確認したのが当時のプーチン大統領だ。国後島、択捉島を含む4島返還には反対しているが、対アジア戦略の中での日露関係強化の重要性を理解している指導者でもある。

日本は、プーチン氏の「復活」を好機とすべく、早急に対露戦略を立て直す必要がある。力関係を冷徹に見極める合理的な実務家でもあるプーチン氏と渡り合うには、日本側の政権の安定化も急務だ。

読売新聞 2011年09月28日

ロシア次期政権 不安も伴うプーチン氏再登板

ロシアのプーチン首相が、政権与党「統一ロシア」の党大会で、来年3月の大統領選に出馬する意向を表明した。

プーチン氏は、2008年まで2期8年間、大統領を務めていた。返り咲けば、異例の長期政権となろう。

現大統領のメドベージェフ氏は今度は首相になるという。「以前からの2人の合意」に基づくとされるが、理解しがたい権力の座の交換である。

メドべージェフ大統領は、司法の独立や、先端産業の育成など経済改革の必要性を訴えてきた。その成果はまだ上がっていない。大統領の続投に期待した改革派知識人は、失望しているだろう。

懸念されるのは、次期政権の統治手法である。

プーチン氏は大統領時代、強力な治安体制を敷くとともに、経済成長を達成して、国内総生産が低下の一途をたどったエリツィン政権時代の混乱を収拾することに成功した。国民の間で今も比較的高い人気を誇る所以(ゆえん)だ。

一方で、主要産業を国家管理下に置いて経営陣に腹心を送り込んだ。意に沿わない企業を超法規的に潰すこともいとわなかった。

メディアは統制され、反政府的な記事を書く記者が射殺される事件も起きた。北カフカスの少数民族に対する支配も強化された。

大統領に復帰後、同様の手法を踏襲するだけでは、ロシア社会が直面する難題は解決できまい。

肝心の経済は、天然ガスなど資源に依存する体質から抜け出せていない。財政規律を重視する改革派の副首相が突然解任されたことも、前途に不安を残す。

最近は、国外脱出を考える国民が増えているという。民主化や経済の構造改革なしには、政権はいずれ行き詰まるだろう。

日本としては、プーチン氏の大統領復帰で北方領土問題が動き出すのかを、注視したい。

昨年11月、メドベージェフ大統領は、ソ連時代を含めロシアの国家元首としては初めて、北方領土の国後島を訪れている。日本の民主党政権の混迷につけいる形で、4島返還要求に冷水を浴びせる動きだった。

プーチン氏も、「平和条約締結後に、歯舞、色丹の2島を日本に引き渡す」とした1956年の日ソ共同宣言の有効性を認める立場にとどまっている。ただ、台頭する中国への牽制(けんせい)から、対日関係を重視する、との見方もある。

交渉を前進させるための戦略的な対露外交を構築すべきだ。

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