毎日新聞 2011年09月27日
予算委員会質疑 首相は発信を怠るな
野田内閣が発足して初の国会での予算委員会質疑が始まった。
野田佳彦首相が就任して以来、内外の課題をめぐる発信や説明は決して十分とは言えない。復興行政のあり方や原発事故を踏まえたエネルギー政策など首相のかじ取りを点検するうえで予算委という舞台は重要だ。中身のある論戦に努めてほしい。
衆院予算委での石原伸晃自民党幹事長の質問はもうひとつ食い足りなかった。石原氏は首相の諸政策への考え方が国民に肉声として伝わっていないと批判した。だが、会期延長などの問題に時間を割いた結果、肝心の「首相は何を考えているのか」になかなか焦点が定まらなかった。
政権発足から1カ月近くを経て、首相の発信が乏しいのは石原氏の指摘通りだ。さきの所信表明演説は重視する課題を並べた印象で、政策の方向が必ずしも示されたものではなかった。記者団の質問に答える「ぶらさがり」にも応じないままだ。
「有言不実行」が目立った鳩山、菅内閣の後だけに「不言実行」の方がいい、との評価もあるのかもしれない。だが、首相が十分に国民に説明しないまま政権が運営されかねない危うさが早くも感じられる。
その一例が原発事故やエネルギー政策をめぐる首相の一連の言動だ。首相は所信表明で「中長期的には、原発への依存度を可能な限り引き下げていく」と述べたうえで、地元との信頼関係を前提に定期検査後の原発再稼働を進める考えを示した。
ところが、国連の原子力安全会合で行った演説で首相は原子力関連技術の向上と原発輸出の継続を強調した。一方で原発への依存度を下げる方向性には直接ふれず、当面の原発利用継続に重心を置いた。
国内と国外で発言を使い分けしながら菅内閣が進めた「脱原発依存」路線の軌道修正を図っているのだとすれば、首相の掲げる「正心誠意」にももとる。26日の質疑で首相は一連の言動について問われ、基本的に方針は不変と答弁した。では短期、中長期のエネルギー政策にどんなイメージを描いているのか。国会でより踏み込んで語るべきだろう。
国際金融不安と連動した円高、株安に経済、金融政策でどう対処するかも、内閣の課題として急浮上している。本格復興に向けた第3次補正予算案決定を目前に控え被災地の住民集団移転の支援策や復興特区の具体的中身など、今こそ国会で突っ込んで議論すべきテーマは多いはずだ。
首相は「余計なことは言わない」など3原則を政権運営の基本に据えているという。安全運転の戒めが国民や国会への説明を怠る論理にすり替わらないよう、くれぐれも留意してもらいたい。
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読売新聞 2011年09月27日
衆院予算委 安全運転だけでは物足りない
震災復興をはじめ難題が山積している。野田首相は与野党協議への道筋を確かにするため、政府・与党の意思統一にもっと努力すべきである。
野田政権の発足後、初の本格的な国会論戦の場である衆院予算委員会が始まった。
野田首相は、野党の質問に対し、「安全運転」の無難な答弁に終始した。衆参ねじれ国会を乗り切るには、野党の協力が不可欠と考えるからだろう。
民主、自民、公明の3党合意に関して首相が、「与野党協議を『正心誠意』行い、結論を出して政治を前に進めるのが基本中の基本だ」と述べたのも妥当だ。
自民党の石原幹事長は、震災復興にスピード感がないとし、政府・与党が第3次補正予算の財源に充てる臨時増税問題で結論を出さないことには与野党協議に入れない、として対応をただした。
首相は、「大詰めの段階で、私自身、リーダーシップを振るっていきたい」と述べた。責任を持って結論を導いてもらいたい。
政府・与党には依然として、増税に慎重論が根強く、意見を集約できていない。
増税に慎重な小沢一郎元民主党代表に近い議員が「まずは歳出削減、税外収入の確保」と激しく抵抗しているからだ。それに努力することは無論必要だが、増税を避けてはならない。
増税実施を代表選の公約に掲げた野田首相を選んだことで、増税問題は決着済みではないか。
欧州の財政危機をきっかけに、世界の景気が減速し、超円高に歯止めがかからない。首相が、円高対策や中小企業への金融支援など経済対策に力を入れる考えを強調したのは当然だ。
日本経済の再生をはかるためにも、安全を確保した原発は、早期に再稼働すべきだろう。
前原民主党政調会長は、最新型の原発は福島第一原発より安全性が高く、事故防止措置もとったとして年内の再稼働を求めた。
枝野経済産業相が、「結論ありきと誤解されるようなやり方では住民の理解は得られない」として時期を示さなかったのは疑問だ。首相は、来夏までに可能なものは再稼働すると述べている。
野田首相が、就任以来、報道機関の日常的な取材に応じない姿勢も問題になった。
首相は、「国民にきちっと説明責任を果たしていくのは、政治家の重要な責任だ」と語った。それなら、国民との接点でもある取材の機会を拒むべきではない。
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